2018/09/28 繁盛の黄金律

店舗調理を限定しないと、生き残れない(後編)

現場でやる必要のない調理が山ほど出てくる -前回は、店舗調理は外食業にとっての、最終・最強の武器ですが、何でもかんでも店舗で調理すればいいというものではありません、という話をしました。

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Vol.85

現場でやる必要のない調理が山ほど出てくる

前回は、店舗調理は外食業にとっての、最終・最強の武器です、しかし、何でもかんでも店舗で調理をやればいいというものではありませんよ、という話をしました。今回はその続きです。

はっきり言って今の外食業は、やらなくていい調理を店舗に残しすぎています。「そこまで店でやる必要はあるのか」というような調理作業まで、店で行っています。店主が調理のほとんどを店に残している理由は大きく次の2つです。

  1. 集中化や外注化をすると、コストが高くつく。
  2. 機械化して店舗調理を軽減するためには、新しい投資をしなければならない。

2つとも結局、コストが高くつくからやらない、という話なのです。「まあ、今のままで店が回っているからいいか」ということで、問題を先延ばししているだけの話です。

このことで、従業員、とりわけキッチンの調理人にどれだけ多大な負荷を与えているか。店主も心の中ではわかっているのですが、「とりあえずは現状維持」路線を変えません。この負荷に耐えきれず、離職する人があとを絶ちません。それよりも前に、「きつそう」というイメージを持たれて、この世界に入ることを敬遠する人がますます増えています。「敬遠」は今に始まったことではありませんが、チェーングループが、独自の調理教育・訓練カリキュラムをつくって、システム化された調理人育成の仕組みを構築していくと、個店や生業店の「きつさ」がより鮮明になっていきます。

近年、人材募集をかけても、人を集められる店と、まったく寄ってももらえないところに二極化されていっています。そのスピードがどんどん早まっているのですから、何とかしなければなりません。そのためにしなければいけないことは、調理作業の腑分(ふわ)けです。わが店にとって必要な調理作業は何か、「外」に出していい作業は何か。これを分別(ぶんべつ)することから始めなければなりません。ここで大事なことは、「わが店にとって」です。店の業態、あるいは狙う店格によって、必要な調理作業の範囲は変わってくるからです。

店によっては、それこそ魚一匹のうろこ落としから、芋の皮むき、なすのヘタ取りまで、何から何まで来店客の目の前でやらなければならない店もあります。しかしこういう店は例外中の例外で、一般的にはほとんどの飲食店は、すでに何らかの形で調理の「外部化」を実行しているものです。ですから、残すべき店舗調理は、店の中身や、お客がその店に何を求めるか、によって変わっていきます。当然です。

限定された調理を繰り返し行うことで、メニューの質が上がる

それを前提にした「腑分け」だ、ということです。そしてその基準は、調理作業が店を特徴づける(いわゆる差別化です)ための武器になっているかどうか、です。武器にもなっていないのに、店での調理を残している部分があまりにも多すぎます。繰り返しますが、不要な店舗調理が働く人に耐えがたい負荷を与えています。そして、モラルを下げています。そのことに店主は、もっと自覚的にならなければなりません。

身近な例が、カット野菜です。カット野菜と聞いただけで、「あんなもの、使えるか」と怒り出す店主や調理長がいます。ではその人の店では、どういうレベルのサラダを出しているのかと、試しに注文してみると、しなびてしまっていたり、褐変した野菜が平気で使われていたりします。コンビニのサラダのほうがよほどましです。よく聞いてみると、「カット野菜は高くて使えない」というのが本音だったりします。機器や用具についても同じです。それを導入すれば、作業が大幅に軽減されて、本来やるべき調理にもっと集中できるはずなのに、使おうとはしません。結局これも「高いから」が理由なのです。

調理作業というものは、繰り返しやることでスキルが高まります。当たり前の話です。これが「調理人の経験」ということになります。店にとっては必要な調理が限定されていて、それが繰り返されていけば、求められる調理のレベルは確実に上がり、当然メニューの質が高まります。範囲を限定しないで、何から何までやっていては、結局、店で求められる調理のレベルが一向に上がらないことになります。つまり、調理作業を全般的に広く浅くやっていても、店の武器はちっとも磨かれない、ということになります。ただし、前述のように、求められる範囲と深さは、店によってそれぞれ違います。店舗調理は外食業の最終・最強の武器ですが、範囲を限定して磨きをかけたときのみに、そのパワーが発揮されます。

まずは、調理場の環境整備に目を向けなければなりません。働く人を今よりも楽にさせる方法はないか。何にいちばん苦しめられているか。そういう視点で調理場を観察してみると、とんでもない不条理なことが日々平然と行われています。そして、その不条理が働く人の意欲を下げ、調理がおざなりになり、結果的にメニューの質を落としていることに気が付くはずです。

働く人の不要な負担をどれだけ取り除くことができるか。そこに焦点を当ててみましょう。やることは山ほどあります。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。