2012/02/28 繁盛の黄金律

働く人全員が「多能工」であれ(前編)

外食業は本質的に製造業ですから、製造部門である厨房が心臓部であることは言うまでもないですし、厨房の能力が店の実力を決めるといっても過言ではありません。

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Vol.6

利益が出ない「4過剰」

外食業は本質的に製造業ですから、製造部門である厨房が心臓部であることは言うまでもないですし、厨房の能力が店の実力を決めるといっても過言ではありません。厨房には普通、プロの料理人がいて、この料理人の技能(修業で身につけた技)が商品の質を決めてしまいます。心臓部のもっとも大事な存在です。

ところが大事にし過ぎて厨房を"聖域"化してしまうケースがあまりに多いのです。「製造部門はすべておまかせします。いっさい口をはさみません」という態度をとって、がんじがらめになってしまう経営者は少なくありません。こういった店で、繁盛が持続し、しかもしっかりと利益が出ていることは、ほぼ皆無でしょう。これは断言できます。

まず、厨房の設計をプロの料理人だけにまかせてはいけません。(1)調理スペースが過剰になりやすい=客席スペースが過少になりやすい。(2)調理機器が過剰になりやすい。(3)投資額が過剰になりやすい。(4)厨房人員が過剰になりやすい。この"4過剰"が必ず発生します。たとえ繁盛したとしても、非常に利益が出にくい状況です。飛行機を作るときに、設計をパイロットにまかせますか? まかせたら、あれも必要、これも必要となり、スペースの半分がコックピットになってしまいます。もちろん参考意見としていろいろ聞くことはありますが、彼らの設計だけでイノベーションを起こせるはずはないのです。

厨房とフロアの壁を取り払う

厨房を完全に料理人まかせにする――この無謀を平然とやっているのが、外食業の大部分なのです。これも、経営者が商品と調理についてあまりにも無知であることが原因です。無知から来る"恐怖"が、自らの手で厨房をブラックボックスにしてしまっているのです。まずは厨房との壁の仕切りを取り払うことです。もちろんハードとしての仕切りではありません。意識としての仕切りです。

厨房を、「プロ以外立ち入り禁止」の場所にしてはいけないのです。料理人もフロアの人間も、お互いが抵抗なく厨房とフロアを行き来できる環境(店の雰囲気)を作らなければなりません。そのためには、両者がサービスと調理を怖がらないことです。オーナーシェフは平気でフロアに出てお客に接しているではありませんか。なぜ雇われ人のプロ料理人はそれができないのか。できないはずはないのです。

一方、フロア担当が厨房に入れる条件はひとつ。足手まといにならないことです。つまり、基本の調理技術を身につけることです。これに対しては、プロの料理人たちからの反発があるかもしれませんが、「うちの方針です」と言って断固はねつけなければなりません。ベーシックな調理ができる人間を立ち入り禁止にする理由はないはずです。

外食業は労働集約型で、基本的に生産性が上がりづらいビジネスです。これを乗り越えるためには、働く人全員を多能工化するしかないのです。単能工のままでは生産性の競争に勝てません。何でもできること。何をするのもいとわないこと。この風土が店に根付いていることこそが、勝ち抜く条件のひとつになります。(次回、後編へ続く)

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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