2019/05/28 特集

店の“顔”を磨いて人を呼び込む! 魅せるファサードで集客UP!

飲食店にとって、ファサードは“店の顔”となる重要な部分。視認性や情報発信に力を入れる飲食店に取材をし、その狙いや効果を取材。また、店舗デザイナーにもファサードの重要性とポイントについて話を聞いた。

URLコピー

更新日:2022.02.09

目次
売りの鮮魚を効果的にアピール。ターゲットの集客に成功(鮮魚個室居酒屋 神保町 魚酒場ピン)
大きなのれんが存在感抜群! 文字の色にもこだわり、視認性UP&目隠しの役割も(天ぷら酒場 ててて天 一番町)
売りのメニュー4品を大きく掲示して入店を促進! 複数の看板で店内を見やすく(金山精肉酒場せきや)
全面ガラス張りにすることで、階段などの店内空間を、「ファサードの一部」として利用(焼肉 大井町 ブルズ)
デザイナーに聞く、集客できるファサードのポイント

 飲食店にとって、ファサード(建物正面のデザイン)は“店の顔”であり、集客に直結する重要な場所。照明やアイテムを上手に使って売りの鮮魚をアピールしている東京・神保町の居酒屋や、インパクトがあり店内の目隠しにもなる大きなのれんで印象付けに成功している宮城・仙台の天ぷら酒場のほか、大小さまざまな看板を設置することで、近くからも遠くからも視認性を高めている愛知・金山のに肉酒場、全面ガラス張りにすることで階段も含めた店内の構造をそのままファサードとして際立たせている東京・大井町の焼肉店が集客につなげたファサードの成功ポイントを紹介。また、いくつもの店舗の内外装を手掛けたデザイナーに取材し、ファサードとコンセプトの関係性や、業態を伝えるアイテムの活用、エリアや立地によって変わるファサードデザインの重要性やポイントなど、“集客力を高めるファサードの考え方やノウハウ”を聞いた。

売りの鮮魚を効果的にアピール。ターゲットの集客に成功

鮮魚個室居酒屋 神保町 魚酒場ピン(東京・神保町)

立体感を演出して印象付け。外から店内が見える工夫も

 東京の地下鉄神保町駅から徒歩1分。大通りから1本入った人通りの少ない路地に、2015年3月オープンした「鮮魚個室居酒屋神保町魚酒場ピン」。店名どおり鮮魚が売りで、「30~40代のビジネス層が仕事帰りに気軽に立ち寄れる店を目指しました」と、代表取締役の福田和吉氏は語る。

浮き玉やトロ箱、魚のイラストなどで、売りの“ 魚介” をアピール。立体感が出るよう、照明の角度にもこだわっている

 店のデザインは、外装・内装ともに旧知のデザイン会社に依頼。入口を入ると左手にカウンター席があり、奥の座敷席や個室に続く通路には、浮き玉を天井から吊るし、漁場の活気を表現している。

point 1
看板、排気ダクト&照明で立体感を演出

大きく店名が入った看板や排気ダクトがインパクト大。照明を当てる角度も工夫して、立体感やおしゃれな雰囲気を演出している

 そんな同店のファサード(正面部分)には、店の売りや特徴を伝える工夫がなされている。「ファサードは、店の情報を伝える大切な部分。店の前を通る方に興味を持ってもらうため、何をどう発信するか熟考しました」(福田氏)。まず、店内と同様に浮き玉を店頭にぶら下げ、いたるところに魚や波のイラストを入れるなどして、魚介が売りであることを視覚的にアピール。また、店名が入った看板や排気ダクトなどに照明を当てて効果的に光と影の濃淡を作り、日が落ちると店全体が立体的に浮き上がるようにした。「こだわったのは“目立つけど、派手にはしない”ということ。そのため、色は多く使わず、茶色と黒を基調に落ち着いた雰囲気にしました。これは、ターゲットであるビジネス層に、“活気ある雰囲気だけど、落ち着いて飲める店”と感じてもらうためです」と福田氏。

point 2
賑わう様子と店内空間をほどよく見せる

窓ガラス越しに、外からカウンター席の賑わいが見える。一方、店内にいる人が視線を感じないよう、ポスターなどを目隠しに活用
point 3
中央のイラスト&店名は、明るく目立つように工夫

ファサードの中央にイラストや店名を入れたパネルを配置。背後から光を当てて看板全体を明るく目立たせ、アイキャッチに

 さらに、店の前に鮮魚店などで使うトロ箱を積み、その上に「メンチカツ」「焼豚ねぎまみれ」といった、魚以外のメニューなどを書いた木の板を並べている。「魚が売りであることは、店名やイラストで十分わかるはずなので、魚ばかりをプッシュせず、ほかのメニューもあることを強調して、幅広いニーズに応えられることを訴求しようと考えました」と、福田氏は狙いを語る。ほか、店の外から窓ガラス越しにカウンター席が見えるようにし、店内の活気や雰囲気が伝わるように。これは、店内のスタッフが店の前にいる人に気づきやすいメリットもあり、入店を迷っている様子なら、すぐに店頭に出て声をかけ、入店をすすめている。ただ、店の外から奥の座敷席や個室は見えないため、収容人数などの詳しい座席情報は店外の電飾看板で写真とともに紹介。これを見て、グループ客が入店することも少なくない。「カウンター席が埋まっているのを見て、入店をあきらめてしまうお客様もいるので、席の種類や総数を伝えることは集客において重要だと感じます」(福田氏)。

point 4
アイテムを効果的に使い、名物料理や空間も掲示

浮き玉や、市場を思わせるトロ箱などで売りの魚を表現。木の板では、「メンチカツ」「大小個室有り」など、魚以外の名物や空間の情報も掲示している
point 5
店内の座席情報を写真とともにアピール

店内には個室や座敷席もあるが、店の外からはほかにどんな席があるかわからないので、電飾看板に写真と収容可能人数を掲載。大人数にも対応できることをアピール

 照明が映える明るいファサードは、夜の視認性も抜群。「周囲が比較的暗いので、遠くからでも当店は目に入ると思います。また、外観の印象が店の前を通り過ぎる人の記憶に残ってくれれば、後日『あの路地に特徴的な店があった』と、店を思い出すきっかけになり、来店につながるはず」と、福田氏はファサードの重要性を語る。実際、店の前で足を止め、料理や空間の情報を確認してから入店する人が多く、狙いどおりターゲットである30~40代を集客。目を引くファサードで人を呼び込み、連日賑わいを見せている。

夜になると周囲は比較的暗いため、明るい店の外観が目に止まりやすい
鮮魚個室居酒屋 神保町 魚酒場ピン(東京・神保町)
東京都千代田区神田神保町2-20 ワカヤギビル1F
https://r.gnavi.co.jp/3uvez9z40000/
神保町駅から徒歩1分の路地に立地。毎日仕入れる旬の魚を使った料理が売りで、調理場に面したカウンター席のほか座敷席もあり、最大60 名まで利用できる。
株式会社フクダコーポレーション 代表取締役 福田和吉氏
エンジニアを経て、父親が経営する飲食企業に入社。2009年に、株式会社フクダコーポレーションを設立し、現在、都内で居酒屋など9店舗を運営している。

大きなのれんが存在感抜群! 文字の色にもこだわり、視認性UP&目隠しの役割も

天ぷら酒場 ててて天 一番町(宮城・仙台)

人通りの多い商店街側は、あえてシンプルな外観に

 JR仙台駅から西に徒歩15分のアーケード商店街「サンモール一番町」は、数年前、近くに地下鉄青葉通一番町駅が開業したことで、人通りが増えているエリア。その一画に、2018年1月オープンしたのが「天ぷら酒場 ててて天 一番町」。「煮出し大根」(237円)や「煮アナゴ1本」(788円)など、揚げたての天ぷらを売りに人気を集めている。「周辺では、天ぷらというと高級店かスーパーなどで買う惣菜で、揚げたてをリーズナブルに食べられる店は多くありませんでした。そこで、焼鳥店のような感覚で、気軽に天ぷらを楽しめる居酒屋を目指して出店しました」と、店長の佐竹佑介氏は語る。

店名を一文字ずつ入れた120センチ四方の大きな4枚ののれんが目を引くファサード。のれんの間から、店内の賑わいが見える

 店があるのは、商店街と細い路地が交差する角地。人通りが多い商店街側と、店の入口がある路地側で2つの異なる“顔(外観)”を持っているのが特徴だ。まず、路地側のファサードで目を引くのが、店名の「ててて天」を一文字ずつあしらった4枚の大きなのれん。「店の存在を目立たせるのと、大衆的な店であることを表現するのが狙いです」と佐竹氏。

point 1
文字色にもこだわった大きなのれんで印象付け

窓を隠す120センチ四方ののれんが強い印象を残す。書体はデザイン会社が作ったオリジナルで、色も“重すぎず、軽すぎず”を意識し、黒に近い濃紺に
point 2
のれんの間から店内を見せ、賑わう様子で入店を促進!

のれんの間から店内の様子を見えるようにして、入店を促す。「丸見えだと店内のお客様の居心地が悪くなるので、適度な隠れ具合を意識しました」(佐竹氏)
point 3
ファサードの中心に吊るした照明がアイキャッチに

ファサードの中央に、和の雰囲気を醸すランプを吊るして、アイキャッチに。このほか、ファサード全体を上から照らす8つのライトもあり、視認性を高めている

 のれんは120センチ四方の特注品で、文字色も“重すぎず、派手すぎず”を基準に濃い紺色にした。これを白木の引き戸の窓ガラスがちょうど隠れる高さに配置。「女性でも安心して入ってほしい」(佐竹氏)という想いから、のれんの間からほどよく店内の様子が見えるようにしている。また、壁面はモルタルを使用。「モルタルは亀裂が入りやすい素材なので、それを逆に利用し、年月を経て生まれる“大衆感”を演出したいと考えました」と、佐竹氏は狙いを語る。

商店街の通りから見た外観。シンプルなモルタルの壁の中央に「天」の文字のオブジェを配置。その左右に細長い小窓が2つある

 一方、商店街に面した外装は一面モルタルのシンプルなデザイン。中央に店名のロゴのオブジェを配し、その両脇に2つの細長い小窓がある。一見すると何の店かわかりにくいが、「商店街を、店の正面とは逆側から歩いてくる人に『ここは何の店だろう?』と思わせるため、あえてシンプルにしました。2つの小窓で、調理場や客席が少しだけ見えるようにして興味を引き、路地側の入口に誘導するのが狙いです」と佐竹氏。商店街には、チェーン店をはじめ、カラフルな看板の店が多いため、全面モルタルの壁で文字や写真の情報もほとんどない外観がかえって目を引き、路地から店舗正面を見る人が多いという。対照的な2面のファサードは注目度も抜群。のれんの間から様子を見たり、A看板でメニューの種類や価格帯を確認する人も少なくない。

point 4
人通りの多い商店街側はあえて店内を見えにくく

人通りが多い商店街に面した外壁には細長い小窓を2つ用意。左の小窓(左上)からは客席の様子、右の小窓(左下)からは調理場が見え、店内(下)に居ても小窓からの視線は気にならない
point 5
「天」の文字が際立つオブジェで印象付け

店のロゴをオブジェにしてディスプレイ。上から照明を当てて立体感を演出し、スタイリッシュな印象に。オブジェの下には、ミニ黒板で定休日などのお知らせを掲示している

 「ファサードは店のあり方、方針、信念が一番表現される場所だと考えています。当店の場合は、“親近感”や“入りやすさ”を重視。営業時間外でも、店内にかけてある大きなのれんが目立つので、商店街を通る方々にとって気になる店になっているのではないかと思います」と、佐竹氏は笑顔を見せる。今後は、のれんの上にちょうちんを並べるなどして、これまで以上に大衆的で入りやすい店のイメージを表現していこうと考えている。

人通りの多い商店街側(写真右側)はシンプルな造り。一方、路地に面したファサード(同左側)はインパクトのある対照的なデザイン
天ぷら酒場 ててて天 一番町(宮城・仙台)
宮城県仙台市青葉区一番町2-5-6
https://r.gnavi.co.jp/pgx0etk40000/
揚げたての天ぷらと日本酒が売りの居酒屋。1階はカウンターとテーブル席、2階は宴会も可能な小上がり席を用意している。平均客単価は3,300円とリーズナブルな価格設定で、30~40代を中心に集客。
店長 佐竹 佑介氏
東京のフランス料理店でキャリアを積んだ後に仙台へ。「天ぷら酒場 ててて天」の経営母体・株式会社クロールアップに入社し、系列2店舗のマネジメントを担う。

売りのメニュー4品を大きく掲示して入店を促進! 複数の看板で店内を見やすく

金山精肉酒場せきや(愛知・金山)

外から店内の調理場を見られるように工夫

 名古屋・JR金山駅東口から徒歩1分の場所にある「金山精肉酒場せきや」は、飲食事業や不動産事業を手がける株式会社ジェイプロジェクトが2018年8月にオープンした居酒屋。愛知・瀬戸市にある大正5年創業の老舗「せきや精肉店」から仕入れる厳選した国産牛肉などを使用しており、看板メニューは、ブランド牛・瀬戸山麓牛の「網焼きステーキ」(1642円~)。日本酒も常時30種類以上をそろえ、グラス(90ml)で299円~提供しており、日本酒に詳しくない人でも気軽に楽しめると好評だ。

様々な角度から店名が見えるように店名の看板を3つ掲示。入口の左側には、売りのメニュー4品を大きく掲げ、手ごろな価格帯を強調

 「金山精肉酒場せきや」は、もともと同じ場所で運営していた姉妹店の海鮮居酒屋を業態変更した店舗。ガラス窓に格子や植樹などで適度に目隠しを施したファサードも、前店舗のデザインがベースだ。「前の店舗の外観は比較的落ち着いた雰囲気で、やや高単価な印象を与えるデザインでした。業態変更にあたり、手ごろな価格のメニューをアピールして、より気軽な来店につながるようにファサードに手を加えました」と、店長の光田祐樹氏は語る。それが、入口の左脇に置かれた、「日本酒¥299~」「串カツ¥210」「牛串¥280」「トンテキ¥980」と大きく表記された看板だ。「店の価格帯が伝わりやすい4品を、10mくらい離れた距離からでも見える大きさで掲示しました。これは視認性を高めるだけでなく、文字や数字を大きくすることであえて見た目を野暮ったくして、大衆感を出す狙いもあります」(光田氏)。

point 1
様々な角度からの視認性を考慮して看板を3つ設置

店の前に街路樹などがあって、角度によっては看板が見えずらい。そこで、様々な場所から店名が見えるように3つの看板を設置している
point 2
店の外から調理の様子が見えるように工夫

入口正面にステーキなどを焼く調理場を配置。外から窓ガラス越しに調理の様子が見られるようにして店内の活気を伝え、入店につなげている

 また、店が幹線道路の交差点の角地にあるため、歩行者はもちろん、車からの視認性も意識。街路樹などで店名の看板が見えにくいため、様々な角度から店名を確認できるように、店名が書かれた看板を3つ掲示。さらに、交差点のどこからでも見える位置に、縦に長い巨大な店名の看板を掲げている。「店から約100m離れている金山駅東口からの視認性を高めることと、交差点で信号待ちをしている歩行者や車に乗っている人にも店の存在を知ってもらいたいと設置しました」と光田氏は話す。

point 3
売りの4品を価格とともに掲示! 手ごろ感を強調し入店を促進

売りのメニュー4品を掲示し(掲示する4品は固定)、リーズナブルな価格帯であることを強調。デザインからも大衆的な雰囲気が伝わるようにし、入店のハードルを下げている
point 4
格子、のぼり、植樹で店内をほどよく目隠し

歩道に面したガラス窓の前に格子を入れ、植樹(竹)や売りの牛肉をアピールするのぼりで店内が適度に隠れるように工夫している

 一方で、店の入口脇にはメニューや惣菜の物販を紹介する看板を立てるほか、日本酒の品ぞろえをアピールするために酒樽をディスプレイ。「酒樽の中に、店で提供している銘柄数を書いた大きな盃と、日本酒の瓶を置いています。酒樽を見て足を止める方も少なくありません」(光田氏)と、効果を実感している。

point 5
“日本酒が売り”を酒樽で視覚的にアピール

入口脇に日本酒の酒樽を置き、店で扱う銘柄数などを書いた盃と日本酒の瓶を置いている。視覚的に日本酒が売りであることを訴求

 100m離れても見える大きな看板や、10m先からのアイキャッチになる4つのメニューが掲示された看板、店の入口手前で売りを伝える日本酒の酒樽など様々な工夫で、店舗外観の視認性や訴求力を追求。ほかにも、入口の正面に焼き場を設置して臨場感ある調理の様子を見せることで店内の賑わいや活気を伝え、入店につなげている。現在の客層は、ビジネス層などが中心で、接待だけでなく普段使いも好調。「ファサードで意識的に大衆的な雰囲気を出し、視認性を高めたことで、幅広い客層を取り込めていると思います」(光田氏)と、ターゲットの集客に手応えを感じている。

幹線道路の交差点に立地。目立つ場所に大きな店名の看板を設置し、近くにある駅の出入口や歩道、車からの視認性を高めている
金山精肉酒場せきや(愛知・金山)
愛知県名古屋市熱田区金山町2-1-13
愛知県瀬戸市のせきや精肉店から仕入れる肉を売りに2018年8月オープン。瀬戸市の三国山山麓で育ったブランド牛「瀬戸山麓牛」を使ったメニューが名物。
店長 光田 祐樹氏
名古屋市出身で、金山駅周辺は学生時代から慣れ親しんだエリア。オープン時から現職で、人の流れやターゲットとなる客層を踏まえた店づくりに力を入れている。

【デザイナーに聞く、集客できるファサードのポイント】視認性を高めて、店の情報や魅力を伝え入店を促す工夫が必要

前ページまでで紹介した事例からもわかるとおり、ファサードは、店の第一印象を決定づける重要なポイントであり、集客においても大きな役割を果たしている。では、デザインのプロから見たファサードの重要性やポイントとは?これまで店舗デザイナーとして約30年の実績を持つ、有限会社KNOTの佐藤しげる氏に話をうかがった。

代表取締役・DESIGNER 佐藤しげる氏
1990年にデザイン学校を卒業し、建築のデザイン会社を経て、20代半ばに欧米各国を巡り、飲食店の店舗デザインを学ぶ。1998年、株式会社グローバルダイニングに入社し、様々な業態の飲食店の店舗デザインを手がけた後に独立。2006年にDESIGN UNIT KNOT(現・有限会社KNOT)を設立。

有限会社 KNOT
英語で結び目を意味する社名「KNOT」は、絆や縁、人やビジネス、カタチなどを結びつけることに由来。居酒屋業態などを中心に、100店舗以上の飲食店デザインを手がけている。

女性や子ども連れへの訴求力も重要に

 「ファサードは、飲食店とお客さんにとってファーストコンタクトの場。入店するかどうかの判断基準となる“店の顔”とも言えます」と語るのは、株式会社グローバルダイニング勤務時代を含め、数多くの飲食店の内装や外装を手がけてきた、有限会社KNOT代表取締役の佐藤しげる氏。「飲食店はアパレル店などと違って、一度入店した人が何も購入せずに店を出るケースはほとんどありません。入店した時点で高い確率で売上が確定する業種なので、ファサードで店に興味を持ってもらい、入店につなげられるかが売上に大きく影響します」と、飲食店におけるファサードの重要性を語る。

 佐藤氏がデザイナーになったのは約30年前。当時と比べると飲食業界を取り巻く状況や、ファサードのデザインに求められる要素も変わってきたという。「昔よりも飲食店の業態の種類が増えたこともあり、ファサードのデザインも多様化してきています」(佐藤氏)。かつては、居酒屋であれば赤ちょうちんやのれんを掲げる店が多く、ファサードも画一的だったが、今は「和食×バル」など複数の業態を組み合わせた店舗が次々と誕生しており、そのコンセプトを体現するデザインの必要性が高まっている。また、若い層を中心にしたアルコール離れや、飲食店の禁煙・分煙化が進んだことで、大衆的な居酒屋でも女性や子ども連れを意識したデザインが増えているという。「居酒屋のターゲットや利用シーンの幅が広がってきて、女性や子ども連れのファミリー、一人客などが入りやすいと感じるデザインが求められるようになっています」と、佐藤氏は傾向を分析する。

 このように、時代の流れやトレンド、社会的なニーズなどに合わせてデザインも変化しているが、一方で、「道を歩いている人が、ファサードを見て“どんなお店か”を判断するのは今も昔も変わりません」と、佐藤氏。人は、その店の業態、価格帯、客層、売りのメニュー、店内の空間、接客のスタイル、利用シーンといった様々な情報の多くをファサードから判断、もしくは予想し、入店するかどうかを決めている。だからこそ、ファサードで情報を的確に発信できている店は狙った層を集客できるが、情報の発信が不十分だったり正確でないと、集客の機会を損失したり、来店客が入店前に抱いたイメージとのギャップから、満足度を下げることにつながりかねないのだ。

デザインを考える際はコンセプトを明確に

 では、ファサードデザインを考えるうえで重要なものは何か。「ファサードに限らず、デザイン全般に言えることですが、一番重要なのは店のコンセプトをできるだけ具現化することです」と、佐藤氏は断言する。自身がデザインを手がける際も、まずクライアントからコンセプトを細かくヒアリングすることからスタートし、業態はもちろん、どういうスタイルの接客を行うのか、売りの食材や看板メニューは何か、ターゲットの客層はどういう人か、想定の客単価はいくらか、どんな利用シーンを想定しているかなど、様々な要素に分けて明確にしていく。「そして、コンセプトを基に導き出した情報を効果的に発信できるように、デザインに落とし込んでいきます。コンセプトが漠然としていると、ファサードのメッセージ性も弱くなってしまいます」と、佐藤氏は語る。

業態を伝えるアイテム活用。店内を見せて安心感を創出

 ファサードで発信する情報を明確にしたら、それを外観でどう表現するかが重要。そこで佐藤氏に、「売りの食材やメニュー」「価格帯」など、いくつかの情報について、ファサードでの効果的なアピール方法を聞いた。

 まず、売りの食材やメニューを伝えるテクニックとして、佐藤氏はアピールしたい食材や料理を想起させるアイテムの活用を挙げる。「ファサードにワイン樽や日本酒の瓶、とっくりなどをディスプレイすることでアルコールの品ぞろえをアピールしたり、貝が売りの業態であればカキやホタテなどの貝殻、薪窯で焼くピザが売りであれば薪を積んでおいたりするのも手です」。そのほか、「メニュー名を書いた短冊や木札を並べる、あるいは、のれんやちょうちんに料理名を書くなど、シンプルな文字情報も訴求力が高いです」(佐藤氏)。魚介が売りなら魚が泳ぐ水槽を外から見えるように配置したり、牛や豚など、売りの食材をイラストなどで掲示するのも視覚に訴える好例だ。「あるラーメン店の店舗デザインを担当したときは、あえてファサードにメニュー表を掲示せず、ボリューム感が売りの看板商品1品のみをイラストで大きく掲示することで、売りを表現したこともあります」と、佐藤氏は語る。加えて、「料理サンプルは、特に子ども連れが多い商業施設などで有効です。どんな料理かがビジュアルで瞬間的にわかるので、子どもへのアピール力が強い。ファミリーの場合、子どもが『入りたい!』と言えば、入店する確率はぐっと高まります」と佐藤氏はメリットを語る。

 さらに、料理の価格帯もファサードで発信すべき情報の一つだ。「グランドメニューを一覧で掲示することで、おおよその価格帯がわかり、安心感につながります。また、一般的にファサードにメニューの情報が多く掲示されていると、“大衆的な店”と判断されやすく、価格面での入店のハードルが下がります」と佐藤氏。赤ちょうちんを掲げるだけでもリーズナブルな価格帯を表現でき、逆に落ち着いたトーンの色使いにしたり、あえてメニュー情報をファサードに掲示しないことで、高級感を演出することもできる。

 そのほか、店内の空間をファサードで伝えることも重要。ガラス張りにして店内を見せるのもテクニックだが、見えすぎると店内にいる来店客の居心地が悪くなり、まったく店内が見えないと入店しにくくなる。「個室などのプライベートな空間を売りにしている店では、ある程度の目隠しが必要。ガラス張りにするにしても外にいる歩行者と店内のお客さんの目が合わないように曇りガラスにしたり、一部をポスターやタペストリーで隠して外からの視線をさえぎる、適度な間隔で格子を入れるなどの工夫が必要でしょう」と、佐藤氏は指摘する。

エリアや立地、物件に適したデザインを

 こうしたファサードでの情報発信とは別に、「出店するエリアや立地、物件などに合わせて視認性を高める工夫も必要です」と佐藤氏は指摘する。繁華街なら、周辺の飲食店などのなかに埋もれないオリジナリティーが必要になり、角地であれば、交差する2つの通りのどちらからでも店の存在がわかるようにするなどの工夫が必要。また、車での来店が中心のロードサイドの店では、車内から店の外観を確認できるわずかな時間で売りを伝える必要がある。「店の名前から業態がイメージできる場合を除いて、店名よりも『ラーメン』『焼肉』など“何の店か”を大きく掲示することが大切」(佐藤氏)という。ほかに、1階の入口から階段で地下に降りたり、2階に上がる店舗であれば、「ファサードで『階段の先が気になる』と思わせられるかがポイントです」と佐藤氏。あえて階段を薄暗くして「この先に何があるのだろう」と関心を引いたり、逆に各段にライトを付けて階段自体をライトアップすることで、視認性を高めるのも効果的だ。

 あえて業態とまったく関連性のないアイテムを使うことで目を引く方法もある。以前、佐藤氏がデザインを手がけたスペイン料理店では入口にのれんをかけ、違和感のある組み合わせで関心を引きつつ、“のれん”という大衆性を感じさせるアイテムで気軽な入店につなげたという。「いずれにしても、周辺にどんな建物があり、どういうデザインの飲食店が多いか、道を歩いている人はどの角度や、どの距離から店を見るのか、といったことを考慮したうえで、アイキャッチとなる看板などを掲げることが肝要です」と佐藤氏。

 店のコンセプトを効果的に発信できているか、そして、エリアや物件などに応じて視認性を高められているか。今一度、自店のファサードを見直し、さらなる集客アップにつなげてほしい。

これは避けたい!ファサードNGポイント
不快感を与えるデザインはマイナス要素に

「気味が悪い」など、人に不快感を与えるデザインは、特別な意図がない限り、集客面ではマイナスに働く可能性が高いです。また、汚れや剥がれ、傷みがひどいと、「店内も汚く、接客や料理のレベルも低い」と思われかねません。また、スペースがないからといって、ファサードに空き箱などを置くと、視認性や情報の発信力が損なわれ、店を見つけてもらう可能性が下がったり、売りが十分に伝わらなくなります。ほか、デザイン性を重視するあまり、どこが入口かわかりにくかったり、災害時に看板が落下しやすい構造になっていたり、壊れやすい素材を使うのもマイナスです(佐藤氏)。

【店舗デザインのノウハウについて知りたい方はこちらをチェック!】
スタイルがある店はかっこいい! 「行きたくなる店」の店舗デザイン

飲食店の課題解決は「ぐるなび」におまかせください!

「ぐるなび通信」の記事を読んでいただき、ありがとうございます。

「ぐるなび」では集客・リピート促進はもちろん、顧客管理、オペレーション改善、コンサルティングなど、飲食店のあらゆる課題解決をサポートしています。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

詳細はこちらから⇒⇒飲食店の集客なら【ぐるなび掲載のご案内】