後藤醸造
Key Point
- 自家醸造のクラフトビールが主力商品
- 定番以外は多彩なビールを次々と開発
- 立ち飲み、前払い制で気軽な利用を推進
ビアバーを先行オープンし、1年後に酒造免許を取得
東京農業大学(以下、農大)卒の後藤健朗氏、由紀子氏夫妻が経営する醸造所併設のビアバー「後藤醸造」が、農大世田谷キャンパスに近い東京・経堂で、連日賑わいを見せている。
小田急線経堂駅から徒歩約3分のビルの1階にあり、12坪の醸造所と8坪の立ち飲み店で構成されている。オープンは2016年7月で、当初は各地の醸造所からクラフトビールを仕入れて提供し、この場所・規模でどのくらいのビールが販売可能かを検証しながら、発泡酒製造免許の取得を目指した。
ビールの製造免許は、1994年に年間最低製造量がそれまでの2000キロリットルから60キロリットルに引き下げられ、全国的に地ビールブームが広がった。発泡酒免許は、年間6キロリットル以上の製造が要件であり、近年新たに増えている小規模醸造所(マイクロブルワリー)の多くが取得し、製造している。さらに、2018年4月の酒税法改正でビールと発泡酒の定義が変更され、以前は、発泡酒に分類されていた酒類の一部がビールに分類されるように。果実や香辛料、ハーブなどを使用してもビールと表記できるようになったため、この改正を契機に自由な発想で多彩な味わいのビールや発泡酒が続々と登場している。
「個人で酒造免許を取得するのはなかなか大変で、ビールを醸造した経歴、設備、予想販売量などを書類で提出しなければなりません。準備期間も含めて2~3年間、税務署とのやり取りが続きました」と後藤氏は振り返る。駅からも近く、明るく開放的な立ち飲み店としてオープンした同店は、当初から月間200リットルほどのビールを販売できたため、その実績も加味され、2017年7月に発泡酒製造免許を取得した。まずは、店の顔となる定番ビールとして、バランスがよく、毎日飲んでも飲み飽きない「経堂エール」の醸造に取り組み、同年9月から樽生での提供を開始。世田谷区初のブルーパブとして、ここでしか飲めない独自性から発売以来好評を博している。
学生時代に親しんだ街に出店。生樽やボトルでの外販も開始
後藤氏は1984年東京・青梅市生まれで、親の転勤に伴い各地を転々としながら育った。農大時代は1~2年を神奈川・厚木キャンパスで、3~4年は世田谷キャンパスで過ごした。卒業後は山梨にある食肉総合卸の会社に就職し、7年間勤務。山梨在住だった2012年に、甲府駅前に1階が醸造所、2階がレストランとなった「アウトサイダーブルーイング」ができ、後藤氏はそこでクラフトビールのおいしさに目覚めるとともに、このくらいの規模でもブルーパブが営業できることに興味を持った。自分もクラフトビールの道に進もうと決意すると、2014年に厚木の小規模醸造所「サンクトガーレン」に転職し、1年半勤務してビール醸造を学んだ。開業は世田谷を希望して物件を探し、新築の現物件を紹介された。家主に後藤氏がやりたいブルーパブを見てもらって「こういう業態をやりたい」と説得し、醸造所用と立ち飲み店用の2区画を借り受けた。
免許取得後は、「経堂エール」のほか、年間20種ほどのクラフトビールを醸造する。最近では夕暮れをイメージした「黄昏星港(たそがれシンガポール)」、畳の匂いから発想した「い草ペールエール」などを販売。いずれも一期一会の味わいでよしとし、「経堂エール」以外は再現性にこだわらないのも後藤氏のスタイルである。ビールは常時4種を提供し、価格は275ml 500円、385ml 800円、580 ml1000円、1160ml 1800円均一に設定している。
フードは、もともと料理好きで、飲食店でのアルバイト経験も豊富な後藤氏が、ビールに合う肴約20品目(280~1000円)を考案し、店内で手作り。また、近隣の店舗のたこ焼きや鯛焼き、寿司の持ち込みも可としている。料金は前払い制で、客単価は2500円前後、1日に30~40人が来店し、平均月商240~250万円を上げている。
同店が街角のブルーパブとして常連客を引き付けている要因は、以下のようになるだろう。
- 自家醸造による造りたてのクラフトビールを主力としている。
- 定番の「経堂エール」以外は、多彩なビールを頻繁に登場させている。
- 立ち飲み、前払い制で、気軽な利用を誘引している。
ビールは店内での消費が約9割を占めているが、2018年から生樽の卸販売や、「経堂エール」のボトル販売も開始した。2019年にはこのボトルが「世田谷みやげ2019」に認定され、手土産として買い求める人が増えている。現在は年間10キロリットルほどのクラフトビールを製造しており、フル稼働させれば約12キロリットルの製造が可能とみている。次のステップとしては、ここをフルに稼働させてもう1店舗着席で利用できるビアレストランを作るか、醸造所を増やして外販に力を入れるか、どちらかを選ぶことになりそうだ。
住所
東京都世田谷区経堂2-14-3 経堂OKコート1F
TEL 03-6751-0698
営業時間
15:00~22:30(L.O. 22:00)、日曜日13:00~21:30(L.O. 21:00)
定休日
月、火曜日(変更の場合あり)