2019/10/08 特集

飲食店のESを考える~“従業員満足”向上は顧客満足&生産性アップにつながる!~(2ページ目)

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ES向上事例リポート

 ここからは、ES向上を図る企業として、育成制度と温かい社風を築き、高い人材定着率を実現した株式会社グラットンと、「社員ファースト」実現に向けて人手不足を解消し、業績アップにつなげている株式会社ぼんたの取り組みを紹介する。

ES向上事例リポート
株式会社グラットン/育成制度と温かい社風を築き、高い人材定着率を実現!
株式会社ぼんた/「社員ファースト」実現に向けて人手不足を解消し、業績もアップ

ES向上事例リポート①株式会社グラットン

株式会社グラットン
創業/1992年11月(会社設立は1998年11月)
所在地/広島県福山市沖野上町1-9-30 2F
従業員数/社員約50名、PA約180名
店舗/「食辛房沖野上店」黒毛和牛バル529ミートボックス宮通本店」「肉亭いちゆく」ほか、計13店舗を運営。
(左)代表取締役 徳永 孝進氏 (右)専務取締役 金 良高氏
ともに1982年生まれ。徳永氏は父親が創業した会社を引き継ぎ、2014年に代表取締役に就任。コンサルタントだった金氏は、2012年にグラットンに入社。店長から始め、現在は幹部として経営と改革の先頭に立つ。

育成制度と温かい社風を築き、高い人材定着率を実現! 人が辞めない会社を目指し、さまざまな社内改革を進める

 広島・福山を中心に焼肉「食辛房(くいしんぼう)」などを展開する株式会社グラットン。代表取締役の徳永孝進氏が、父親が興した同社に入社したのは2005年頃のこと。厨房業務や店長を経験し、飲食業に誇りを持つなかで、「こんなに素晴らしい仕事なのに離職率が高い。人が辞めない会社を作りたいと思うようになりました」と、徳永氏は振り返る。

 そこで、自分が「これがあればよかった」と感じたことの改善から始めた。経験不足のうえ、売上の作り方や管理業務、チーム作りなど何も教えてもらえないまま店長になって苦労した経験から、店長に必要なスキルを学べる「店長育成塾」というプログラムをスタート。「その後もできることから改革を進めていきましたが、労働時間の改善など、なかなか手がつけられないことも多かったですね」と徳永氏は語る。

 ちょうどその頃、2012年5月に入社したのが、東京で財務系のコンサルタントとして活躍していた金良高氏。飲食業の経験がなかった金氏は、まず店長として3年間現場に立ち、「飲食業だからといって、長時間労働が当たり前ではいけない。これから会社が飛躍するためには、労働条件の改善は絶対に必要」と確信したという。以来、徳永氏は金氏とともに本格的な改革に着手。全店舗ランチ営業を廃止して労働時間を是正しつつ、従業員の成長を促進するため、ピラミッド型の育成制度「グラットンアカデミー」も作り上げた。

 ピラミッドの頂点には、幹部を育成する「幹部塾」。その下には「店長育成塾」、調理技術を学ぶ「調理会」、新入社員が対象の「ルーキー会」と続き、いちばん下にはパート・アルバイトスタッフが対象の「ミライ塾」を置いた。

 「店長育成塾」では、店長候補のスタッフが月1回5時間の研修を9カ月間受講する。経営や店舗運営をテーマにした座学のほか、「行商研修」も実施。これは、キムチや焼肉のタレなど自社製品を自己負担で購入し、知らない土地で売り歩くというフィールドワークだ。値段設定から販売スタイルまで自ら決めることで、ビジネス感覚を養うカリキュラムとなっている。そのほか、文献を読んだり、繁盛店を視察してレポートを提出するなどの課題がある。これらをクリアし、決められた単位を取得した人だけが「卒業」できる。店長になれるのは卒業生だけ。「卒業できない人もいますが、その多くは再チャレンジします」と金氏。従業員の成長意欲の喚起に貢献していることは間違いない。

 「ルーキー会」は新入社員の育成が目的で、社会に出たばかりで“理想と現実とのギャップ”に悩みやすい点に特に配慮。個々の心情に寄り添いながら、社会人としての成長をサポートする。また、「ミライ塾」ではパート・アルバイトのリーダーを育成。社員が休みでも店を任せられる人材を育てる。

店長としての知識とスキルを学ぶ「店長育成塾」では、店長になるための人格形成とともに、目標達成能力を養う
「店長育成塾」は、決められた課題をクリアし、単位が取れた人だけが卒業できる。そして、店長になれるのは同塾の卒業生だけ
「ルーキー会」では月1ペースで新入社員が集まり、ともに様々なことに取り組む

 学びや成長を支援する取り組みとしては、ほかにも全社員を対象に、本を読んだり、繁盛店を視察してレポートを提出すると各5000円が支給される「文献制度」「ベンチマーキング制度」や、希望する研修の受講・資格取得に対する「キャリチャレ(キャリアチャレンジ)補助金」などもある。

 さらに、社員数人でチームを作り、1つのテーマに則って期間限定で活動する「プロジェクトチーム制度」も。プロジェクトのテーマは「新業態開発」や「人材採用」など様々だが、「この活動でリーダーシップやチーム作りのスキルが鍛えられる」と金氏。メンバーは様々な店から集められるので、社内交流が広がることもメリットの1つだ。

さまざまなテーマで「プロジェクトチーム」として活動する。写真は子どもの夢を応援し、地域社会に貢献する「食辛房キッズアカデミー」での1コマ

 こうした制度を充実させる一方で、感謝し合う温かい社風作りにも力を入れ、従業員同士で感謝の気持ちを贈り合うアプリを導入。もっとも多く感謝を贈った人、贈られた人などを表彰している。また、給料日には全従業員に社長からの手紙が届くほか、社員旅行や運動会、BBQ大会など親睦を深める社内イベントも活発に開催されている。

年1回「経営指針発表会」を開催。会社全体の成果発表と方針を確認するとともに、頑張ったスタッフを様々な角度から表彰。働く意欲を刺激している
最優秀店舗コンテストなどが行われる「グラットンアワード」も年1回開催。アルバイトも含めた従業員をはじめ、取引先なども集まる社内の大イベント
毎年、2回に分けて2泊3日の社員旅行を実施する。「会社が社員をもてなす場」と位置づけ、自ら運転手を務めるなど、徳永氏はホストに徹するという
全従業員とその家族も参加して開催される「大運動会」。普段は顔を合わせない系列店のスタッフと交流と親睦を深める。そのほか、バーベキュー大会なども開催している
従業員同氏で感謝の気持ちをコインで贈り合うアプリを社内で活用。日常の中で埋もれがちな「小さなありがとう」を見える化することで、温かい社風を醸成している
毎月給料日には、徳永氏からの「手紙」を全社員、パート・アルバイトスタッフに配布。経営ビジョンや取り組みなどのほか、社員旅行のエピソード、スタッフへの感謝などが書かれている

 これらがES向上につながり、離職率は大幅に減少。現在の人材定着率は90~95%を誇る。大卒新卒者の採用も2年連続で実現。業績も増収増益が続き、今年10月には13店舗目となる肉バルをオープンするなど好調だ。

 「かつては、会社が従業員を一生懸命鼓舞してきたのですが、現在は従業員一人ひとりが、会社を引っ張ってくれていると感じます」と徳永氏。この力をさらに発展させ、出店や新事業の展開など長期ビジョンの実現に向かって、これからも力を尽くしていく。

【interview】スタッフに聞きました!

「食辛房 沖野上店」 店長兼エリアマネジャー 藤井 栄一氏
1990年生まれ。大学卒業後、飲食企業を経て、2015年に株式会社グラットン入社。2017年に「店長育成塾」を卒業。今年2月から現職に就任する。

 最初に在籍した飲食企業では、スキルも経験もないまま店長を任され、大変な思いをしました。グラットンには育成の仕組みがあり、人を育てようという社風があることが魅力です。

 私も「店長育成塾」で、自分の弱点に気づくことができました。当時は、自分は優秀だと思い込み、他人を見下して横柄な態度を取りがちでした。でも「店長育成塾」で、仕事は1人ではできないことや、相手の気持ちを考えて行動することの大切さを学び、自分が変わらなければ、店の運営もうまくいかないことに気がつきました。今では、後輩からも「変わりましたね」と言われます。自分自身が成長でき、店にもよい影響が出ていると感じています。

 日常的には「ベンチマーキング制度」を活用して繁盛店を視察し、店づくりを研究しています。「プロジェクトチーム制度」でも、「採用チーム」に参加。採用活動を間近で経験できたことで、視野が広がったと思います。また、社員旅行をはじめとした社内イベントも楽しみですね。系列店で働く仲間たちと会っていろいろ話すことで、刺激をもらえます。

 今後はもっと成長して、会社の発展に貢献したいです。後輩を育てて、自分に課せられている期待に応えたいと思っています。

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働きたい店になるためにやるべきこと、やれること

ES向上事例リポート②株式会社ぼんた

株式会社ぼんた
創業/2000年9月
所在地/福井県福井市大宮1-11-27清水ビル2F
従業員数/社員36名、PA約140名
店舗/「個室居酒屋ぼんた本店」「大衆酒場ラドン」「くずし割烹ぼんた」ほか、計12店舗を運営。
代表取締役 齋藤 敏幸氏
1978年生まれ。アパレルで起業した後、事業拡大のため飲食業に参入。オリジナルブランドのほかにフランチャイジーとしても出店。人口減少に悩む地方都市の再生にも目を向けている。

「社員ファースト」実現に向けて人手不足を解消し、業績もアップ。飲食業界の悪しき慣習に択われず、改革を推進

 2000年9月にアパレルで創業し、2006年には飲食業に進出した株式会社ぼんた。「最初は何もわからなかったので、イタリアンで働いている友人に“飲食業界の働き方”を聞き、それに倣って運営を始めました」と、代表取締役の齋藤敏幸氏は当時を振り返る。しかし、1日の労働時間は長く、休日返上も日常的で、休日手当も付かないのが当たり前。しばらくして「アパレルと比べて、この働き方はやっぱりおかしい」と感じた齋藤氏は、「業界の慣習に捉われずに、少しずつできることから変えていきました」と語る。

 創業20年目に入り、現在は飲食業がメイン。積み上げてきた改革が徐々に実を結び、3年前には会社として「社員ファースト」を宣言。ES向上につながる施策を加速させている。「よく『飲食でお客様を幸せにする』と言いますが、スタッフが幸せでなければ、おいしい料理も温かいサービスも生まれません。まずスタッフが幸せになり、それをお客様に還元する視点が大切だと考えています」と齋藤氏は話す。

 報酬の面では、2018年度は前年対比で社員一人当たりの平均年収17万円アップを達成。そのほか、年間最大で4回の賞与がもらえる制度もある。また、扶養家族1人に付き1万円の家族手当や資格手当、社員旅行の実施など、労働条件や福利厚生も充実。「もともと飲食店で働きたいという潜在的なニーズはあるはず。条件や環境が整えば人材は集まる」と齋藤氏。その言葉通り、順調に採用と定着が進み、「人手不足からの卒業」を実感している。

 業績も好調で、昨期は売上も利益も過去最高を記録。齋藤氏はミッションの1つとして「3年後に、社員1人当たりの平均年収を現在より100万円アップ」を掲げ、その先に「お客様満足度向上」「社員給料向上」「会社利益向上」という“三方良し”の未来を描く。そして、人口減少が続く福井県でも「当社が成長するポテンシャルはまだまだある」(齋藤氏)と自信を見せる。

2022年までに社員1人当たりの平均年収を100万円上げることをミッションとして掲げる。第1フェーズは達成済み
定期的に社員旅行を企画。2年に1度は海外にも。日頃は顔を合わせる機会のない他店の仲間とも交流を深め、会社としての一体感を育んでいる
毎年3月に開催する「経営計画発表会」には全従業員が出席。取引業者らも招き、齋藤氏がビジョンや方針、今後の展望を語るほか、各店舗の店長も壇上に立つ

 有効求人倍率が東京と並んで全国1位(2019年1月)という人手不足の福井県で、同社が成長できる理由について、齋藤氏は「アルバイト戦略」を挙げる。アルバイトスタッフが確保できないと社員の負担が増え、ESは確実に低下し、業績も下がる。それを防ぐため、出店は学生が多く住む福井市内に限定。そこから大学のある場所を分析し、さらにエリアを絞り込んで店舗展開することで、アルバイトの獲得に成功している。加えて最近は、手持ちの現金が少ない学生のため、「給料即日払い」も開始。また、就職活動を迎えたアルバイトを対象に、独自に福井市内の企業を集めて「就活セミナー」も実施。就職支援につながり、喜ばれている。

 一方、社員にとっては、納得度の高い評価制度がES向上に貢献している。評価の指標は「会社の経営状況」と「個人査定」の2つで、前者は全員一律。後者も評価項目は役職に関わらず全社員共通で、結果をもとに齋藤氏との個人ミーティングが行われる。合わせて、個々人に対する客観的な評価を担保するために、「アルバイトからの評価」も行うところが大きなポイントだ。現場でともに働くアルバイトに設問に答えてもらうので説得力があり、本人へフィードバックして、成長も促せる。

個人の評価項目のなかには「アルバイトからの評価」も。無記名のアンケートで客観性を担保し、納得感のある評価制度の構築を図っている
同社で鍛えられた就活期の学生アルバイトと、福井県内の優良企業のマッチングの場として「学生限定就活セミナー」を開催

 さらに同社では、全社員の年収アップを実現するために業務改善にも力を入れている。その1つが「SNSによるリマインド」だ。毎日の業務に追われ、メニューや販促など店づくりに関することから、会議の日程や提出書類の期限に至るまで、失念してしまうスタッフも多く、結果的に生産性の低下につながってしまうことも珍しくない。そこで、本部から社員に対してこまめにSNSでリマインドを行うほか、各店舗の売上も発信することで競争心を刺激し、売上アップを図っている。

やるべき業務を会社が社員にSNS でリマインド。生産性向上につなげている
年度ごとに全社員に配布する「経営計画書」。経営理念やビジョン、方針、業務カレンダーなどが掲載されている
2019年度の「経営計画書」。社員は常に携帯して、理念に立ち返るとともに、日程の確認や行動指針として活用している

 受動喫煙対策を強化する改正健康増進法が来年4月に施行されるのに先駆け、今年4月1日からは全12店舗全席禁煙に。一歩先を行く経営戦略で地域のリーディングカンパニーを目指し、CSとともにESの向上を進める。「今後は福井と似た地方都市に出店し、地方再生も視野に入れたい」と齋藤氏。そのビジョンや事業計画を、店舗ミーティングや経営計画会議で社員に共有しながら、さらなる高みを見つめている。

【interview】スタッフに聞きました!

「大衆酒場ラドン」 スタッフ 藤田 真吾氏
1978年生まれ。京都の日本料理店で修業した料理人。同社にはアルバイトで入社し、4年前から正社員に。現在は「大衆酒場ラドン」の厨房業務を担う。

 ぼんたは、福利厚生がとても充実しています。労働時間も長くないですし、休日もきちんと取ることができます。ぼんたに入るまでは、1日中働いているのが当たり前だったのですが、今は普通の会社員と比べても変わらない労働環境です。好きな料理の仕事が無理なく続けられているので、ありがたいですね。会社への満足感はすごく高いです。

 社長との距離が近く、従業員が楽しく仕事ができることも大きな特徴だと思います。社員旅行などでは他店舗のスタッフとの交流が深まりますし、働き方に余裕があるので、店が和気あいあいとしたいい雰囲気になります。それがお客様にも伝わって、居心地がいいと感じてもらえれば、うれしいですね。

 社長が示している社員の年収アップの計画について、実現するためにはもっと頑張らなくては、という気持ちを強く持っています。系列店には負けたくないという意識もあり、もっと売上を上げるためには、何をどう改善したらいいかを、店舗ミーティングなどで積極的に話し合っています。そんなときに拠り所にしているのが「経営計画書」。いつも持ち歩いて、カレンダーだけでなく、目標や到達点を確認するために活用しています。

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