2019/10/08 特集

“従業員満足”向上は顧客満足&生産性アップにつながる! 飲食店のESを考える

飲食店にとってCS(顧客満足度)は重要。一方、最近はCSと同時にES(従業員満足度)の向上にも取り組み、離職率を下げ、業績アップに成功する飲食企業が増えている。ES の専門家に話を聞きつつ、ES向上を図る企業を取材した。

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ESの重要性を知る

株式会社ヒューマン ブレークスルー 代表取締役 志田 貴史氏
1972年生まれ。福岡大学法学部卒業後、経営コンサルタント会社などを経て、2007年に「ESから経営の好循環サイクルを創る」をテーマに株式会社ヒューマンブレークスルーを設立。現在、ESに特化したコンサルティングに注力し、社員数数名の企業から数千名の大企業まで、様々な業種・業界でES診断を行う。また、ESに関する講演などでも活躍。著書に「会社の業績がみるみる伸びる社員満足(ES)の鉄則」(総合法令出版)、「顧客と会社を幸せにするES(社員満足)経営の鉄則」(中央経済社)、「ESで離職率1%を可能にする人繰りの技術」(太陽出版)がある。

今後は“人繰り”が経営の好循環を作る重要なカギになる

待遇の改善だけでなく、「信頼残高」でESを捉える

 「ES(従業員満足度)という概念が、日本の企業で経営課題として意識されるようになったのは、大体2000年頃からです」と、株式会社ヒューマンブレークスルー代表取締役・志田貴史氏は語る。志田氏によると、ESとは低成長時代を迎えた1990年代の欧米で生まれた概念。「低成長のなかでもCS(顧客満足度)と生産性を上げ、業績を維持・向上させるためには、働く人々の動機づけが重要とされ、そのために必要な観点としてESが意識されるようになりました」と解説する。

 日本では、まず大企業を中心にES向上の取り組みが始まったが、「10年ほど前は、ESを意識する企業はごくわずかでした」と志田氏。それが近年、中小のなかにもESに取り組む企業が増え始めており、「その背景には近年の人手不足がある」と分析する。人手が足りないために企業の経営課題が達成できず、業績が悪化する状況が生まれているからだ。「これからの時代、資金繰りだけではなく、“人繰り”が重要になるでしょう。そして、ESを高めることで人繰りを有利にしたい、十分な人材を確保したいと考える企業が増えています」と、志田氏は指摘する。

 飲食業界でも、ここ1~2年でESに注目する企業が出現し始めているという。「特に飲食店にとって、人手不足は業績悪化に直結する重大事案」(志田氏)。人手不足になれば、どうしても商品の提供スピードが遅くなったり、きめ細かい接客サービスができなくなり、急速に顧客離れが進みかねない。「これまで、CS向上を大きく掲げて業績を伸ばしてきた店でも、今後はESも同時に向上させ、顧客だけでなく、従業員にも選ばれる店にならなければ、事業の存続そのものが危うくなる可能性があるのです」と警鐘を鳴らす。

 ESの向上によって定着率が上がり、採用も進めば、人手不足の解消につながる。しかし、ES向上のメリットはそれだけにとどまらない。上の図「ES向上による経営の好循環」が示すように、ES向上によって従業員のモチベーションが上がれば、それがトリガー(引き金)となって生産性が向上し、商品の品質やCSが上がる。そうやって経営パフォーマンスが向上すれば、売上や業績がアップして給料も増え、職場環境の改善につながり、さらにESが向上するというサイクルが実現する。逆にESが低下すると、生産性の低下CSの低下売上減給料減・労働時間増ES低下という悪循環に陥ることに。「ESが低下した結果、従業員が最後に切るカードは“不満退職”。1人の不満退職は退職予備軍を生み出し、負のサイクルを加速します」(志田氏)。離職者の穴をほかの人が埋め続けた末に、その人自身が疲弊して退職につながるケースもある。ES向上が成功するかどうかは、企業の命運を左右すると言ってもいいだろう。

 「ここで気をつけたいのは、ESを単に『従業員の待遇を改善すること』と解釈しないこと」と志田氏。長時間労働や低賃金などを改善することは、言うまでもなく大切。だが、それがES向上ためのすべてではない。志田氏は「ESのバックボーンとして“信頼残高”という考え方」を挙げる。「信頼残高」とは、従業員と会社の関係性において、従業員が会社をどれだけ信頼しているかという視点。信頼残高が多いほど両者の関係性は良好で、会社が乗り越えるべき課題に直面したときや、新規事業を立ち上げようとしたとき、従業員は会社のために積極的に力を発揮しようとする。逆に、信頼残高が少なかったりマイナスだったりすると、会社がいくら従業員を鼓舞しても、彼らは会社の思うように働いてくれない。そればかりか、ちょっとしたことがきっかけで離職につながる危険性もあるのだ。つまり、信頼残高が多いほどESが高いということでもある。

 では、信頼残高を増やすにはどうしたらよいのだろうか。「信頼は目に見えません。個々の企業や個人によっても、また時代によっても違いがあります。従業員にとって何が信頼残高を増やし、何が減らすのかを把握し、信頼を増やすための施策を追求すること。また、信頼を減らす原因を取り除くことが大事です。そうやって経営基盤を強固にするために、ESをマネジメントしていくべき」と志田氏は呼びかける。

 同時に、「信頼残高を増やすためのアプローチとして“非金銭報酬”の重視」を提唱する。会社から従業員への報酬には金銭報酬と非金銭報酬がある。前者は主に給料や賞与、後者には仕事のやりがいや自己成長などが含まれる。「金銭報酬が多いことを不満に思う人はいないので、多いに越したことはありませんし、金銭報酬が増えれば、モチベーションは上がるでしょう。しかし、金銭報酬はどこまでも上げ続けることはできないですし、しばらくするとそれが当たり前になってしまうなど、満足感は長続きしません」と志田氏は話す。さらに、「会社を選ぶときは金銭報酬を重視し、辞めるときは非金銭報酬に関する不満が原因のことが多い。だからこそ非金銭報酬に着目し、戦略的な取り組みが必要」と付け加える。

 では、自店のESを向上させるためには、まず何から始め、どのような考えで進めていけばいいのか。次ページから具体的に見ていこう。

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