2021/11/18 特集

【前編】コロナ禍を力に変える人材マネジメント~スタッフの意欲&店のQSCはこうして高める!~

来店客の満足度を高めてリピートしてもらうために、スタッフが意欲的に働き、QSCを維持・向上させることは必要不可欠。特に通常営業ができるようになった今、必要な人材のマネジメントとは何か、識者に話を伺った。

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目次
・今、飲食店が抱える人材面の課題とは?
・スタッフのモチベーションを高めるためには?
・店のQSCを維持し、向上させるには?

後編はこちら!
「コロナ禍を力に変える人材マネジメント~新人へのアプローチ&これからの飲食店の人材育成~」

スタッフの意欲を高め、店のQSCもアップ。「グローイング・サイクル®」を回すことで、“人材”にも“集客”にも困らない店に!

今、飲食店が抱える人材面の課題とは?

コロナ禍の休業や飲食業界離れにより、人材不足が深刻化

★人材面における飲食店の課題
・離職、人員削減による人材不足
・人材争奪戦の激化・採用難
・既存スタッフのモチベーションの低下
・休業などによるQSCの低下

 2021年10月より全国的に時短営業や酒類提供自粛要請が解除され、通常営業を再開したという飲食店も多いだろう。「コロナ禍の度重なる緊急事態宣言などにより、1年半近く不安定な営業形態を強いられてきた飲食店にとって、今、大きな課題となっているのが人材の枯渇です」と、人材育成や研修を手掛ける株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパン取締役で人事コンサルタントの奥野律子氏は指摘する。「休業が続いたことにより、人材が流出してしまったのは否めない事実です。また、今後の見通しが不透明な現状で、新規採用を行っていいのか判断がつかない経営者も多いのではないでしょうか」(奥野氏)。

 人材不足の要因はいくつかあるが、休業期間中に人員削減を断行した店が多いという。また、解雇まで至らずとも、集客や売上アップが厳しい状況が続く中でスタッフが将来への不安を抱えたり、業務へのモチベーションが低下してしまい離職につながったケースも少なくない。

 新規採用をしようにも、少子高齢化による恒常的な人不足に加え、コロナ禍が飲食業界離れを加速させ、すでに人材の争奪戦が起きているという。「休業中に人員を減らした結果、今になって人手の確保に苦戦している企業も少なくありません。自粛要請が解除された後も、スタッフが足りないために営業時間を元に戻すことができないという声もあるほど。逆に休業期間を“良い人材を獲得できるチャンス”と捉えて採用活動していた企業は、しっかりと繁忙期に備えられている状態。このどちらかに二極化しているといえます」と奥野氏は分析する。

 ただ、いずれにしても、この状況でしっかり集客し、ファンを獲得していくためには、現有戦力のレベルアップが必要不可欠。今いる人材を大切にし、従業員の満足度やモチベーションを高めることは、QSC(クオリティー・サービス・クレンリネス)の向上や魅力ある店づくりにつながり、ひいては新規人材を呼び込む力にもなると言えるだろう。そのためにはどんなマネジメントが必要か、実際の取り組み例などを交えて紹介していこう。

スタッフのモチベーションを高めるためには?

密なコミュニケーションと、店の状況・情報の共有が大切

★モチベーション低下の要因
・働きがいを感じられない状況
・飲食業や会社の将来への不安
・会社としてのビジョンや目標の欠如

★モチベーション向上に有効な方法
・目標やビジョンの掲示、情報の共有
・人事評価においてグローイング(成長)・サイクルを回す
・感謝を伝えるなど、コミュニケーションの場を作る
・体験学習や研修を行う

 コロナ禍において、スタッフのモチベーションが下がってしまう要因の1つに、営業中に時間を持て余してしまうことが挙げられる。「緊急事態宣言などの影響で、営業していてもお客様が来ない状況だと働いている実感も無く、成長や達成感も感じられず、意欲が下がってしまう人は多いです」と奥野氏は話す。

 また、コロナ禍の不安定な状況の中でスタッフに明確なビジョンや将来の見通しを伝えられていないと、目標を見失ったり、モチベーション維持を阻害することにもつながりかねない。そんな中で、通常営業が再開され、人員が補充されないまま急に忙しくなることで、スタッフが心身ともに疲弊してしまう現象も起こりうる。

 こういった事態を回避するためには、「まずは、きちんとコミュニケーションを取ることが重要」と奥野氏は語る。「日々の業務でできる基本的なことの一つが、毎日時間を決めて朝礼などで目標を確認し、会社としての方向性や情報の共有を積極的に行うこと。情報の共有は連絡ノートを作ったり、LINEでグループを作成して行うのも有効です」(奥野氏)。加えて、営業再開に合わせてスタッフ一丸となってメニュー開発に挑戦するなど、新しい取り組みを始めるのも意欲アップにつながるという。

「人材マネジメントにおいて最重要」と奥野氏が語る「グローイング(成長)・サイクル」。「基準を示す」「教える」「要求する」「評価する」という4つのステップを回すことで、スタッフの意欲だけでなく、店のQSCも向上していく

 合わせて、人事評価をおろそかにしないこともモチベーションを高める上で大切だ。ポイントは、「グローイング(成長)・サイクル」を回すことだという。「グローイング・サイクル®とは、評価基準を示す、やり方を教える、教えたことを実践するように要求する、評価基準に照らし合わせて評価するというサイクルだ。極端な例ですが、店の基準がなく、教えも要求もせず、頑張っても評価しないという現場では、スタッフの成長は望めません。前向きに仕事をしてもらうためにも、この4つをうまく回していくことを意識していただきたいです」(奥野氏)。目標が明確化され、達成したときにしっかり評価してもらえれば、「また次も頑張ろう」と思えるはず。評価は、賞与などの具体的な形にできればベストだが、称賛や感謝の言葉だけでも効果は大きい。「『グローイング・サイクル®』を回すこと以外に、スタッフ間で感謝を伝える『サンキューカード』を導入している店も少なくありません。これは1人1枚、その日ありがとうと思ったことをカードに書いて、感謝する相手に渡す取り組みです。店長がスタッフ全員に1枚ずつ書くのも効果的。『ちゃんと自分を見てくれている』という喜びにつながりますし、ちょっとした感謝の言葉でスタッフの意欲はぐっと上がるはずです」と奥野氏は話す。

 このほか、業務時間外でも、コミュニケーションの場を意図的に作っていくのが望ましい。大人数で集まりにくい状況であれば、オンラインでの飲み会を開催したり、スタッフとともに生産地を訪ねて食材について理解を深める体験学習もいいだろう。また、モチベーションアップには、近年飛躍的に進歩したオンライン研修を活用するのも手だ。「当社で行っているオンラインセミナーの中で、数年前から人気なのが、自己評価を上げるためのメンタルコントロールについての講座です。特に今は誰もが不安を抱えやすい状況なので、アルバイトスタッフだけでなく、店長などマネージャークラスの方々も含めて、自分の気持ちをどうコントロールするかを学ぶ良い機会だと思います」と奥野氏は語る。

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店のQSCを維持し、向上させるには?

店のあるべき姿を数値化・明文化し、定期的にチェックする

★QSC向上に必要な取り組み
・定量的基準と定性的基準を設定
・グローイング・サイクル®を回して定期的にレベルチェック

 人材のマネジメントにおいて、スタッフのモチベーションアップと同じように重要なのが、いかにQSC(クオリティー・サービス・クレンリネス)を向上させるかだ。新型コロナの影響で思うように営業できず、QSCの低下を感じている飲食店も少なくないはず。どんなに優秀なスタッフが集まっていたとしても、ブランクが長いほどレベルが下がってしまうのは避けられない。それにもかかわらず、集客のための販促活動にばかり目を向けてしまう店も少なくないという。「QSCはサービス業にとって土台になるもの。販促活動という攻めの部分に気を取られ、QSCという守りの部分を忘れてしまうと、短期的に集客できても、お客様の満足度が上がらず、結果的にリピートにつながりません」と奥野氏は指摘する。

 また、テレワークが定着し、人の勤務場所や行動範囲が変化したことから、客層が変化しているため、あらためて新規客を獲得し、リピーターに変えていく必要がある。加えて、これまで忘年会や歓送迎会などでの団体客が見込めた時期は、幹事を務める人へのアプローチが重要だったが、今は宴会そのものが減っているため、個々の客をファンにすることがポイントになっている。そのためにも、QSCの向上の重要度は一層高まっているといえる。

評価基準は、数値などで明示する「定量的基準」と、「どんな目的のためにやるか」という行動プロセスを明示する「定性的基準」があり、両方をうまく使い分けて基準を示すことが大切

 QSCをコロナ禍以前に戻し、それ以上に高めていくためには「先述したグローイング・サイクル®を回してQSCチェックを継続的に行うことが大切」と奥野氏は呼びかける。クオリティー、サービス、クレンリネスのそれぞれの分野で、店のあるべき姿を数値化・明文化する「定量的基準」を設け、その徹底をスタッフに求めるのだ。例えばクオリティーにおいては、料理はマニュアル通りに作られているか、ポーションコントロールができているかを確認したり、料理の適切な温度を定めて温度計で管理したりすることなどが挙げられる。

 奥野氏は「定めた基準を満たしているか、定期的に確認するのが理想的」だという。チェックを担当するのは、複数店舗を抱える大・中規模企業であればエリアマネージャー、小規模経営の店であればオーナーが望ましい。ただ、一番重要なのは、チェックの有無に関わらず、日々の業務の中で店長(オーナー)がチェック役を担うということ。「『次はここをみんなで頑張って目標を達成しよう!』といった感じで、店舗ごとに強化項目や目標を定めてゲーム性を持たせるのも一案です」と奥野氏は話す。

 では、接客サービスなど数値化・明文化しにくいものはどうすればいいのか。「スタッフ全員が思い浮かべる理想の姿を統一させることが必要です。店として、接客の目的は何なのかといった「定性的基準」を提示して、それを実現するためにどんな行動を取るべきか、スタッフそれぞれが自分なりのやり方を考えるのもよいでしょう。また、今はマスクで顔の下半分が隠れて表情が見えにくいため、どうすれば笑顔が伝わるかを考えるなど、ウィズコロナにおける新たな基準の構築も大切」と奥野氏は答える。このほか、来店客の出迎えからお見送りまでの一連の流れやおもてなしのコツなどを、手本となるスタッフにやってもらい、それを動画に収めてスタッフ間で共有するのも良いだろう。サービスレベルの均一化が図れるのはもちろん、優秀なスタッフが普段何を考えているかがほかのスタッフの刺激やヒントになるからだ。

 そしてコロナ禍によって、これまで以上に高い水準が求められるようになったのがクレンリネスだ。マスクの着用や、不特定多数の人が接触する部分の頻繁な消毒はもちろん、トイレ掃除は時間や細かい清掃場所を定めて定期的に行うなど、徹底した管理を心掛けることが、これからの飲食店経営には必須な要素となるだろう。

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後編では、新人スタッフのマネジメントについて引き続き奥野氏に教えていただく。
「コロナ禍を力に変える人材マネジメント~新人へのアプローチ&これからの飲食店の人材育成~」

株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパン 取締役 奥野 律子 氏
ホテルや飲食店などの企画運営を手掛ける企業で採用・労務・教育責任者などの業務を経て女性初の役員に就任。その後、現BCホールディングス株式会社の事業会社であるビズキューブ・コンサルティング株式会社に入社。2012年、BCホールディングスグループのサービス業に特化した人財教育・研修を提供する株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパンの設立メンバーとして参画。企業の課題に合わせた教育・評価などの仕組み構築を得意とし、これまでに46社以上の人事コンサルタントを務めている。


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