2019/10/29 特集

泣き寝入りはもうしない! 悪質クレーム&無断キャンセルからお店を守る!

来店客による悪質なクレームや無断キャンセルは、飲食店を悩ます問題。忘年会シーズンを前に、これらのトラブルからお店を守るための準備や事後の対応など、飲食店専門弁護士の石﨑冬貴氏にポイントを聞いた。

URLコピー

テーマ① 悪質クレームからお店を守る

飲食店専門弁護士 石﨑冬貴氏
神奈川県弁護士会所属。一般社団法人フードビジネスロイヤーズ協会代表理事。顧客対応や労務管理など、飲食店の法律問題を専門的に取り扱う弁護士として、多くの飲食店の顧問を務める。
石﨑氏著書「なぜ、飲食店は一年でつぶれるのか?」(旭屋出版)
 

どうして飲食店は悪質クレーマーの標的となってしまう?

過度な「お客様第一主義」がクレーマーを生む一因に

 消費者が来店した店で暴言を繰り返したり、土下座を強要したりする悪質なクレームが、近年、業界を問わず深刻な問題として取り上げられるようになっている。飲食店専門弁護士の石﨑冬貴氏は、この背景について「以前と比べて悪質なクレーマーが目立って増えているわけではなく、インターネットやSNSの普及によって、トラブル時の動画や写真が世間の目に触れることが増え、問題の表面化が進んでいるのが要因の一つ」と説明する。

 悪質クレームの問題は、あらゆる業種で起こり得るが、「特に飲食業は、入店時の案内から注文、料理の提供、会計など、スタッフとお客さんが接する機会が多く、『口に入れるものを提供する』というデリケートな側面もあるため、比較的クレームが発生しやすい傾向にあります」(石﨑氏)。また、居酒屋などでは、来店客が酒に酔って気が大きくなり、普段は隠れているその人のクレーマー気質が表に出てしまうことも少なくない。さらに石﨑氏は、「チェーン店の、いわゆる〝サラリーマン店長.は、『対応を間違えて本部からの評価を下げたくない』などの理由で、穏便に済まそうと理不尽な要求を飲んでしまうケースも多いのではと感じます。このような対応が『客は店に何を言っても許される』という誤った認識につながり、クレーマーを助長している面もあります」と指摘する。

 こうした流れの揺り戻しとして、最近ではクレーム被害についてSNSなどで声を上げる飲食店も増えてきている。行き過ぎた「お客様第一主義」を見直し、飲食店が正しい消費者対応を考え直すべき時代になっているのだ。

 ただ、対策といっても、飲食店でのクレームは発生から解決まで現場で完結するケースが多いため、一般企業の消費者対応のようにカスタマーセンターなどの専門部署が担うことは難しい。「現場スタッフによる個別対応に任されていることがほとんどですが、適切な対応を知らないために、言葉遣いや態度などが原因で、さらに問題がこじれる事例もしばしばあります。現場のスタッフがクレームで疲弊するのを避けるためにも、個人の能力に任せるのではなく、会社として対策を立てる必要があります」と石﨑氏は断言する。特に、大人数の宴会利用が増える年末の繁忙期は、忙しさから料理の提供が遅れたり、個々の来店客を細かくケアできなかったりと、トラブルの原因も増えがちだ。また、新規客を含めた来店客全体の母数が大きくなるため、クレーマー気質の人が来店する確率も高まる。忘年会シーズンを前に、いま一度、対応について考えることが大切なのだ。

クレームが発生! まずは、どんな対応が求められる?

初期対応では3つの原則を守って被害拡大を防ぐ

 クレーム対応を考えるうえで、まず認識したいのが、「クレームには悪質なものと正当なものがあり、その2つはまったく別物だということ」と石﨑氏。商品やサービスに不備や疑問があるとき、消費者が指摘するのは当然。クレーム発生時は正当か悪質かは判断しにくいので、偏見を持たずに対応することが大切だ。さらに、「正当な指摘にせよ、悪質なクレームにせよ、初期対応で守るべき原則は同じ」と石﨑氏。それが「誠心誠意の謝罪」「事実・原因の確認」「要求・要望の確認」の3つだ。

 まず最初の対応として必要なのが「誠心誠意の謝罪」。「謝ると非を認めたことになる、と心配する人もいますが、それは文化の違う海外での話。日本でのクレーム対応において『申し訳ありません』は、いわば基本的な挨拶。最初に謝罪の一言がなかったばかりに、大ごとに発展したケースも多いです」と石﨑氏は助言する。明らかに理不尽な理由でクレームを受けたとしても、「理由はともかく、不快な感情にさせてしまったことを謝る」と考えて、心から謝罪することが大切だ。

 次に、何が起きたのか、何に怒りや不満を感じているのかなど「事実・原因の確認」をして、どんな対応を求めているか「要求・要望の確認」を行う。「飲食店の場合、原因となった行為(接客)や商品(料理)はすべて店内に存在するものなので、事実・原因の確認は比較的容易です」(石﨑氏)。一方で、「要求・要望の確認」では、『どういう対応を求めているか』を直接聞くと、相手の感情を逆なでする恐れがあるので注意が必要だ。「やり取りの中から、相手が何を求めているかを汲み取って提案する必要があります」と石﨑氏。一般的に、接客・サービスに関することなら、それについての「謝罪」を、商品(料理)に関する場合は、それに見合う「返品・返金」などを求められる。「重要なのは返品や返金などについて、どこまで対応するか、基準を明確にしてスタッフ間で共有しておくことです」(石﨑氏)。この3つの原則に沿って対応すれば、「正当な指摘については解決する可能性が高く、少なくとも問題が悪化することはありません」と石﨑氏。逆に、このやり取りのなかで、次に上げる特徴が見えるようになったら、悪質なものと判断して対応を切り替える必要が出てくる。

悪質なクレーマーを見極めるポイントはどこにある?

“話の堂々巡り”が決め手。理不尽な要求も判断材料に

 悪質なクレーマーは見た目ではわからない。酔っ払って騒いでいるように見える人が実は正当な主張をしていたり、一見すると礼儀正しい人が、恐喝まがいの要求をしてくることもある。「ただ、悪質なクレーマーには、いくつかの特徴があります」と石﨑氏。その最たるものとして石﨑氏が上げるのが「話の堂々巡り」だ。サービスの改善や料理の交換が目的ではなく、大声で怒鳴り散らしたり、長々と説教を続けたり、言葉尻をとらえて難癖をつけて論破しようとするなど、「不満をぶつけて、相手の上に立つこと」を目的にしているため、話を蒸し返して終わらせようとしない。ゴールに向かって建設的に話し合う意思がないため、店が謝罪や返金などの提案をしても、それを受け入れて納得することはなく、結果的に話が堂々巡りしてしまうのだ。

 そのほかに、「料理で腹を下したから100万円支払え」など現実的に対応が難しい理不尽な要求をしたり、「誠意を見せろ」などあいまいな表現を繰り返して、具体的な要求を言わないのも悪質なクレーマーだと判断するポイントになる。もちろん、「殺すぞ!」といった暴言や土下座の強要、暴力、セクハラなども、あきらかに悪質な行為。「これらの特徴を大きくまとめると、“無茶な要求をするタイプ”と“ただ文句を言いたいタイプ”の2つに分けられます」と石﨑氏は語る。

 こうしたクレーマーに対して、いくら初期対応の原則を守って誠実に対応し続けても解決は難しい。むしろ、やり取りに時間ばかり取られて業務が滞ったり、ほかの来店客に迷惑がかかるなど、2次的な被害が拡大するだけ。こうした特徴が見受けられた時点で、次ページにある悪質クレーム用の対応に切り替えることが必要となる。

全3ページ