2019/11/21 特集

【PART2】外国人客 受け入れキーワード10-“食の多様性”の理解とメニューづくり・提供ポイント(2ページ目)

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「ハラール(ハラル)」「ベジタリアン」のポイント

KEYWORD8「ハラール(ハラル)」、KEYWORD9「ベジタリアン」

ルールとニーズを正確に捉えれば、対応メニューは難しくない!

 多様な世界の食の主義の中で、代表的なものが「ハラール」と「ベジタリアン」だろう。東南アジアに多いムスリム(イスラム教徒)は人口が増加中で、ベジタリアンも動物愛護や環境問題への関心の高さから絶対数が増えている。また、訪日外国人全体の増加に伴って、彼らの訪日人数も増えていると予想される。しかも、ムスリムやベジタリアンは、日本人に比べて客単価が高い傾向にある(下図参照)。今後、ハラールやベジタリアンに対して飲食店がすべき対策は「増えることはあっても減ることはない」と守護氏は断言する。ところが、「ハラールにしてもベジタリアンにしても、日本ではその内容が誤解されていることが多い」と守護氏。「もっと正確に理解すれば、少しの工夫で彼らに喜ばれる店になれるはず」と語る。それぞれについて、具体的に見ていこう。

ムスリム(ハラール)、ベジタリアン、ヴィーガンらは、客単価が高い傾向が顕著。ムスリムは酒を飲まないのでディナーが安価だが、ランチにはお金をかけることも多い

 まず「ハラール」。そもそもハラールとはイスラム法で「許されているもの」の意で、豚肉とアルコールが禁忌だ。また、豚肉以外の肉も、ムスリムが決められた手順で屠畜する「ハラール屠畜肉」に限る。豚由来の油(ラード)、アルコール成分入りのしょうゆやみりんも使用することができない。だが、魚や野菜に制限はないので、調味料さえ気をつければ、海鮮料理は問題がない。さらに、ハラール屠畜の鶏肉は日本にも数多く輸入されている。「ブラジル産やタイ産の鶏肉は、ほぼハラール。オーストラリア産の牛肉やラムも、ほとんどがハラールです。日本の飲食店の多くは、ハラール認証を受けていると知らずに、これらの肉を使っています」(守護氏)という。

 調味料もハラール認証の製品が国内大手メーカーから市販されている。これらも、普通の調味料と値段や味にほとんど違いがないため、ハラール製品と知らずに使用している飲食店は珍しくないという。つまり、現状でも少なくない飲食店がハラールに対応した料理を提供できている可能性は高く、ハラール対応は決して難しくはない。最近では「ハラール屠畜の和牛」も登場し、「高価格の『ハラール和牛コース』で繁盛している割烹店などもあります」と守護氏は話す。

異国でも「ハラール認証」の店でしか食事をしないムスリムは少数派。大部分のムスリムは、認証がなくても食材などの情報があれば、自分で判断して店を選んでいる

 ちなみに「ハラール認証」とは、「ハラール認証機関」が、ムスリムのルールに合致している製品や店を承認するもの。認証機関は多数あり、統一基準は存在しておらず、認証を取得するには審査と費用が必要な場合が多い。ただし、「ハラール認証を取得したからといって、その店にムスリムが殺到するとは限りません」と守護氏。上の図にあるように、ハラール認証の店でないと食事を取らないムスリムは、むしろ少数派だ。多くのムスリムは、認証の有無を気にせず、ハラール対応のメニューがある店を選んでいる。つまり、彼らが求める情報を店側が発信できれば、集客は十分に可能ということだ。守護氏は、「ハラールに対して、日本の飲食店は不必要にハードルを上げすぎています。彼らのルールとニーズを理解すれば、すぐにでも集客できるようになる店は多いはず」とアドバイスする。

 一方、ベジタリアンについては「逆にハードルを下げすぎて、結果として対応が不十分」と守護氏。「多くの日本人は、『ベジタリアン=菜食主義者』と考え、サラダしか食べないイメージがあります。しかし、個人差はありますが『ベジタリアンは肉や魚を食べない』『ヴィーガンは動物由来の食品を食べない』という定義が自然」(守護氏)。穀物はOKなので、牛乳やバターを使わないパンケーキやソイ(大豆)ミートのハンバーガー、植物油で揚げたポテトフライなどが好きなベジタリアンやヴィーガンは、むしろ普通だ。守護氏も「ベジタリアンが和食を食べたいと言うと、日本人の多くは精進料理や懐石料理をイメージしますが、彼らが食べたい和食とは、ラーメンやたこ焼き、カツ丼、カレーライスなど日常食をベジタリアン用にアレンジしたものを指すことが多いのです」と指摘する。

 では、飲食店がムスリムやベジタリアン、ヴィーガンらに喜ばれるためにはどうしたらよいだろうか。

 守護氏は「まず、自店のメニューの中で、ハラールやベジタリアンに対応しているものをチェックしてください」と提案する。例えば、刺身はハラール、枝豆や多くのサラダはハラール、ベジタリアン、ヴィーガンに対応する。次に、調味料を変えればハラールやベジタリアン対応になる料理をピックアップ。肉を「ハラール屠畜肉」に変えたり、ソイミートを導入することで、さらに対応メニューを増やすことも可能だ。「それらを集めて再構成し、ご飯ものやパスタなど炭水化物系のカテゴリーで、ハラールとベジタリアン対応の料理を数品用意すれば、彼らに満足してもらうことは、決して難しくありません」と守護氏は語る。

 もちろん、ハラールやベジタリアン対応メニューを、完全に別立てで開発する方法もある。だが、食材や調味料の混在を避けるために、調理器具や食材管理の手間が増え、在庫管理が煩雑になって利益やオペレーションを圧迫することも予想される。守護氏は「それよりも、今あるメニューをどうすれば、ムスリムやベジタリアンの人たちにも食べてもらえるようになるかを考えたほうが近道ではないでしょうか」とアドバイスする。

ベジタリアン対応のパンケーキ(左)とフライドポテト。動物由来の食材と食品を使わなくても、こうしたメニューの提供は可能(写真提供/フードダイバーシティ株式会社)

オーストラリアのファストフード店のメニューパネル。ヴィーガン(VEGAN)対応のハンバーガーを、普通のハンバーガーと同等にアピール(写真提供/フードダイバーシティ株式会社)

 ハラールやベジタリアンの対応メニューを認識・提供できていれば、来店したグループ内の外国人に該当する人が含まれていても、全員に喜んでもらうことができる。言い換えれば、グループ内に1人でもムスリムやベジタリアンがいれば、対応店が選ばれやすくなるのは自然の成り行き。店の差別化の1つとしても有効ではないだろうか。海外では、ベジタリアンやヴィーガン向けのハンバーガーが、普通のハンバーガーと同じように販売されていることも多い(写真上参照)。日本ではまだ、少しずつ浸透し始めた段階だが、ハラールやベジタリアンに対応することで、新たなビジネスチャンスにつながる可能性は小さくない。

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