Vol.7
少人数でピークをこなせるのが、一流の料理人
キッチンは「少数精鋭」で「スピード提供」できること、これが命です。これが実現できていないと、どんなに高度な料理を出していても、儲かる店にはなりません。
まず、キッチンがコンパクトであること。キッチンが大きいと、必要人数も増えます。1人の調理人がいくつもの作業を同時に行なえるように設計されていないと、利益を生むキッチンにはなりません。「キッチンは大きめに作って、繁忙時に人を補充して山場を乗り切るべきだ」と主張する人がいますが、間違いです。町中のオーナーシェフの店などは、キッチンは旦那さん、フロアは奥さんの2人だけで切り盛りしているではありませんか。その形が基本です。この場合、旦那さんも奥さんもすぐれた“多能工”でなければ、山場を乗り切ることはできません。
3人での仕事が通常のキッチンに、1人加えて4人で仕事をしたとします。そうすると、4人が常態となってしまい、3人体制に戻せなくなります。仕事とはそういうものです。半端料理人1人増やすと、その人間なしには回せなくなってしまうのです。
一流の料理人の条件は何かと聞かれれば、私は「少数のチームでより多くのお客様にクイックに料理を提供できること」を第一に挙げます。短時間に多くのお客様をこなした経験を持たない料理人は、絶対に一流にはなれません。これ以上は無理という限界を突破したとき、ひとつ次元の高い技能が身に付きます。超多忙が技を鍛えるものなのです。
開店前の準備力で勝負はついている
料理のスピード提供を可能にするものは、プレパレーション(準備)、つまり下ごしらえです。
だだっ広いキッチンで人ばかり多い店でよく見かける光景は、ピーク時に下ごしらえを一生懸命やっている姿です。「今、その仕事をやっていちゃダメでしょ」というような作業を黙々とやっている料理人が多いのに驚かされます。
完璧なプレパレーション、これは繁盛店の第一要件です。これを実現するには、まず調理作業の「ふ分け」が行なわれていなければなりません。開店前にやる作業は何なのか、開店してからやるべき作業は何か。そして、その順番は。誰がいつ何をやるのか。このスケジューリングができあがっていなければなりません。そして、この「ふ分け」で驚かされることは、開店前にやるべき作業の多さです。一般的に言って、キッチンの全作業のうちの7割は開店前に終わっていなければなりません。「勝負は開店前にすでについている」と言い換えても良いかもしれません。
そうしますと、単純な下ごしらえ作業だけをするパート・アルバイトを雇ってもいいことになります。その人達は、開店前に作業を終わらせて、営業時間には店にいないことになるかもしれません。しかし、プレパレーションを「やり過ぎる」こともあってはならないことです。
注文が来てからやらなければならない作業を厳密に規定しておかないと、とんでもなく劣化した料理が出てしまいます。これはとても危険なことです。効率を追いすぎると、店の評判を落としてしまう典型的な例です。
いずれにせよ、メニューの品目別に「今日何皿売れるか」の正確な予測がなければ、プレパレーションはできず、何も良い方向に動きません。そして、この正確な予測を持たないで営業に突入している店が余りに多いのが現状です。コワいことです。