石釜 ベイクブレッド茶房タムタム
Key Point
- 石釜で焼く独自のホットケーキを開発
- ほかでは味わえない商品で目的客を誘引
- 写真映えの良さでSNSへの投稿を促進
リニューアルを機にほかにはない商品を模索
石釜オーブンの輻射熱(ふくしゃねつ)を利用し、独特の食感に焼き上げる「石釜焼きホットケーキ」(803円)で一躍有名店となった「石釜 ベイクブレッド茶房タムタム」。古書店街で知られる東京・神田神保町で、1973年に喫茶店「タイム」として創業し、1980~2005年まではコーヒーチェーン「珈琲館」の加盟店として営業していた。その後、再び「タイム」に戻ったが、2011年3月に東日本大震災が起こり、築70年を超えたビルの耐震性が危惧され、2013年から1年かけて建て替えることになった。2014年9月に「タムタム」としてリニューアルオープンするまでの間に、店主の田村信之氏が「ここにしかないメニューを作りたい」と試行錯誤を繰り返し、誕生したのがこの石釜焼きホットケーキだ。
リニューアル後の看板メニューの開発に際し、田村氏はまず、「石釜焼き」をキーワードにしたらどうかと考えた。メーカーの協力を得て、改装中に何十回も製パン用の石釜オーブンを運んでもらい、トーストやピザトースト、フレンチトーストなどの試作を行った。その過程で「石窯オーブンでホットケーキは焼けるだろうか?」と考えたのが、誕生のきっかけとなった。「珈琲館」の時代も銅板で焼き上げるクラシックなホットケーキは人気商品だったが、石窯のオーブンでふっくら焼き上げるにはひと工夫もふた工夫も必要だった。厚手の鉄製の器だと中まで火が通りづらかったため、やや薄手の器を探し、生地の配合も調整しながら、リニューアルオープン直前にようやく完成。生地には、独自に調合してもらっている小麦粉、卵、砂糖、牛乳、ベーキングパウダーのほか、リコッタチーズ、バニラアイスクリームを使っている。周りはカリッと香ばしく、中はふんわり、しっとりとした独特の食感に仕上がっている。ふくらみのある円盤型1枚に焼き上げるため、ボリューム感があり、たっぷりと添えているホイップクリームと相まって見た目のインパクトが大きく、写真映えもする。そのため、お客がSNSへ投稿することも多く、集客の追い風となっている。
休業中に通った喫茶学校の講師との出会いを機に進展
田村氏は1957年、東京・高田馬場生まれで、1983年頃から母親が創業した喫茶店を手伝い、継承してきたベテランだが、建て替えによる休業期間を利用して、料理や喫茶・カフェの専門学校を受講してみようと考えた。厳しさを増す個人経営の喫茶店の将来を考えると、それまでと同様のスタイルでは難しい。何か新しいもの、ほかにない商品を出したい、それは何なのかを探るためだった。いくつかの学校を調べた中で、渋谷にあった喫茶・カフェの専門学校の1カ月コースを受講。そこの講師だった店舗デザイナーの花岡文彦氏(2019年逝去)との出会いが、田村氏に多大な影響を与えた。田村氏は、花岡氏に新店舗の設計を依頼することにし、以降、月2回ほど会ってはディスカッションを重ねた。
花岡氏はまず、「行列ができる店を作ろう」という大胆な提案をした。とはいえ、手取り足取り指導するのではなく、店主自身に考えさせながら、一店一店、親身になって店舗を作り上げていく手法を取っていた。行列ができる店の実現に半信半疑だった田村氏だが、「石釜焼き」の発想を花岡氏が「おもしろいのではないか」と後押ししてくれたことから、新店舗のメニューやスタイルが固まっていった。
リニューアルオープン後、すぐに行列ができるようになったわけではなく、約1年間は客数が伸び悩み、やはり無理なのか、もう閉店しようかと考えるまでに追い込まれていた。そんな中、古書店街の古本市の公式ガイドブックで同店のホットケーキが紹介され、続いて近隣の大学や地元のフリーペーパーなどにも掲載。さらに、テレビのグルメ番組にも登場したことで大きな反響を呼び、路地にある15坪弱32席の隠れ家的な喫茶店に、ホットケーキを目当てとする女性が行列を作るようになった。今では9割以上のお客がホットケーキを注文。1日に約200枚を提供しており、客単価は1300円となっている。
同店がリニューアルを機に開発した独自の石釜焼きホットケーキで、一躍人気店となった要因は、以下のようになるだろう。
- 石釜オーブンで焼く独特の食感のホットケーキを開発している。
- ほかでは味わえない商品であるため、路地にある小規模店でありながら目的客の誘引に成功している。
- 写真映えし、お客によるSNSへの投稿が集客の追い風となっている。
新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言発令中は、営業時間の短縮、週末や祝日の休業、テイクアウト販売の開始などで、感染拡大防止に努めながら、営業を継続してきた。6月からは少しずつ営業時間を延ばしており、新たな生活様式に対応した営業スタイルの模索を続けている。
住所
東京都千代田区神田神保町1-9 1F
TEL 03-3295-4787
営業時間
11:00~21:30(L.O. 21:00、土・日曜日・祝日12:00~)
定休日
不定休(月2~3回)
※営業時間・休業日は変更の場合あり。日曜日