2020/09/04 繁盛の法則

新たな販売方法を工夫しコロナ禍に挑むビストロとは

東京・中野にある「ネオビストロ MURA」は、カジュアルにフランス料理が楽しめる。4月より、人気メニューのキッシュやローストポークなどを入れた日替わりの弁当「MURA弁」を販売し、困難な状況を乗り越えている。

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ネオビストロ MURA

Key Point

  1. 料理技術を生かした弁当を日替わりで開発
  2. 緊急事態宣言中は弁当の製造販売に専念
  3. 窮状を切実に訴えた張り紙が効果を発揮

フランス料理をカジュアルに楽しめる店としてスタート

 フランス料理を手ごろな価格でカジュアルに楽しんでほしいというコンセプトの「ネオビストロ MURA」は、東京・中野駅北口から徒歩2分、中野通り沿いのビルの3、4階に位置している。

 2016年3月に「ビストロMURA」を3階でオープンし、4階のテナントが撤退した2018年3月に「メゾンドMURA」を出店した。1年ほどは3階では肉料理を、4階では魚料理をメインにして違いを出していたが、その後はほぼ同じメニューにし、「ネオビストロ」として一体化させている。創業時は、経営者の大村俊亮氏、シェフの大村隆亮氏兄弟と、マネージャーを務める井口聖也氏など、計4人の仲間でスタートした。現在、俊亮氏は原宿での居酒屋経営、隆亮氏は四谷のフレンチレストランの経営に重心を移しており、同店の運営はマネージャーである井口氏が中心となっている。

 店舗規模は3階、4階ともに約20坪で、オープンキッチン前のカウンター席、テーブル席、奥の個室という、ほぼ同様の造り。全60席あるが、現在は新型コロナウイルスの感染予防のため、席数を減らし、各階11卓44席で稼働している。

 特に人気があるのは、2時間飲み放題付き3828円のコースで、前菜、肉料理、魚料理、煮込み料理など、ソースも含めすべて手作りするビストロ料理の数々が味わえる。中でもオープン以来の看板メニューは「名物!とろ~りキッシュ」(1078円)で、焼きたてを提供するため、プリンのようなフワフワ、トロトロの食感が楽しめる。近隣に勤務する30~40代のビジネス層が主な客層で、客単価は昼1000円、夜は4000円。コロナ禍前は飲み放題付きコースを利用するグループが多かった。

オープン当初からの看板商品である「名物! とろ~りキッシュ」(1,078円、ハーフサイズ550円)。卵、牛乳、生クリームなどを混ぜた生地に、エビ、ベーコン、タマネギ、チーズなどを加えて焼き上げる。アツアツで提供するため、プリンのようにフワフワ、トロトロした食感が楽しめる。ドリンクはワインに力を入れており、フランス産を中心に、国産も含めた各国のワインをそろえている

独自の弁当「MURA弁」が予想以上の大ブレーク

 ところが、今年3月ごろから新型コロナウイルス感染症が急拡大し、4月には「緊急事態宣言」が発令された影響で、イートインの売上は対前年比10~20%にまで激減した。そこで始めたのが、弁当「MURA弁」の販売だった。まずは500円で2種類を用意し、4月10日から20個ほど販売を開始。4月13日からは中野通り側の3、4階の窓を最大限に使い、「#助けて下さい#中野の中心で#愛を叫びながら#テイクアウト#始めました」と、手書きの張り紙を掲示した。映画やドラマでも大ヒットした片山恭一原作のベストセラー小説「世界の中心で、愛をさけぶ」を元に考案した悲痛で切実なメッセージが、周辺の通行人のみならず、各種メディアにも注目された。その効果で「助けに来たよ」と買いに来る人が急増し、弁当販売が一気にブレーク。ピーク時には1日平均200個を販売するまでになった。

 弁当販売は初めてだったが、人気メニューのキッシュやローストポーク、牛バラ肉の赤ワイン煮込みなど、家庭でおいしく作るのは難しい料理を組み込んだり、普段は店舗では提供しないオムライスやハンバーガーなどを販売してみたりと、独自の工夫を加えた弁当を日替わりで用意したことで、好評を得た。その後、次第に弁当の製造販売に専念せざるを得ないほどになり、8時から仕込みを開始するように。売上も前年比100%近くまで戻すことができたという。

 同店が緊急事態宣言下のイートインの落ち込みを、弁当販売で乗り切れた要因は、以下のようになるだろう。

  1. 店の人気メニューなどを入れた独自の日替わり弁当を販売。
  2. 緊急事態宣言発令中は弁当の製造販売に専念する体制で運営。
  3. 店舗の窮状を切実に訴えた張り紙が効果を発揮。

 5月25日に緊急事態宣言が全面解除された後は、使用するテーブル数を減らし、入口や各テーブルにアルコール消毒液を配置。夜は入店時に検温に協力してもらうなどの感染予防対策を行い、3階は6月1日から、4階は6月15日からイートインの営業を再開し、東京都の「感染防止徹底宣言ステッカー」も掲示している。弁当販売は当面継続する予定だが、夏は食中毒の危険を避けるため、600円と700円の弁当をメインに、1日40~60食の販売に抑え、売り切れ次第終了としている。

 「緊急事態宣言下ではお客様と接する機会が減ってしまったので、店内営業を再開してからは、改めて接客の楽しさ、大事さを痛感しています。早くコロナ前の状況に戻ってほしいですが、しばらくは自分たちにできることを模索していくしかないですね」と井口氏は話す。

 また、7月22日に系列店として東京・池尻大橋に惣菜と弁当の持ち帰り専門店「Bet(ベット)」をオープンし、好調なスタートを切っている。ウィズコロナ時代の食業のあり方を、当面はこの2店で探っていく考えだ。

ネオビストロ MURA
住所
東京都中野区中野5-65-6 山和ビル3 3・4F
TEL 03-5318-5570
営業時間
11:30~15:00(L.O.14:30、弁当販売は11:00~売切れまで)、17:00~22:00(L.O.21:00)(変更の場合あり)
定休日
不定休
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