2020/10/06 繁盛の法則

コロナ禍を新たなチャンスに変える郊外立地の洋食店とは

横浜・青葉区の「カネ保水産」はフレンチ、イタリアンに加え、マグロ料理を提供。店頭に惣菜やマグロなどを陳列するショーケースを置き、コロナ禍を機に急増しているテイクアウト需要にも応えている。

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カネ保水産

Key Point

  1. イタリアン、フレンチ、マグロ料理で幅広く集客
  2. 住宅街の郊外に出店
  3. 需要に合わせてテイクアウトを強化

店名もメニュー構成も個性派として地元で定着

 フレンチ、イタリアンに加え、マグロ料理の数々をそろえた横浜・青葉区の「カネ保水産」は、ユニークな店名と共に、個性派店として地元での認知度を上げている。

 オープンは2010年9月で、当初はビルの1階の角地、20坪40席の規模だったが、2015年に隣接の物件が空いたため、拡張して36坪66席となった。東急田園都市線藤が丘駅から徒歩15分ほどかかるが、整備された並木通りに面し、飲食店や商店が並ぶ一角にあり、周辺には住宅街が広がる。現在は店頭に惣菜やマグロなどを陳列するショーケースを置き、コロナ禍を機に急増しているテイクアウト需要にも応えている。

 オーナーシェフの長船大亮(おさふねだいすけ)氏は、北海道・札幌出身で、神奈川・川崎にある大学に進学したことから、東急沿線に住むようになった。在学中から飲食店でアルバイトを始め、その後も横浜・センター南駅近くの結婚式場や、鎌倉・七里ガ浜のイタリアンの人気店などで、フレンチやイタリアンを中心に修業し、36歳で同店を創業した。奥さんの千夏さんは大学時代の同級生で、千夏さんの実家は三浦半島の三崎港で昭和初期からマグロ仲卸業のカネ保水産を営んでいる。そこで、同社から仕入れる品質のいいマグロをメインメニューに加えることで、他店との差別化につながり、客層を広げることもできるのではないかと考えた。店名も、同社の屋号を使わせてもらう許可を得て、柵どりしたマグロの販売も行うことにした。

 最初に借りた角地の物件は、スナックの跡地だったため、壁で囲まれ、外からは店内の様子がほとんど見えない造りだったが、2方向を引き戸で開放できるように改装し、屋外にはペット同伴も可能なテラス席を設けた。また、建物の裏手に三十数台停められる駐車場があり、当初は1台分の契約だったが、徐々に増やして現在は15台分を自店用に確保。車で来店する人の利便性を向上させてきた。

 パスタ、ナポリピッツァ、三崎マグロを軸にする体制は創業時から変わらないが、細部では常にブラッシュアップに努めている。特にピッツァは2019年に専用窯を新調し、短時間で食感の良いピッツァが焼けるようになった。1枚ずつ焼く電気窯で、庫内の温度が500℃ほどに上がるため、1分前後でふっくらと香ばしく焼き上がる。また、店舗拡張時に本格的に導入したのがジェラートで、厳しい衛生基準をクリアして「アイスクリーム類製造業許可」を取得。季節のフルーツを使ったジェラートなど10種を毎朝製造している。店内で提供するだけなら製造許可は不要だが、取得したことでジェラートのテイクアウト販売も可能となり、ジェラート類の売上のうち約1割を占めている。客単価は昼1500円、夜3000円で、女性を中心に、家族連れや年配の人も多く訪れている。

三浦半島・三崎港から直送されるマグロを提供することで、年配の人も含め幅広い客層を誘引し、柵どりしたマグロの販売にもつなげている。写真の刺身は「中トロ」(900円)。ナポリピッツァは創業時からの主力商品の1つで、一番人気は「マルゲリータ」(写真/ 920円)。テイクアウトも創業当初から行っていた。昨年、高性能のピッツァ専用窯に入れ替えたため、短時間でふっくらと焼き上がるように

イートイン営業自粛を機にテイクアウト需要が急伸

 新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言発令中は、イートインの営業は自粛し、テイクアウトを強化した。もともと創業時からピッツァや惣菜類、マグロのテイクアウトは行っていたが、パスタや一品料理にも対応。通り側の客席約10席分を一時的に撤去して、店内にあったショーケースをそこに移動した。貼り紙などでテイクアウトをアピールしたことで、それまでは1割程度だったテイクアウトが急増し、新規客の獲得にも貢献。メニューを紹介したチラシを作成し、電話予約してもらえれば、その時間までに料理を作っておくようにした。6月からはイートインの営業も再開したが、テイクアウトも引き続き好調で、売上の約3割を占め、両方への対応で多忙な状態が続いている。

 同店がテイクアウトの強化により、コロナ禍でも堅調に売上が推移している要因は、以下のようになるだろう。

  1. イタリアン、フレンチをベースに、マグロ料理を加えて特徴を出し、幅広い客層をつかんでいる。
  2. 居住人口の多い住宅街である郊外に出店している。
  3. 開店当初から手がけてきたテイクアウト販売を、コロナ禍でのニーズに合わせて強化している。

 イートインを再開してからは、テイクアウトのピークの時間帯とのズレや、両方をこなすためのオペレーションの再構築など、さまざまな課題を改善すべく、試行錯誤が続いている。

 「コロナの影響がいつまで続くかわからないですが、テイクアウトの大きな可能性が見えてきたので、ある意味ではチャンスだと思っています。ただ、店の設計や設備もテイクアウト主体にはなっていないので、もう少し整理して、きちんとした形でやっていきたいです」と長船氏は語る。デリバリーにも関心があり、今後はコロナ禍の状況を見極めながら、前向きに取り組んでいく考えだ。

カネ保水産
住所
神奈川県横浜市青葉区もえぎ野28-1 杉浦ビル1F
TEL 045-511-7524
営業時間
11:00~15:00(L.O.14:30)、18:00~20:30(L.O.20:00) テイクアウト11:00~20:30(調理が必要な商品の受付は11:00~14:30、17:00~18:30)(変更の場合あり)
定休日
月曜日夜、火曜日