2020/11/06 繁盛の法則

懐かしさと新しさが融合し、幅広い客層をつかむ喫茶店とは

東京・千歳船橋にあるレトロな喫茶店「喫茶パオーン」。アイスクリームと真っ赤なチェリーをのせた「クリームソーダ」などのドリンクや食事メニュー、スイーツを充実させ、幅広い年齢層を獲得している。

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喫茶パオーン

Key Point

  1. 懐かしくて新しいレトロな喫茶を創出
  2. 自社製味噌を使ったメニューで差別化
  3. 各店で個性を打ち出しながら4店舗を展開

味噌の消費拡大を狙い、醸造元が飲食店を出店

 「パオーン」といえばゾウの鳴き声だが、飲食店の店名であり、しかもレトロな喫茶店となると、不思議なインパクトがある。東京・千歳船橋駅から徒歩2分ほど、商店街にある「喫茶パオーン」は、2019年11月にオープン。新しさと懐かしさが同居する12坪19席の個性派店だ。ペーパードリップで淹れる「コーヒー」(495円)や、アイスクリームと真っ赤なチェリーをのせた「クリームソーダ」「レモンフロート」(各638円、ゾウのクッキー付き726円)などのドリンクのほか、味噌煮込みうどん、カレーやオムライス、トーストなどの食事メニュー、「プリンアラモード」(968円)などのスイーツも充実させている。幅広い年齢層が来店し、若年層は「かわいい!」、熟年層は「懐かしい…」と、それぞれの想いを寄せながらゆったりとしたひとときを過ごしていく。食事とドリンクを組み合わせて注文する人が多く、客単価は2000円弱になる。

 経営母体は愛知・西尾市にある味噌の醸造元の今井醸造で、2015年から出店を開始した食堂・喫茶業態「ぞうめし屋グループ」の4店目に当たり、初の東京進出店である。1958年創業の今井醸造は、愛知らしい豆味噌を醸造し、加熱処理しない生味噌を販売している。現社長の今井大輔氏は1979年生まれで、高校卒業後、2年間アパレルの販売を経験し、20歳のときに祖父が創業した今井醸造に入り、2015年に三代目社長に就任した。

 今井氏は、祖父や父が守ってきた安全でおいしい味噌造りを継承しながら、その販路を広げるために、2012年から移動車での販売を開始。味噌を使ったごはんやおかずを販売したところ、変わった屋台としてテレビなどメディアでも取り上げられた。定期的に開かれる市場に出向いたり、ブログやSNSで出店情報を発信するようになると、次第にリピーターが増えて手応えを感じ、味噌を使った料理を提供する飲食店を出店したいと考えるように。

 そこで、西尾市内の農地350坪を購入、250坪を借り、土地の用途変更などを経て40坪60席の「ぞうめし屋」を2015年2月に出店した。店名は、当時3歳だった今井社長の息子のアイデアで、いったんは却下したものの、逆に印象的でいいのではないかと思い、採用した。西尾店は定食類を中心とする客単価1500円の食堂で、地元の主婦を中心に集客する人気店となっている。また、何かスイーツも提供したいと考え、国産小麦など厳選した素材を使ったドーナツを加え、現在ではドーナツの売上が全体の約3割を占めている。

 もともと古い建物や昔懐かしい喫茶店が好きだったという今井社長は、次いで2017年9月に「喫茶ゾウメシ」(名古屋市西区、26坪40席)、2019年4月に「喫茶ゾウ」(京都市上京区、11坪18席)を出店した。ともに元は喫茶店だった古い物件を、それぞれの良さを残しつつリノベーションし、ワンプレートメニューなどで気軽に利用してもらえるようにしている。

人気メニューの「クリームソーダ」(ゾウのクッキー付き726円)は、青、赤、緑をそろえる。地元産の抹茶を使った「西尾抹茶ラテ」(550円)のホットには、ゾウなどの絵を描く。「みそ屋のたまごサンド」(858円)は、オーダーごとに焼き上げる出汁巻き玉子や、肉味噌などを挟んだもので、ボリュームたっぷり。「この店独自の商品や季節メニューを考えて提案できるのが楽しいです」と店長の金澤千夏氏は話す

各店で個性を加えながら4店目を東京に出店

 東京にも出店したいと物件を探した中で、喫茶店、次にフレンチ、その後イタリアンとして計30年ほど時を刻んできた物件を選び、「喫茶パオーン」をオープン。新たにカウンター席やふかふかのソファを配し、入口横の窓ガラスはカラーシールでステンドグラス風に仕上げた。

 各店共通メニューの「みそ屋のたまごサンド」(858円)に挟んでいる肉味噌や、「あんバタートースト」(495円)に使う大納言小豆のあん、味噌を隠し味に加えたキーマカレーなどは、今井醸造で一括して仕込み、各店に配送している。同時に、各店のスタッフが考案する独自のメニューを加え、店名やロゴも含めて画一的ではない店舗展開を進めている。

 同店がレトロな感覚の喫茶店として、新たに注目されている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 懐かしさと新しさが融合したレトロな喫茶店をつくり出している。
  2. 味噌の醸造元が経営する店舗ならではの自社製味噌を使ったメニューで個性を出している。
  3. グループ4店舗が、それぞれ立地やスタッフのアイデアにより独自性を打ち出している。

 地元での認知度の上昇に加え、SNSでの発信の効果や、愛知出身者の来店などで、2020年3月までは順調に客数を増やしてきた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の状況を見て、4月3日~」6月1日までは営業を自粛。営業再開に際してはカウンター席を2席減らし、閉店時間を早め、テイクアウト販売を開始するなどの対策を講じ、少しずつ活気を取り戻してきている。「もう1店出店する話もあったのですが、まだコロナ禍が続いている状況ですので、見合わせることにしました。当面は既存の4店をしっかりと地域に根付かせていきたいです」と今井氏は語る。

喫茶パオーン
住所
東京都世田谷区船橋1-1-12
TEL 03-6413-7578
営業時間
9:00~17:00LO.
定休日
不定休(月3~5回)