2021/06/04 繁盛の法則

「ちとかライス」とテイクアウトで存在感を高める洋食店とは

東京・経堂駅から徒歩5分のところにある「洋風食堂 はしぐち亭」では、牛スジを使ったピリッと辛いルーをご飯にかけた「ちとかライス」が人気。テイクアウトではさまざまな料理を販売し、好調をキープしている。

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洋風食堂 はしぐち亭

Key Point

  1. 手間暇かけた洋食メニューを提供
  2. オリジナル料理「ちとかライス」を開発
  3. コロナ禍でテイクアウト販売が定着

多種多様な業態を経験し、洋食店で独立開業

 街の洋食店として親しまれている「洋風食堂 はしぐち亭」は、コロナ禍の影響が出始めた2020年春から連続して対前年同月比120%という好成績を上げている。最初の緊急事態宣言発出前の2020年3月20日から、弁当や惣菜のテイクアウトを開始し、以来、販売を継続。地元に定着したことは、努力の成果といえよう。その土台となっているのが、洋食店の〝顔〞であるハンバーグ、オムライス、ロールキャベツ。そして、オリジナルの「ちとかライス」だ。牛スジを使ったピリッと辛いルーをご飯にかけたもので、カレーライスやハヤシライスと並ぶ料理として開発。独自性のあるメニューとして集客や売上につながっている。

 創業は2008年1月で、東京・千歳烏山駅近くにオープン。店主の橋口潤二氏が独立開業を果たした10坪16席の店だった。しかし、営業を始めてから給排気や空調に不備がある物件であることがわかり、交渉を重ねても十分な改善がなされなかったため、賃貸契約の更新を見送り、2013年に一旦閉店。常連客に「3年以内に復活します」と誓った橋口氏は、2016年11月に東京・経堂駅から徒歩5分ほどの現物件でその約束を果たした。駅南口にある「農大通り商店街」を進み、住宅街につながる路地を入ってすぐの場所にあり、以前はイタリア料理店だった20坪29席の店舗である。

 橋口氏は1970年熊本生まれで、高校卒業後に上京し、東京・日本橋の西洋料理店に就職。その後、高級フレンチ、ビストロ、喫茶店、居酒屋、定食店、惣菜店など、多様な業態を経験し、ほかにもトラックの運転手、画商、引っ越し業者など、他業種にも携わってきた。その中で飲食業にやりがいを覚え、持ち前のエネルギーと突破力で数々の困難や窮地を乗り越えてきた。
 
 コロナ禍においては、多くの人に店内で食事を楽しんでもらうことは難しいが、誰もが不安で先が見通せない中、各家庭の食卓でおいしい料理を食べてもらい、ほっとする時間を提供したいと考え、テイクアウトで料理を販売。通常の洋食メニューだけでなく、これまでの自身の多彩な経験を活かして「親子丼」(750円)、「牛カツ弁当」(1580円)なども加え、スープ、サラダ、揚げ物などをサイドメニューとして買えるようにし、品数もどんどん増やしていった。2020年3~5月は、テイクアウトだけで1日に120~150食を販売。その後、イートインの客数も戻ってきたが、テイクアウトも広く認知されたことで、収益の柱として確立。現在も1日平均80食を販売し、売上の3割以上、多い日は6割近くをテイクウトが占めている。料理を作るのは橋口氏1人であるため、イートインとテイクアウトの対応に追われているが、今後は真空パックにした「ちとかルー」の通販に力を入れていく予定である。

「自家製デミグラスソースの手ごねジューシーハンバーグ」(132g、1,265円~)は、牛肉6割、豚肉4割の合挽き肉に、タマネギ、卵、生パン粉を加え、デミグラスソース、ケチャップ、ナツメグなどを加えてふんわりと仕上げている。看板の「ちとかライス」(1,078円)は、牛スジを使ったピリッと辛いルーをご飯にかけたもの。通常の「ちと辛口」のほか、「中辛口」(プラス110円)、「激辛口」(プラス220円)と辛さの調節にも対応。客単価は店内2,300円、アルコール提供ができる場合は3,000~3,300円、テイクアウトは800円

賄いをヒントに牛スジを使ったオリジナル商品を開発

 看板に「ちとかライス発祥の店」とうたっているほど、同店の代名詞的存在となっている「ちとかライス」とは、コラーゲンをたっぷりと含む牛スジを粒マスタード、オリジナルブレンドのトウガラシで仕上げた「牛スジの粒マスタードライス」が原型である。橋口氏が千歳烏山の店舗時代に開発したため、「ちとせからすやま」、「ちょっと辛い」からメニュー名を付けた。ピリッとした辛味があるため、ごはんが進み、印象に残ってまた食べたくなる魅力を持つ。元は、デミグラスソースを作るときに使う牛スジをうま味が残るうちに取り出して、煮込み風に調味した賄い料理がヒントとなった。橋口氏は洋食風にアレンジできないかと、牛スジを取り出すタイミングや味付けを試行錯誤し、ようやく完成させたメニューである。現店舗でも人気となり、「元祖!ちとかライス」「オムちとかライス」(各1078円)、「ちとかバーグ」「オムちとかバーグ」(各1738円)とバリエーションを増やし、さらに毎月15日を「ちとかライスの日」として「ちとかライス」系のメニューは全品半額で提供し、開店前からウエイティングができるほど周知している。

 同店がコロナ禍でも売上を伸ばし、地元で愛される洋食店となっている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 街場の洋食店として、手間暇かけて仕上げる定番メニューを提供している。
  2. 印象に残る味わいのオリジナル料理「ちとかライス」を開発し、人気メニューに育てている。
  3. コロナ禍を機に始めたテイクアウトを、収益の柱として確立させている。

 「テイクアウトを継続してきたことで、お客様から信用を得られているのだと思います。コロナ禍のようなピンチのときに本気で注力したため、存在感が増したのではないでしょうか。これまでいろいろな業態を経験したので、それが強みになっています。自分の名前を付けている店ですし、ここは私のアイデンティティーの全てです」と、橋口氏これまでの苦労を振り返りつつ、真摯に語っている。

洋風食堂 はしぐち亭
住所
東京都世田谷区経堂1-11-13ウエダビル1F
TEL 03-5799-6458
営業時間
11:30~14:30 (LO. 14:00) 、17:00~21:30 (LO.21:00)、弁当販売11:00~20:00頃(木曜日~16:00)(変更の場合あり)
定休日
月曜日、第3火曜日、木曜日夜