2021/10/22 特集

年末年始に向け、飲食店が取り組むべきこと~アフターコロナに向け再構築!

飲食店の繁忙期である年末年始はすぐそこ。飲食コンサルタントである三ツ井創太郎氏に2021年の飲食業界を振り返ってもらいつつ、年末年始、そしてアフターコロナに向けて飲食店が取り組むべきことについて聞いた。

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株式会社スリーウェルマネジメント 代表取締役 三ツ井創太郎氏
数多くのテレビでのコメンテーターや新聞、雑誌などへの執筆も手掛ける飲食店専門のコンサルタント。大学卒業後、東京の飲食企業にて料理長や店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、コンサルティング会社である株式会社船井総合研究所に入社。飲食部門のチームリーダーとして、中小企業から大手外食チェーンまで幅広い企業の経営を支援。2016年に飲食店に特化したコンサルティングを行う株式会社スリーウェルマネジメントを設立。代表コンサルタントとして日本全国の飲食企業をサポート。東京都の中小企業支援事業の選任コンサルタントや青森県の業務委託コンサルタントに任命されるなど、行政と一体となった飲食店支援も積極的に行っている。著書「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則」(DOBOOK)は、Amazon外食本ランキングで1位を獲得。

2021年、厳しかったアルコール業態。資金繰りと人離れ、QSCの低下が課題

 新型コロナウイルス感染症に振り回された2021年。改めて飲食業界を振り返ってみると「まともな営業ができなかったと感じている店が多いのではないでしょうか」と三ツ井氏は話す。そんな中でも「ファストフードや焼き肉、寿司などの食事業態は、比較的、好調をキープしました。厳しいのはアルコール業態」(三ツ井氏)。休業や時短、酒類の提供自粛要請が、居酒屋をはじめとするアルコール業態に重くのしかかった。「打開策として焼き肉店への転換が目立ちました。しかし、焼き肉店は初期投資が大きく、資金繰りに苦戦する例も少なくありません。身を潜めて嵐が過ぎ去るのを待つことも選択肢の1つですが、前を向くためにテイクアウトやデリバリーなどのスモールビジネスを始める店も多かった。ただ、一時しのぎにはなりますが、店内営業の売上をカバーできるほどにはならなかったのではないでしょうか」と分析する。

 三ツ井氏が現在、懸念するのが資金繰りの悪化と人離れだ。コロナ対策の特別貸付は返済が始まる一方、多くの店は業績の回復に至っていない。また、先行きの不透明さから離職・転職が起き、残るスタッフのモチベーションの低下も心配される。「この状態で店の営業を再開しても、QSCの低下は必至。そうなれば顧客が離れていく可能性も高い」と三ツ井氏は語る。

 このままの状態で年末年始に突入すると、思うような成果につながらない可能性は低くない。今、自店を見直すことが緊急の課題と言ってよいだろう。以下では、経営基盤の再構築や今後の事業展開における考え方、そして年末年始に向けた具体的な取り組みなどについて見ていく。

経営理念・ビジョンの再構築

経営理念は「羅針盤」。店の存在価値を再確認し、店を内側から磨く

 これからの営業に向け、「まず行ってほしいのが、経営理念の見直し」と三ツ井氏。経営理念・目標・ビジョンが、コロナ禍の現実と合わなくなっている可能性が高いからだ。「経営理念はいわば航海の羅針盤。目的地(経営ビジョン)と羅針盤(経営理念)が現実とズレていたら、コロナという大波を乗り切れない」と三ツ井氏は語る。

会社・店舗運営を航海に例えれば、経営理念は羅針盤であり、経営ビジョンは目的地。経営理念と経営ビジョンがしっかり定まっていないと、コロナのような大波は乗り越えられない

 例えば、「2022年に株式上場を実現する」などと掲げていた場合、数字も気持ちもしっくりこなくて当然と言える。「スタッフも違和感には気付いているはず。それを放置したままではモチベーションが上がらず、正しい意思決定にもつながらないでしょう」と三ツ井氏は指摘する。

 一方、現時点では明確な経営理念を描きづらいことも事実。「大事なのは数字ではなく、コロナによって顕在化した飲食店の価値を再確認することではないでしょうか。豊かな食事を満喫できる時間と空間を、地域の人たちに提供することが飲食店の使命。それに応える店づくりを追求しようというマインドを共有することが、重要だと思います」(三ツ井氏)。今こそ飲食店の存在意義を再確認し、店を内側から磨く好機と捉え、見直してほしい。

事業計画を立てる

4つの分類でどこに進むのかを決定。資金や人的リソースも検討し慎重に

 次に、今後の事業計画を考えることが重要だ。下図はビジネスの進め方を「業態」と「商圏」を軸に、それぞれ「既存」「新規」で分類したもので、「自分の店はこの4つのどれを目指すのか、あるいは進む可能性が一番高いのはどれかを検討し、方向性を見定めてほしい」と三ツ井氏は提案する。

ビジネスの進め方を「シェア拡大戦略」「新業態開発戦略」「新商圏出店戦略」「多角化戦略」で分類。これを基に、自店の方向性を見定める

A:シェア拡大戦略
既存の業態を既存の商圏で行い、既存店の集客アップを目指す。新規客とリピートの獲得が課題。

B:新業態開発戦略
既存の商圏で新規の業態を始めること。今のエリアで新しい業態にチャレンジする。新規出店だけでなく、デリバリーや通販への参入もここに入る。

C:新商圏出店戦略
既存の業態を新規の商圏に出店する。コロナ禍では積極的に展開する企業は少ないが、焼き肉チェーンなどが採用している。

D:多角化戦略
新業態や新事業を新商圏で展開する。異業態の飲食店や通販の展開のほか、学習塾など飲食店以外の事業も視野に入れる。FCやM&Aなどで拡大を狙うケースもある。

 そして方向性を定める際には、資金と人的リソースを十分に吟味することが不可欠だ。「コロナ禍が長引くなか、キャッシュがあるうちに何かを始めたいと焦る気持ちは分かりますが、感覚や思い付きで新たな事業に踏み出すのは危険です。特に金融機関は、現在、飲食店への融資は厳しく審査しているため、事業に行き詰まると資金ショートを起こす危険性が高い」と三ツ井氏はアドバイスする。人的リソースについても経営者が新事業をやりたいと思っても、実際に動かすスタッフがいないと始まらない。幹部スタッフと今後の事業の展開をよく相談し、5~10年先を見据えることが大切だ。

QSCの底上げ

原理原則に立ち返り、低下したQSCレベルを挽回しよう

 そして今、現場でやるべきこととして、三ツ井氏は「QSCの底上げ」をあげる。コロナ前と比べて店のQSCレベルはどうなっているか、特に「休業していた店は、店長もスタッフも、長い間、打席(営業)に立っていないので、QSCは低下していて当然」と指摘する。

 一方、消費者のQSCへの目は、コロナ前に比べて格段に厳しくなっている。多くの人は外食頻度が激減しており、貴重な外食の機会を失敗したくないと思っているからだ。「低下したQSCを放置したまま営業を続ければ、来店客の期待に応えられず、悪い評判が広がって逆ブランディングになり、顧客を失いかねません」(三ツ井氏)。

 QSCの向上は、飲食店にとって基本中の基本。この原理原則に改めて立ち返り、顧客を逃さず、確かなファンにつなげる努力が求められる。

さらなる人材不足への対応

採用競争の激化は必至。省人化と生産性向上に取り組む

 今後の飲食企業の経営課題の1つとして三ツ井氏があげるのが、「さらなる人材不足への対応」だ。コロナ禍を契機に飲食業から離れたスタッフは少なくないが、状況が落ち着けば外食市場が一定の回復を見せることも確実だ。既に大手企業は採用に向けて動き出しているという。「非アルコール業態から人材は充足していくでしょう。アルコール業態は、確保が厳しい状況が続くと思います」と三ツ井氏。流出した人材は簡単には戻らず、採用にも教育にも時間とコストがかかるのは必至だ。

 では、どうしたらよいだろう。「1つは現状に即した経営理念を掲げ、自店の価値を掘り下げて、ともに働く仲間を増やすこと」(三ツ井氏)。「小さい会社なのだから、経営理念のような大げさなものは必要ない」という姿勢では、魅力のある職場には映らない。規模に関係なく、「自分らしく働ける職場」となるような環境づくりが大切だ。

 同時に省人化を進め、人員が少なくても生産性が上がる仕組みを整えることも必要だ。「来店客から『ありがとう』と言われる行為は人が担い、そうでないものは機械化・デジタル化を進めると考えるとよいでしょう」と三ツ井氏。人にしかできないことに力を注ぎ、そのほかを機械などで効率化させれば、QSCを下げずに省人化することができるだろう。

年末年始に向けてやるべきこと

付加価値のあるプランを発信し、既存客を中心にリーチをかける

 困難な1年だったが、飲食店の最大の商機である年末年始は、すぐそこに迫っている。今年も大規模な宴会はなく、本当に必要で大事な宴会のみが行われる傾向が予想される。三ツ井氏は「誰にとっても貴重な宴会になりますから、店選びは慎重になります。選んでもらえる店にならなければいけません」と語る。

 ポイントは2つ。「まず、自店の付加価値を見直し、それを表現する商品をコロナ禍であることを意識して開発すること。もう1つは、最新の情報を的確に発信すること」(三ツ井氏)。具体的には、こだわりの食材や少人数で楽しめるコース、喜ばれるサービス、安全安心な空間などを用意すること。また、それらを写真とともにWebサイトやSNSにタイミングを逃さずに掲載すること、などだ。すでに忘年会の店を探し始めている人もいるため、Webページの情報が更新されていないと、それだけで選択肢から外れてしまうので要注意だ。

選ばれる店になるため、来店客に少人数のプランや旬の料理などを案内することも有効

 さらに「新規客より既存客を狙うこと」と三ツ井氏。来店経験のある人にメールなどでダイレクトに情報を届けられると、選ばれる確率が高くなる。「コロナ禍では今まで行った店から選ばれる傾向が強いです。来店したことのある人にいかにリーチするかがカギ」(三ツ井氏)。

 また、「○○をプレゼント」などの特典やキャンペーンは、来店の呼び水になるので有効。ただし、提供する物のクオリティーには注意したい。例えば「生ビールを1杯サービス」とした際に、提供するグラスが汚れていたり、提供スピードが遅かったりといった不首尾は厳禁だ。

アフターコロナに向けたこれからの飲食店

強まる目的来店。鮮度の高い情報をマルチデバイスで発信する

 これからの飲食業界について、三ツ井氏は「確実なのは、よい立地・よい商圏の定義が変わったこと」と言う。コロナ以前は繁華街や昼間人口が多いオフィス街が人気の商圏だったが、リモートワークの定着によって大きく変化。「今後は住宅街、もしくは住宅街とオフィス街が近接しているエリアの人気が上がるでしょう」と語る。

 当然、業態も変化している。アルコールだけでなく食事動機にも応える店が増えているのは変化の1つだが、三ツ井氏は「アルコールニーズが戻ったときにどうするか熟慮が必要」と語る。「アルコール業態と非アルコール業態では原価の構造、席効率など全くビジネスモデルが違います。アルコール業態の店が新店舗もしくは業態変更で非アルコール業態を手掛けるのであれば、収益構造を新たに組み立て、新しいビジネスモデルを構築する必要があります」と語る。

 一方、消費者の変化もある。「目的来店が以前よりもさらに増加しています」と三ツ井氏。外食機会が減り、食べたいもの、行きたい店を見定める傾向はますます顕著になっている。また「店選びのために、ホームページ、飲食店の検索サイト、SNSなど複数の媒体にアクセスして決める人が多くなっている」と分析。三ツ井氏は、その対策として「1つの内容(シングルコンテンツ)を複数の媒体(マルチデバイス)で発信するのが有効」と説く。媒体ごとに違う情報を掲載するのは非常に手間がかかるが、掲載する情報は1つにし、それをさまざまな媒体で発信すれば、情報がユーザーに届きやすくなるとともに運用の手間も減る。加えて、メールやLINEなどのデジタルアドレスへの発信も組み合わせれば、さらに効果的だ。

 「今後、外食市場は自粛の反動も手伝って活性化が見込まれます。しかし、一時の活況に安住するのは禁物」と三ツ井氏。「飲食業界は周期的に不景気が訪れます。そのときに慌てないように、この1年の学びを財産にして、未来の成長につなげる取り組みを行ってほしい」と呼びかける。