SNSは、「楽しんで」「じわじわと」
第1回では、ブランディングとは、自社の想いや価値観を世の中に浸透させ、来店客との信頼関係をつくる活動であること、そのファーストステップは、自社の想いを言語化することであると紹介した。今回は次のステップ、想いの発信について、ブランドプロデューサーとして活躍する、VISION BRIDGEの代表、大磯爵歌氏に話を聞く。
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来店客の安心と信頼を獲得するために
ブランディングとは一言でいえば「ブランドをつくる活動」のこと。自社が大切にしている想いを届けることで来店客の信頼を獲得し、それによって店やサービスの利用につながるようになる。では自社の想いを届ける、いわゆる情報発信において、大切なことは何なのだろうか?
答えは、継続的、かつ断続的に発信を続けること。
ホームページを見ると新着ニュースの更新が3年前に止まっていたり、SNSが1カ月以上更新されていない店のアカウントを見かけることがある。これを見た人は「あれ? このお店、営業しているのかな?」と不安に感じてしまうだろう。「毎日でなくても良いので、仮に頻度が少なかったとしても、ご自身のペースで安定的に情報を発信し続けることがまずは大事になってきます」と大磯氏は語る。
SNSに何を投稿すればいいのだろう
「SNSで発信していきたいけど、何を投稿したらいいか分からない」と悩んでいる飲食店は非常に多い。では、どんな情報を発信していけばいいのだろうか?
ポイントは大きく2つ。1つ目は「店の旬な情報」を発信すること。季節のメニューや、新しいスタッフの紹介など、自分たちの“今”の様子を書いてみよう。今を言葉にするのは、自ずと筆に力が入るもの。書き手がワクワクしながら書いたものは勢いがあるので、目にした人にダイレクトにその空気が伝わりやすくなる。
また、季節メニューの紹介をするときは、提供開始日に写真と文章を投稿するだけではもったいない。提供開始前から、メニュー開発の打ち合わせの様子や、試作や試食中の様子、POPを作成している様子など、季節メニューが発売されるまでの過程を発信しておくとよいだろう。メニュー開発のバックステージを見せることで、関わる人の人柄や想い、開発に向き合う姿勢が伝わり、期待値を高めることができるはず。「どんなメニューができあがるんだろう」「これ気になる!」と、提供開始前から思ってもらえれば、コミュニケーションとしては大成功だ。
2つ目は、「心の動きを出していく」こと。来店客との会話でうれしかったことや、接客しているなかで気付いたことなど、心が動いた瞬間を切り取って発信していこう。そういった日々の営業中の具体的なエピソードや気付きを表現することで、店の輪郭が浮かび上がってきて、ファンが育っていくのだ。
このような発信を続けていると、おのずと自分たちが大事にしていることに気付く瞬間があるはず。「食材を大切にしている」「人と人とのつながりを大切にしている」「楽しさを大切にしている」など、店舗運営において大切にしていることや、ビジョンなどが見えてくることがある。それをまた、言葉にして伝えてみよう。「『同じようなことを前にも言ったかも』と気にかける必要はありません。大事なことや核となることに気が付いたら、繰り返し投稿して伝えていく。その積み重ねによって、“らしさ”ができあがっていくのです」(大磯氏)。
相手が喜ぶ笑顔を想像して書こう
「SNS投稿のポイントは分かったけど、いざ文章を書こうとすると書けない」という人にとってヒントとなるちょっとしたコツがある。それは、誰か特定の人の顔を思い浮かべて、その人に手紙を書くイメージで文章を作ること。
たとえば、今日出会った来店客に向けて、いつもがんばっている後輩スタッフに向けて、店に遊びに来てほしいと思っている知り合いに向けて、などでもよい。相手が喜ぶ顔を想像しながら書くことが大切。顔の見えない相手に対して、言葉を投げかけるのは、難しい。何を言えばいいのか、どうすれば喜んでもらえるのか、わからなくなる。だから、相手を想定して、手紙を出す感覚で書くのが効果的。断然書きやすくなるはずだ。
最初から完璧に書こうと思わずに、まずはやってみることが大切。発信していく中で、どんなことを書くと興味を持ってもらえるか、どんな反応があるかを探っていこう。そのうちに自分たちが発信したい情報と、来店客が求めている情報が見えてくるようになり、オンラインを通じて直接来店客とつながり合う、ダイレクトなコミュニケーションが生まれるようになっていくだろう。
SNSが来店や購買につながるのは、どれか一つの投稿が爆発的に効くということではなく、たくさんの投稿が貯まって、じわじわとお店への期待値が高まるから。だからSNSは続けることが何よりも大切なのだ。
「情報発信のゴールを最初から『来店』にすると、なかなかゴールにたどり着けないことに気持ちが折れてしまうこともありますので、まずは『知ってもらうこと』を身近なゴールにして、「じわじわ」を続けていくことをおすすめします。そして、そのコミュニケーションを楽しむこと。楽しんで情報発信を続けてください」と大磯氏。
続けることで、ブランドの輪郭が言葉を通じて浮かび上がり、形づくられていくはずだ。
※株式会社テンポスホールディングス刊「スマイラー」79号より転載