2023/06/30 繁盛の黄金律

失敗続きのテイクアウト・デリバリーにもう一度、挑戦しよう

イートインの客足が復活するも元の客数に戻っていない、という店も少なくありません。コロナ禍にテイクアウトやデリバリーを始めた飲食店はここでもう一度、外食業ならではの商品を開発し、光を当ててみましょう。

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Vol.142

品質の劣化と荷崩れ、これが最大の敵

 売上を上げるためには、客数を増やすか、客単価を上げるか、この2つしかありません。

 客単価を無理に上げようとすると「高い!」ということで、客数が下落してしまいます。客数を伸ばすということは、店の人気を高めて来客数を増やす、ということですから、これがまた難しい。

 それから外食業の悩みは、売れる時間が決まっていることです。一般的には、ランチタイムとディナータイムです。この2つの時間帯に、いかに来客数を増やすか、ですが、これにも限界があります。特に規模の小さい店は、どう頑張ってもこなせる客数の限界ラインを突破することができません。ランチタイムは、一般的には午前11時半から午後1時半の2時間です。客層が決まっていて稼働時間も決まっているのですから、客数の天井を突破することはなかなか難しいのです。

 コロナ禍の3年余で一番変わったことは、イートイン以外にも売る方法がある、ということに気付いたことです。そう、テイクアウトとデリバリー(以下、T&Dと略す)、この2つの方法で売上を取れる。そのことに気付き多くの飲食店が見よう見まねで実践したのです。

 しかし、コロナの規制が弱められた今、起こっていることはイートイン客の復活です。そしてT&Dの注文は、目に見えて落ちていったのです。この下落は今も進行中です。

 元の姿に戻りつつある、と言ってもいいのですが、残念ながら元の客数に戻っていない店の方が多いのです。あなたの店でコロナ禍前と比較して(2019年比)お客様の数は増えていますか。100%に戻っていますか。YESと答えられる店は少ないと思います。売上ではありませんよ、あくまで客数です。

 昨年から値上げをしている店がほとんどです。だから客単価が上がって、売上が戻った。そういう店はあるでしょう。しかし、客数が戻っていなければ、完全復活とは言えません。それは人気が100%回復したことにはなっていないからです。

 さて、T&Dの話です。注文は減少していても、まだ少しは残っているはずです。ここにもう一度、光を当ててみましょう。小さな店でも大きく売上を伸ばす可能性が残っているのは、まさにここです。お客様の方もT&Dの便利さにすっかり慣れてしまっているのです。昔のように、「イートインだけ」にこだわらなくなってきました。生活の中にT&Dがビルトインされてしまっているのです。

百貨店やスーパーと同じものを作っても売れない

 まずは、コロナ禍の3年余の失敗から学ばなければなりません。この3年余は、T&Dがいかに危険なビジネスであるか、を教えてくれました。食べ物は時間が経つと劣化するという、当たり前のことに気付かされたのです。包材の改良などで経時劣化を小さくする方法もいろいろと考えられましたが、時間が経てば味が落ちるのは当然です。それから盛り付けです。T&Dでは当然ですが、平べったくなったり崩れたりで、あるべき商品の姿から遠いものになっています。イートインの商品とは歴然たる差があります。

 T&Dを注文したお客様は、そのあまりの落差に驚き、その店を信用しなくなったのです。T&Dが店の評判を落とした、と言えます。このT&Dの根本的欠陥を乗り切るためには、できるだけ劣化しない商品、できるだけ崩れない商品を開発しなければなりません。包材も大切ですが、調理方法も考えなければなりません。さらに言えば、イートインメニューとは別の、T&D専用のメニューを開発しなければなりません。

 開発の出発点は、T&D商品としてどのようなものが出回っているか、の検証をすることです。例を挙げますと、フライドチキン、唐揚げ、ハンバーガー、種々の弁当、サンドイッチ(特にカツサンド)、ホットドッグ、牛丼、すし、…と数え上げたらきりがありません。一番いいのは、デパートの地下食品売り場、スーパーの総菜売り場を見て回ることですね。テイクアウト商品がずらりと並んでいます。開発のヒントの山と言っていでしょう。

 しかし、そこで売っているものをそのまま持ってきても、あなたの店(飲食店)のT&D商品にはなりません。彼らの商品はライバルではありますが、それを乗り越える要素を持っていなければ、外食業のT&Dにはなりません。

どうすれば外食業のT&Dになるのか。外食業は本来、作り立てを即その場で提供するのが商売ですから、これになるべく近づかなければなりません。つまり、製造(調理)から喫食までのリードタイムを短くすることです。出来たてになるべく近づくことです。逆に言うと百貨店やスーパーの商品よりも劣化が早い商品であること、これが外食業のT&Dの条件になります。

劣化をどう食い止めるかを追求する一方で、出来立てに近い商品を提供せよ、と言っているのですから、ずいぶん矛盾していますが、ここにこそ外食業ならではの商品を生み出す領域があるのです。

簡単に言ってしまうと、買ってくださったお客様が半日も経ってから食べるようなものであってはならない、それは百貨店やスーパーに任せなさい、ということです。

外食業ならではのT&D専用の商品を開発することです。そして、店舗調理は必須です。しかし、テーブルサービスの第一の役割はイートインのお客様を満足させることです。この満足をないがしろにして、T&Dに力を入れても必ず失敗します。虻蜂取らずになってしまいます。

でも細心の注意を払って、強いT&D商品を開発できたら、売上は跳ね上がります。規模の小さな飲食店でも、信じられないような売上を確保することができるのです。困難な道ですが、やってみる価値はあります。押さえどころは、外食業でしか出せないT&Dです。ここを外してはなりません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

■飲食店経営の明日をリードするオピニオン誌「Food Biz」

「Food Biz」の特徴
鍛えられた十分な取材力、現場を見抜く観察力、網羅的な情報力、変化を先取りする予見力、この4つの強みを生かして、外食業に起こっている変化の本質を摘出し、その未来を明確に指し示す“主張のある専門誌”です。表層的なトレンドではなく、外食業に起こっていることの本質を知りたい人にこそ購読をおすすめします。読みたい人に直接お届け!(書店では販売しておりません)

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