2023/07/26 繁盛の黄金律

たった一品で伸び続けているチェーンがある

チェーンセオリーと真逆の道を歩んで、全米でどこよりも強いチキンチェーンとなった企業があります。主力商品を絞り込み、それを鍛えることで他を圧倒するほどの強い商品を生み出すこともできるのです。

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Vol.143

主力商品はたった一品

 「レイジング・ケインズ」というアメリカのチキンのファストフードチェーンがあります。

 1996年創業のチェーンですが、チックフィレ(Chick-fil-A)やKFCなどの数あるチキンチェーンの中でも群を抜いた成長力を持っています。アメリカ国内の年商額は4,365億円(2022年 140円/1ドル換算)。1店舗当たりの売上が何と、7億6,100万円以上!という、とんでもない超繁盛チェーンです。

 私は、創業当時からこのチェーンをずっと注視してきましたが、それには理由があります。その理由は主力商品が、“フィンガーチキン”一つだけなのです。

 チキンバーガーもありますが、それはフィンガーチキンを挟むだけ。究極の単品商売なのです。もちろん、飲み物、フライドポテト、コールスローはありますが、主力商品はフィンガーチキンのみ。それで7億6,100万円以上を売り上げるのですから怪物のような店です。単独店であれば単品の繁盛店というのは、しばしばありますが、全米だけで650店舗あるのですから、驚異的です。

 なぜこんなチェーンの話を持ち出したのか。それは、外食の最大鉄則をお伝えしたかったからです。すなわち、「メニューが増えても、お客様は増えない」という鉄則です。メニュー数とお客様の数は関係ありません。お客様を増やす力があるのは、看板商品の質が良かったときだけです。

 一時的には目玉商品で、客数が跳ね上がることはあります。しかし、継続的に増やせるのは看板商品です。その質が上がり続けているときにのみ、客数増を手に入れることができるのです。

 レイジング・ケインズのもう一つの驚きは、そのフィンガーチキンをゼロから店で手作りしている、という点です。チキンを秘伝の液に1日漬け込んで、独自のスパイスの入った粉でまぶし、それをお客様の注文があるごとに揚げて、提供します。その調理はかなり手が込んでいて、技術を修得するには時間がかかります。

 働く人は、技術修得の段階ごとに、職位が上がり、給与も上がります。そして、完璧な調理スペシャリストになると、特別の“匠”の称号が与えられます。技術を習得し、最高のレベルに到達するために、働く人全員が競い合っているのです。

 私もアメリカに行くと、必ずレイジング・ケインズを訪問しますが、それはそれは質の高いスペシャルな味です。こちらの期待が裏切られたことは、一度もありません。

一品しかないから高度な調理技術を注入できる

 普通、チェーンというと、技を要する調理部分を店舗から排除しようとします。店舗調理はなるべく、シンプルにマニュアル化して、未熟練の人でも短時間で作り方をマスターできるようにします。難しい技術は、チェーンで最も強く求められる同質化の敵です。また調理技術を要するということになると、出店するスピードが上がりません。

 しかし、レイジング・ケインズは、このチェーンセオリーと真逆の道を歩んで、どこよりも強いチキンチェーンになりました。これができているのも、主力商品がたった一つだからです。主力商品が5つも6つもあって、それぞれに調理技術が必要となったら、とてもチェーンにはなれません。一品だからこそ、高度な調理技術を注入することができたのです。

 ここで第二の教訓です。商品数を絞り込めば絞り込むほど、限られた商品に技術を注入することができ、それによって独自性の厚い壁を作ることができる、これです。

 調理のシンプル化こそが多店化の出発点と言われていますが、むしろシンプル化することで、強いい商品を作りづらくしているのです。あえてそこを複雑にして鍛えることで、圧倒的に強い商品を生み出すことができるのです。

 もっともそのためには、大前提として圧倒的に質の高い、競争力のある、完成された商品というものがなければなりません。そしてさらに、その完成品が時代と共にジワジワとレベルを上げていくようになっていなければなりません。それを「磨き込み」と言うのです。味は変えない、しかし質は上げ続けなければならない。

 こういう不断の進化があったときにはじめて、お客様は「いつも変わらない味でいいね!」と言って下さいます。十年一日のごとく一カ所に留まっていると、必ず「この店、まずくなった」と言われてしまいます。レイジング・ケインズのフィンガーチキンはこの不断の進化を持ち続けているからこそ、お客様の数を増やし続けているのです。

 また、レイジング・ケインズは働く人を大切にすることでも有名な会社です。コロナ禍の3年間でも、従業員を1人も辞めさせませんでした。もちろん、自主的に辞めていった人はいたでしょうが、残った人にはボーナスをはずみました。さらに、店長が持ち家を買う時には1万ドル(140万円)が支給されます。

 2019年からは、社員独立制度も開始しました。すでに200人が独立しています。独立はしたけれども、かえって収入が減った、というケースがしばしばありますが、ちゃんと利益を出している直営店を譲りますので、その心配はありません。「10年間で100万ドル(1億4,000万円)の資産を作るのが、独立制度の目標」と、創業者のトッド・グレイブズさんは公言しています。

 レイジング・ケインズは、全米の「働きたい会社ランキング100」の中に名を連ねています。“外食業で”じゃないですよ、全業種を通じてです!この一事をもってしても、いかに優れた会社であるかが分かります。

 「一生うちで働いて、ステキな人生を送ってもらいたいんだ」、これも創業者グレイブズさんの言葉であります。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

■飲食店経営の明日をリードするオピニオン誌「Food Biz」

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