2023/08/30 繁盛の黄金律

息の長~い商売をするのであれば、郊外のロードサイド

コロナ禍において堅調だった飲食店は、住宅を後背に持つ駅近、あるいは郊外ロードサイドにあった店だ。今、改めて出店するのであればどんな場所を選び、クリアしなければならない条件は何か、を解説します。

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Vol.144

コロナ禍で分かった、郊外ロードサイドの強さ

 ぐるなびが出現する前は、外食業にとって立地は商売の成功を決める最大の要因でした。「一に立地、二に立地、三四がなくて五に立地」と言われていました。立地が悪ければ何をやってもダメ、とまで言われました。今はそこまで致命的ではなくなりましたが、それでも立地が最大の成否の要因であることに変わりはありません。今回は、立地に対する基本的な考えを示すことにしましょう。

 まず、コロナ禍の3年間で分かったことは、

  1. 一番強かったのは、郊外のロードサイド。これは今も強い。
  2. ショッピングセンター(SC)内は、レストランもフードコートも大打撃。ようやく立ち直りつつあるが、SCの集客力の弱いところは回復力も弱い。
  3. 繁華街は大打撃を受けたが、これもようやく回復しつつある。特にインバウンド客が取れる店は、急速回復している。
  4. 大繁華街の空中階、地下の店は最大の打撃を受けた。そして、今も回復力が弱い。
  5. 住宅を後背に持つ駅近は、コロナ禍も堅調。特にテイクアウトを持つ、路面店は強かった。そして、強さは継続している。

この5つに集約されます。

 郊外のロードサイドは、チェーングループが主戦場と位置付ける立地です。店舗もゼロから作らなければなりませんし、駐車場の台数が少ないと戦えない立地ですから家賃も高くなり、個人オーナーの店はなかなかこの立地には出ていけません。ただし、次の事は記憶しておいてください。郊外ロードサイドは、長生きできる立地なのです。店舗寿命が長い。

 この立地に出店しているチェーンを思い起こしてみてください。新しい顔ももちろんありますが20年、30年、いやそれ以上、同じ立地で頑張っているチェーンがなんと多いことか。街中、特に繁華街の外食業の顔ぶれはコロコロと変わりますが、郊外ロードサイドのメンバーはあまり変わりません。もちろん、弱いチェーンは淘汰され、強いチェーンが勢力を伸ばしますが、郊外ロードサイドの店はブランドの寿命が長いのです。

 なぜかというと、投資が大きいですからもともと参加メンバーが限られます。参入障壁が高いので、新手(あらて)のメンバーがどんどん入ってくるような立地ではないのです。お客様は厳然として存在しますから限られたメンバーで長期にわたって、そのお客様の争奪戦が繰り広げられることになります。

 個人店のオーナーたちは、「俺たちの出ていける場所ではないな」とハナから郊外ロードサイド出店を諦めがちですが、その考えはぜひ改めてもらいたいものです。

生活幹線道路の小型専門店で、長く愛される店になる

 郊外ロードサイドといっても3つの種類があります。それは幹線道路・生活幹線道路・生活道路の3つです。

 幹線道路は、国道・県道・バイパス道路などがそれで、大商圏をカバーできる道路です。マクドナルドの大型郊外店が出ているような道路ですね。個人店はここにはなかなか出てはいけません。大手チェーングループが主力の道路です。また、幹線道路は、地元の人が何とか避けて通らないようにする傾向があります。

 一方、生活道路は地元の住民のみが使う道路です。ここで小さな喫茶店をやる、という生き方もアリですが、家賃も低いかわりに客数もなかなか伸びません。面白いのは、生活幹線道路でしょう。

 生活幹線道路は、基本は生活道路なのですが、地元だけではなくて、もう一回り大きな商圏をカバーできる立地です。商圏というものは、固定したものではなくて、曜日、時間によって弾力的に伸縮します。一般的には、朝は地元客のみで商圏が小さい、昼になると道路に沿って商圏は広がります。夜にはさらに商圏が広がり、深夜になるともっと大商圏からお客様が来店するようになります。また、土日は商圏が一気に広がります。

 生活幹線道路はこの商圏の弾力性が強みです。生活道路の顔をしているけれども、意外に広い商圏をカバーしている道路。皆さんも「ああ、あれだな」と思い当たるルートがあると思います。この立地は家賃を比較的抑えられますし、地元客ももう少し広いエリアの住民も取れます。大手チェーングループも出ていないことが多くて、有利な商売ができる可能性があります。

 しかし、次の5つの条件を備えていなければなりません。

  1. 専門店であること。
  2. 決定的に強い商品を持っていること。
  3. 高頻度で使える商品価格であること。
  4. 個人店、単独店らしいフレンドリーなサービスがあること。
  5. サービス、商品、クレンリネスがいつ行っても均質であること。

以上です。特にリーズナブルな価格で何度行っても飽きない商品を持っていることが大事です。顧客の中心は、地元の住民なのですから、悪い評判が広まったらいっぺんにお客様は離れていってしまいます。

 そば店、うどん店、喫茶店、洋食店、焼肉店、定食店…など。いろいろな業種が考えられます。そして事実、専門店として息の長~い商売をやっている個人店がたくさんあります。同じ業種のチェーンはいくらでもありますから、チェーンでは出せない個性的な商品を持っていることは必須です。

 敷地面積は小さく、駐車台数も少ないケースが多いですから、満席時間が長い商売ですと、なかなか売上が上がりません。喫茶店などは、満席時間が長くなりがちですが、テイクアウト力を持つことで、このハンデを克服することは可能です。喫茶店に限らず、強いテイクアウト商品を持つと、小さくてもしっかりと利益が取れる店になれます。

 先述のように、ゼロから店を作るとどうしても投資が大きくなってしまいます。投資を抑えるために撤退した物件を探すことも一つの道です。この場合、特に注意しなければならないのは、なぜ前の店は撤退することになったのか、その理由をはっきりさせることです。もしかしたら、致命的な欠陥を持った物件であるかもしれません。

 そしてもう一つ、前の店のにおいを完全に消すこと。あれも使える、これも使える、で投資をできるだけ抑えようとする人がいますが、それは得策ではありません。一定の投資を惜しまずに、あくまでフレッシュな新店として地元のお客様を迎え入れたいものです。

 それが成功の第一歩です。立地については、次回も続きます。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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