2012/05/14 繁盛の法則

アットホームな雰囲気のタイ料理店とは

タイの食文化を紹介するクルン・サイアム自由が丘店に学ぶ‐本格的なタイ料理を温かい雰囲気の店内で楽しめる「クルン・サイアム」は、若い女性客を中心とするリピーターを堅実に増やしている。

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クルン・サイアム 自由が丘店

1号店として2004年11月にオープンした自由が丘店。20世紀初頭にタイに建てられた洋館をイメージした16.7坪29席の店舗

Key Point

  1. タイ人シェフによる本格的なタイ料理を提供
  2. ホームパーティのような温かい雰囲気を演出
  3. タイ料理への需要が見込める街に小資本で出店

30代半ばで国家公務員から転身し、
バラエティ豊かなタイ料理で創業

タイ人シェフたちによる本格的なタイ料理を、温かい雰囲気の店内でホームパーティのように楽しめる「クルン・サイアム」は、若い女性客を中心とするリピーターを堅実に増やしている。1号店は2004年11月にオープンした自由が丘店で、2008年6月に吉祥寺店、2009年11月に六本木店、2010年12月に中目黒店を出店。また、2007年4月に「オールドタイランド」飯田橋店、2010年10月に小規模店の「クルン・サイアム・アティック」(自由が丘)をオープンした。今年5月17日には、最新店舗のオールドタイランド新橋店の出店を予定している。

経営元は株式会社SUU・SUU・CHAIYOO(スー・スー・チャイヨー)で、タイ語で「がんばれ! がんばれ! ばんざい!」という意味である。この社名は、「日本、タイ、アジアにおいて、異文化交流・人的交流を促進し、価値を創造する」という、同社の使命や理念を表現したものだ。

同社の川口洋代表取締役は、1969年兵庫県・宝塚生まれで、神戸大学に進んだ19歳のとき、初めて海外に行き、ニュージーランドでヒッチハイクでの旅行を経験した。それを機に、ヨーロッパ、アフリカ、中東などを旅するようになり、卒業後は海外勤務を希望し、1992年に外務省に入省した。1年後にその夢がかない、シリアに3年、オマーンに3年赴任した。海外滞在中は、タイ人を含む多彩な国籍の仲間を自宅に呼んで、ミーティングと称する交流会を毎週行ない、また出張や経由地としてタイを訪れる機会も多かったため、タイ人との交流やタイ料理への興味を深めていった。

自分で事業をやりたいという思いが強くなった川口社長は、2003年に外務省を退職。当初は雑貨店の出店なども考えたが、毎日食べても飽きないタイ料理店がいいのではないかと方向を定めると、まず飲食店で修業することにした。それまで飲食店に勤務した経験がほとんどなく、年齢も30代半ばだったが、株式会社スパイスロードが経営するタイ風ラーメン店「ティーヌン」に1年勤務し、イタリアンの「ラ・ボエム」、中華の「バーミヤン」でも数カ月の経験を積み、夜は塾の講師を務めながら、物件探しを開始した。

自由が丘店は、東急線自由が丘駅から徒歩2分ほどのビルの2階にあり、16.7坪29席の小ぢんまりした店舗である。20世紀初頭にバンコクに赴任した西洋人が住んでいた洋館をイメージした店内で、ホームパーティのように食事を楽しんでほしいという趣向である。タイや海外の高級ホテルやレストランなどで働いていたタイ人シェフを招き、なるべくタイ現地の素材を使った、本格的なタイ料理を提供していくことにした。

手前から、「プー・パット・ポンカリー」(渡り蟹とふわふわ卵のカレー炒め)1,400円、「ヤム・アボカド」(アボカドと海老のスパイシーサラダ)980円、「ヤム・コー・ムー・ヤーン」(豚肉のピートロ焼きサラダ)980円

都内での10~12店の展開で基盤を固め、
タイ本店の出店やアジア進出を目指す

ランチメニューは、麺類、カレー、ご飯ものなどで、各品に生春巻きとトムヤムクン風スープがつく。昼の客単価は1,000円で、1日平均100人前後が来店している。夜は60品目ほどの料理をそろえ、タイ産のシンハビールをはじめアルコール類もよく出ている。客単価は2,900円で、ドリンクが売上の40~50%を占めている。平日は40~60人、土・日は70~80人を集客している。

日本におけるタイ料理の市場はまだまだ小さいと認識している川口社長は、都内でも集客が見込める街を厳選し、ビルの2階や地下、路地裏の隠れ家的な立地で、比較的小規模・低家賃の物件を選び、小資本で出店する堅実な展開を進めてきた。年1~2店のペースで出店を重ね、現在は計6店舗を軌道に乗せている。

同社がタイ料理店として着実に業績を上げている要因は、以下の3点であろう。

1経験豊富なタイ人シェフが作る、本場そのもののタイ料理を提供している。
2店内は20世紀初期のタイに建られた洋館をイメージし、ホームパーティのように食事を楽しめる温かい雰囲気を演出している。
3タイ料理への需要が見込める街で、小規模で低家賃の物件を選び、堅実な出店を続けている。

現在、28人いる社員の中で、タイ人が23人を占め、アルバイトも合わせると約60人が勤務しており、雇用機会の創出にも一役買っている。店内の温かい雰囲気を醸し出すためには、チームワークの良さが重要と考える川口社長は、一部のスタッフが数店舗をかけもちするシフトを組んだり、年2回ほど社員・アルバイトの親睦イベントを開催している。常連客が安心してリピートしたくなる雰囲気作りとともに、、メニューは年4回見直して新商品も次々と開発し、リピーターを飽きさせないように工夫している。また、基本的な商品は共通だが、一部に各店独自のメニューを加えている。

「日本でのタイ料理店での店舗展開は、都内で計10~12店と考えています。今後は、タイに本店を出店し、できたら中国本土、香港、マレーシアなどにも進出したいです」と語る川口社長。これまでの自身の海外滞在経験を活かし、アジアでの展開に乗り出す考えだ。