Vol.9
店を切り盛りできるスタッフを何人育てられるか
力のある店長は、ちゃんと休日を取ります。店に居続けて休日を取ら(取れ)ない店長は、能力がないのです。自分が作業者になりきってしまって、本来の店長の仕事を果たせていないのです。
日々作業に没頭していると、店を客観的に見ることができなくなります。また、外からの情報が入らなくなり、世の中の大きな流れにまったく疎い人間になります。一般の人よりも外食の事情に無知な店長。そんな店で食事をしたくはありませんよね。
それでは力のある店長とはどういう人でしょうか。ズバリ、「自分(店長)がいなくてもきちんと営業できる店を作れる人」。この一語に尽きます。「俺がいないとこのテイタラクか!」と、部下をどやしつけている店長をよく見かけますが、自分の力のなさを天下にさらしているようなものです。
店長の最大の仕事は、時間帯責任者やトレーナーを作ることです。新米たちを戦力化し、店の特定の時間帯を切り盛りできる人を何人育てられるか。店長の力量が問われるところです。
マクドナルドには分厚い層のスイング・マネージャー(SM)がいますね。マクドナルドの強さはこの層の厚さです。店長が多少力不足でも、有能なSMがそろっていれば、店舗は滞りなくまわります。そして、このSMが「マクドナルド命」の愛社(愛ブランド)精神を持っているのです。彼ら自身が、マクドナルド大好き人間なのですね。たとえ引越しなどで店を離れることがあっても、一度SMの資格(ランクがある)を持っていれば、どこでも優先採用してくれて、時給の面でも優遇されます。こういうスキルを持ったパート・アルバイトのファン層を長年にわたって育成してきたところに、マクドナルドの強さがあるのです。
トレーニー(被訓練者)もトレーナーができる
トレーナーといっても、完璧な作業修得者などそう簡単に育てられるわけないじゃないか、と反論する人もいると思います。しかし、それは考え違いというものです。完璧な作業修得者でなければトレーナーになれない、ということはありません。まだほんの一部の作業しか修得してない人も、その修得した作業についてはトレーナーになれるのです。
たとえば、3カ月前に入った人は基本的にはまだトレーニー(被訓練者)ですが、ある部分については、昨日今日入った新人にトレーニングを施すことができます。半年前に入った人も、まだトレーニーかもしれませんが、新人を訓練できる領域はグッと広がってきます。上位のトレーニーは下位のトレーニーにトレーニングを施すことができる、という言い方もできるでしょう。
このやり方を採用しないと、店長は四六時中、部下の訓練に大部分の時間を割かなければならなくなり、それこそ休むこともできません。また、自分も訓練を受け、マスターした基本的な作業を下位のトレーニーに修得させることで、作業がより完璧になります。人に教えることで、一段スキルが上がるのです。
トレーニーもまたトレーナーになれる、という考えを徹底させましょう。それを実行に移すことで徐々にトレーナーの層が厚くなり、特定の時間帯を任せられる人材が育っていくのです。外食業はレベルの高い多様なスキルを持った集団が有機的に動くことによって、商品とサービスのレベルが上がり、高い生産性を獲得できるのです。
店長ひとりがキリキリ舞いしていて、一日中駆けずりまわっていては、いつまでたってもお店のオペレーションは安定しませんし、生産性は上がりません。店長は完璧な作業修得者でなければなりませんが、常に作業者であってはなりません。どんな繁忙時でも、少し“浮いた位置”にいて、全体を冷静に見渡せる余裕を持っていなければなりません。
作業に没頭してクタクタになる日々を送っている店長たち。まずは少し“浮いて”みましょう。