※スマイラー109号(2025年3月)より転載
旅行代理店での奮闘、がむしゃらに働いた日々
大学卒業後、当時勢いのあった旅行代理店に就職した高根社長。海外旅行ブームの真っただ中で、仕事は連日大忙しだった。朝7時出勤し深夜2時に帰宅。休みは月に1~2回というハードな日々を送っていたが、「仕事にのめりこめて楽しかった」と笑顔で振り返る。
持ち前のコミュニケーション能力と、高校時代にソフトボール部で鍛えた強いメンタルを武器に、着実に実績を積み重ねていった結果、社内でも一目置かれる存在になる。ついには東京・新宿の大型店舗の店長として声がかかるまでに。周囲は応援ムードで「やったね、高根さん!」という声や、家族も「応援するよ」と背中を押してくれるものの、このチャンスに決断を下せずにいた。店長になるなら関西から東京に単身で引っ越すことになる。ライフスタイルも大きく変わるだろう。しかし、彼女が悩んでいたのは私生活うんぬんよりも「今の働き方で長く仕事を続けられるかどうか」だった。
その理由は、大学時代の闘病生活にある。「病気になり、満足に食事をとることもできなくなりました。大好きだったお料理の香りさえも耐えられなくなって……。人間って食べないと、まずメンタルが壊れるんですね。生きるのが辛い―。当時は本当にそう思っていました」と高根社長。この経験があったからこそ、仕事を長く続けられるかどうかは、今後のキャリアを決めるうえで大事なことだったのだ。
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キャリアの転機、「商売をする」という選択肢
東京への栄転の内示を受けたことで、じっくりと考える機会のなかった自身のキャリアについて、深く向き合うきっかけとなった。もし仕事を変えるとしたら、自分は何をしたいのか。そのとき頭に浮かんだのは父親の姿だったという。
自営業でイキイキと働く父親の背中を見てきたからこそ、“商売をする”という選択肢が自然と湧いてきた。そこで、「①自分が好きなこと、②社会に役立つ仕事、③自分のスキルが発揮できること」の3つの軸で考えた結果、たどり着いたのは、健康志向のレストランを開業することだった。これが「玄米&やさい食堂 玄三庵」の原点である。
「自分のスキルが発揮できることとしては『料理』を挙げました。好きでしたし得意だと思っていました。でも今思うと飲食素人だった私が『自分のスキル』に料理を挙げるなんて笑ってしまう話です。でも会社に勤めていた頃、職場の近くには自分が食べたいと思えるような健康的なメニューを提供するお店はありませんでした。そのため『働く人々が健康に過ごせるよう、レストランを通じて社会の役に立つこと』、これが私の使命だと強く思いました」。
起業の意思を固めると、すぐに家族に相談し了承を得た。そして、すぐに会社に辞表を提出。突然の決断に周囲は驚き、「水商売なんて絶対やったらあかん」と猛反対を受けるも意思が揺らぐことはなかったという。会社は急成長を続けていたため人員不足もあり、引き継ぎには1年を要したが、起業への想いは一切ぶれることはなかった。
惜しみなく与えてくれた、インターンで得た経営の基礎
起業を目指す中で出合ったのが、中小企業支援機関「大阪産業創造館」が運営する「あきない虎の穴」だった。これは飲食店開業を目指す方向けのプログラムで、飲食店でのインターンが組み込まれているのが特徴だ。
インターン先として彼女を迎え入れてくれたのは、株式会社オフィスヤマカワ代表取締役の山川 博史 氏だった。飲食業の経験がアルバイト程しかなかった彼女に、飲食店経営の裏側を惜しみなく教えてくれたという。
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「店舗運営の裏側までみせていただき、どんな質問にも答えてくださいました。労務管理、オペレーション、売上施策、スタッフ教育など。またテクニカルなことだけでなく、精神的な部分、例えば責任者としてどうあるべきかということまで、多くのことを教えて頂きましたね。また、損益計算書までみせてくださったんです。開業後は、あのとき見たリアルな数値が頭に浮かび『これだけやらないと利益は残らない。そのためにどう工夫しよう?』と考え、手が打てたのは山川社長をはじめ、指導してくださったスタッフの皆様のおかげです。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」。
順調なスタート?いや、1年間の赤字続き
無事に資金調達を終え、いよいよ物件探しを始めた高根社長。しかし1号店の物件が決まるまでに10カ月を要したという。
「私は決めたら即行動。思い立ったらすぐにでも走り出したいタイプなんです。でも、この10カ月は、自分の行動力だけではどうにもならず、もどかしい時間でした。最初のころは、良い物件が出ても家賃が高くて迷っているうちに他の人に決まってしまうことが続き、自分の判断の遅さに悔しい思いをすることもありました」。
そんな中、ようやく見つけたのがオフィス街の居抜き物件だった。自身の経験から、働く人々に健康的な食事を届けたいという想いがあり、オフィス街への出店にはこだわっていた。家賃は予定より4万円高かったが、広さは10坪と一人でオペレーションできる広さだったため契約を決断。納得のいく立地、こだわり抜いた料理。しかし、自信を持ってオープンしたものの、開業から1年間は月20〜30万円の赤字が続いたという。「オープン前は『お客様が溢れたらどうしよう』という心配をしていました。でも、まさか『お客様が来ない』ことを心配することになるとは思ってもいませんでした」。
これまで決断力と行動力で社会人人生を歩んできた高根社長にとって、人生初めての挫折だったという。「最初のころは、これこそが理想の店だとガチガチに固めてしまっていたんです。オフィス街で働く人がランチに何を求めているのか、そこに目を向けられていませんでした。今振り返ると、至らない点ばかりですが、当時は周りの意見を受け入れる余裕もなくて……。でも赤字が続く中で、ようやく『自分のやり方が間違っていた』と気づくことができました」。
それからは、お客様やスタッフ、取引先から意見を積極的に聞き入れ、店の改善を進めていくと、数値はみるみる変化していった。ついに黒字化し、売上はその後も伸び続け、やがて人気店へと成長していった。1号店に足しげく通ってくれたディベロッパーの方から誘いを受け、その後は商業施設でも展開していくことになる。「もし1号店を住宅街に出店していたら潰れていたかもしれません。大手企業が集まるオフィス街のため転勤や異動で働く人が入れ替わる。だからなんとか生き延びることができたのだと思います」。
1号店を成功させると、その後は店舗を拡大していった。開業当初に立てた「10年で売上3億円を達成する」という目標は、3年短縮し7年目に達成した。
目標達成後に襲われた虚無感、そして新たな挑戦へ
目標としていた売上3億円を達成した高根社長。しかし達成後は虚無感に襲われたという。「目標に向かって走り続けていたときは、毎日が充実していました。でも達成してしまうと『毎日が同じことの繰り返し』、そう感じてしまうようになったんです。何かが足りない……そんな気持ちでした」と振り返る。
そんな状況を抜け出すきっかけとなったのは、意外にもコロナ禍だった。自分の努力だけではどうにもならない危機的な状況だからこそ、もう一度『やるしかない』とスイッチを入れることができた。飲食事業の売上が減少する中、10年以上前から手掛けていた給食事業の強化に乗り出し、さらに以前から挑戦したいと考えていた食物販事業をスタートした。そしてセントラルキッチンをオープン。これらの取り組みにより、さらなる成長を遂げ、現在では弁当事業も含めて毎日3,000食を提供するまでになっている。そして次なる目標は、食物販事業を飲食事業と同じ規模まで拡大していくことだ。「大阪の皆様に、当社の健康的な食事やスイーツを、さまざまなシーンでお楽しみいただけるよう、これからもチャレンジし続けていきます」。
スタッフへの感謝、そして次は「伝える側」として
高根社長はこれまで決めたら即実行、全力で走り続ける生き方を貫いてきた。がむしゃらに働き、挑戦してこれたのは、いつも自分の想いについてきてくれたスタッフの存在があったからだと話す。「私は思い立ったらすぐ行動に移すタイプで、とにかくやってみる、全力でぶつかる。そんな私についてきてくれたスタッフには、本当に感謝しています。だからこそ、これからはスタッフ皆が安心して長く働ける会社をつくりたい。私の会社はスタッフの9割が女性なんです。飲食業は労働集約産業で、働き方改革を進めるにも難しいところがあります。でも頑張ってくれている社員に報えるよう、経営者として努力していきたいです」。
また、かつて自身が学びを得た「あきない虎の穴」では、現在は講師として開業希望者のサポートを行い、インターンの受け入れ店舗としても活動している。「スタッフには、『プログラム参加者からの質問には何でも答えてあげて』と伝えています。また、参加者にはどのような視点で店舗を見るべきかポイントを伝えた上で、現場に送り出すようにしています。私が学ばせてもらったように、今度は私が伝えていく番。新しい挑戦をする人たちの背中を押せる存在でありたいと思っています」と笑顔で語った。
住所:大阪府大阪市中央区淡路町2-1-10
「玄米&やさい食堂 玄三庵」
https://genmian.jp/
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