Vol.181
何でも好きなものを注文できるのが、「アフォーダブルプライス」
値上げをすれば、自然と客単価が上がると思っていませんか。実際は、逆に下がることも多いのです。
どうして下がるかというと、お客様は支払い額(客単価)を上げないように努力するからです。例えば、ファミリーレストランのメニューを見てください。大抵の店には牛肉100%のプレミアムハンバーグと、ちょっと安いスタンダードなハンバーグを持っています。ここでは、プレミアムハンバーグが看板商品でよく売れている、としましょう。値上げに直面すると、お客様は防衛行動を取ります。「よし、今日からスタンダードで我慢しよう」と言って、プレミアムの注文をやめてしまいます。お店の狙いは見事に外れるわけです。
ラーメン店ですと大抵、餃子があります。普段はラーメン+餃子で注文していたお客様は、値上げに直面すると餃子の注文を断念します。あるいは2人組のお客様なら、ラーメンは1杯ずつ注文して、餃子は1つだけ注文し、それをシェアすることをします。これで客単価が下がります。
それから、とんかつ一本で勝負している店が値上げをしたらどうなるか。こちらはお客様も回避のしようがありませんから、客単価は上がりますね。でも、これを機に来店しなくなるお客様が出てきますから、そうなると客数減は避けられません。お客様はなかなか店の狙い通りに行動してくれないものなのです。
今、「サイゼリヤ」の社長の値上げ発言が、話題になっています。社長が決算発表の席上で値上げの「可能性もあり」、とほんの控えめに発言しただけなのに、翌日から株価が跳ね上がりました。あまりの商品価格の安さに、証券界のみならず、お客様の間にも「もう少し値上げしてもよろしいのではないか」という声が満ち満ちていたのです。
長らく値上げをしてこなかったために、「サイゼリヤ」の客数は伸び続けました。2026年、前年対比で売上と客数で2桁の伸びを示しているのはチェーンではラーメンの「山岡家」と「サイゼリヤ」だけです。どの店舗も平日でもランチ、ディナーでウエイティングのお客様で溢れかえっています。お客様がいかに価格に敏感か、そのことを確かめたかったら、「サイゼリヤ」に行くことをお勧めします。圧倒的に支持されている光景を目の当たりにすることができます。
ところで、この「サイゼリヤ」ですが、客単価は上がり続けているのです。例えばコロナ禍前の2019年の客単価は735円でした。現在はどうかと言うと、862円です。これは国内の店の数字ですが、130円も上がっています。値上げもしないで、どうしてこういうことになるかと言うと、注文皿数が増えているからです。
「サイゼリヤ」のメニューの特徴はサイドメニュー(前菜)が豊富なところにあります。このジャンルで10品ありますが、1番安いものが182円、1番高いものが360円です。この他にサラダが319円で3品あります。また、デザートも豊富です。228円から455円の間に10品あります。さらにドリンクバーが、ファミリーレストランの中で1番安い。単品が273円で、料理とセットだと182円です(いずれも税抜き価格)。今は、お父さんが家族と来店して、「何でも好きなものを注文していいよ」と、胸を張って言えるのはチェーンでは「サイゼリヤ」だけでしょう。
このように値段を気にせずに注文できる価格を「アフォーダブルプライス」と言います。「サイゼリヤ」は、決して“安かろう悪かろう”の店ではありません。全ジャンルのメニューの質が上がっているのです。他の外食業が軒並み価格を上げている中で、「サイゼリヤ」のアフォーダブルプライスはより一層パワフルになっています。こういう店になれば、多少値上げをしても支持は下がらないと思います。つまり客数は減らないでしょう。
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値上げ→客数減→安売り。これは外食業の最悪手
「サイゼリヤ」は注文皿数が増えて、客単価が上がっていると言いましたが、この強さを発揮できる理由として、「サイゼリヤ」は他のファミリーレストランとは違って「シェアレストラン」だからです。
「シェアレストラン」とは、いろいろなメニューを注文して、テーブルを囲む皆で“シェアして食べる”店のことです(一方、それぞれの皿に所有権があるのは「ミールレストラン」といいます)。居酒屋や中華料理店は、シェアレストランの部類に入ります。
シェアレストランの特徴は、アルコール比率が高くなることにあります。いろいろなメニューを注文して、ワイワイガヤガヤと楽しむ店ですね。「サイゼリヤ」もグラスワイン1杯が91円という安さもあり、売上に占めるアルコール比率は普通のファミリーレストランと比べ、倍以上になります。実際、「サイゼリヤ」を“イタリアン居酒屋”として使っているお客様もよく見かけます。
「餃子の王将」も強いチェーンです。こちらは、スモールポーションのジャストサイズのメニューを強化して、やはり注文皿数を増やしています。ジャストサイズの強化はアルコールの注文と直結しますから、客単価も上がります。
読者の皆さんのお店のメニューもジャストサイズ部門の強化の余地があるのではないですか?
それによって、値段は上げずに客単価を高め、利益を増やす道が残されているのではないでしょうか。
私がいろいろな店に行って「残念!」と思うのは、個々のメニューの位置付けやポーションが間違っていることです。このメニューはミニポーションにして、価格を下げてサイドメニューの領域に入れるべきなのではないか、という感想を持つことが非常に多いのです。中華の店でも6個1人前の餃子に3個のメニューを加えただけで、餃子の売れ個数が倍増したというところがあります。
業態によって効果の差は出ますが、現行メニューを一度解体して、それぞれのメニューの位置付けを変える作業はぜひするべきです。これはメイン料理と固定した考えをいったん捨てて、サイドメニューになるかならないか、その検討をするべきです。ポーションと位置付けを再検討することを、ぜひお勧めします。意外にも現メニューの中に隠れた宝石が、山ほどあることに気付かされます。
サイドメニューの強化ですが、注意しなければならないことが3つあります。
1)現行メニューの中で考える
2)新しい食材を使わない
3)調理場に負担をかけない
この3つです。
この中で、特に大事なのが調理場の負担です。サイドの強化で、調理の負担が増して全体の提供時間が遅れては、元も子もありません。負荷増大は禁じ手、このことを肝に銘じておかなければなりません。
もう一つ付け加えるとしたら、アルコールメニューの再検討です。アルコールを強化し過ぎると、滞在時間が長くなるという心配はありますが、客単価は確実に上がります。これで来店動機がすっかり変わってしまうのは問題ですが、新しい客層をつかむきっかけにはなります。これで成功しているのが「日高屋」です。ラーメンと生ビールともう1品で1,000円以内に収まるように値付けされています。これが効果を発揮して、「日高屋」は客数も客単価も上がっているのです。
今回はメニューの位置付けを変えることによって、特に既存メニューをミニサイズにすることで、値上げをしなくても客単価を上げることができますよ、という話をしました。
アメリカの大手ファストフードは今、値上げによる客数減に苦しんでいます。そして慌てて、安売りセールを実施しているのですが、客数の戻りは鈍いのです。値上げ→客数減→安売り。これは外食業の「最悪手」であることを肝に銘じておきましょう。
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