2012/09/28 繁盛の黄金律

ベテランスタッフが新人を教育できる仕組みを作ろう

何も教えないから、パート・アルバイトは去っていく‐パート・アルバイトに「なぜ辞めたか」をアンケートをとったところ、意外にも一番多かったのは「何も教えてくれなかった」という理由でした。

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Vol.13

ベテランのパート・アルバイトが、新人の教育・訓練者になる仕組みを作ろう

以前、ある外食専門誌で「なぜあなたは辞めたのですか」というアンケートを、パート・アルバイト(PA)250人にしたことがありました。250人の8割が女性、また7割が大学生・専門学校生でした。

そこで実に興味深い結果が出ました。辞めた理由でいちばん多かった回答は何だったと思いますか? なんと!「何も教えてくれなかった」なのです。そして2番目が「ヒマだった」。私は意外の感に打たれました。

ヒマでブラブラしていれば時給がもらえる。こんな結構なことはないではないか、とも思われますが、そんなことはないんですね。PAも何か技術を身に付けたがっているのです。向上心というものがあるのです。その向上心を満足させてくれない店からは、PAも去っていくということです。

PAに定着してもらおうと、はれ物に触るような対応をする店長がいます。「忙しいときに手伝ってくれればいいから」と言わんばかりに、サービスの技術も何も教えずに、放ったらかしにする。これがいちばん悪いのです。2番目の理由の「ヒマだった」も、同じ回答でしょう。何も教えてくれない→どう動いていいかわからない→ブラブラしている。これが"ヒマ"の実態です。忙しいのにお客の呼ぶ声を無視して、パントリーでベチャクチャとおしゃべりをしているPAをよく見かけます。「とんでもない女(男)だ」と、お客は怒り心頭ですが、これはPAが悪いのではありません。何も教えていない店長がすべて悪いのです。

教育・訓練は、一人ひとりのPAに対して個別に施していかなければなりません。その手順は、①(店長が)やってみる、②(PAに)やらせてみる、③直す、④再度やらせる、⑤褒める、です。まずお手本を示す。そして、最後に褒める。ここが肝心なところです。つまり店長は、作業の完全習熟者でなければなりません。店で必要なすべての作業について、人にお手本が示せるまでに完璧に熟知していなければなりません。店長とは、そういう存在です。

PAの向上心は捨てたものではありません。入口を突破すると、さらに難度の高い次のステージに進もうとします。鍛えがいのある人たちなのです。この向上心を刺激し続けることが、店長の最大の仕事です。店長は作業の完全習熟者でなければなりませんが、作業に没頭していてはいけません。

上位のPAが新人のトレーナーになる

そうは言っても、PAはいろいろな事情で店を去っていきます。そういう流動的な人たちに対して、個別に教育・訓練をし続けることは徒労でないか。こう考える方もいらっしゃるでしょう。これは飲食業、レストラン・ビジネスの永遠のテーマでありますが、その対策は「PAをトレーナーに仕立て上げること」に尽きます。

PAの大半は、トレーニーです。つまり、教育・訓練を受け続ける側にいる人たちです。しかし、教わって自分の身に付けた技術については、新人のPAに教えることができます。その部分については、トレーナーになれるということです。

ベテランのPAを新人のトレーナーにすることで、店長の仕事がかなり軽減されます。トレーナーになったPAは、新人に教えることで、自分の作業の習熟度合いを確認することができます。「わかっていたつもりだったけれど、中途半端だったな」。こう反省することで、自分の技に磨きがかかります。また、人に教えることで、仕事のおもしろさが一段と増すものです。

しかし、PAの誰もがトレーナーになれるわけではありません。自分ではできても人には教えられない、もしくは苦手だという人もいます。こういう資質のない人に、無理にトレーナーの仕事をさせると、本人も新人も両方とも店を去ってしまうことになりかねません。その見極めが大切です。

こういうPAトレーナーの層が厚いのがマクドナルドですね。スィングマネージャーというのが、それです。マクドナルドのサービスが均質を保てているのも、このスィングマネージャーのレベルが高いからです。

サービスマニュアルは不要だ、それよりも心のこもったサービスを教えることのほうが大事だ、ということを言う人がいますが、間違っています。サービスマニュアルは、製品の取扱説明書です。カメラにしても、パソコンにしても、あったほうがいいに決まっています。感動的な写真を撮ってやろうと意気込むカメラマンも、初めて手にするカメラなら"取説"をじっくり読んで、操作方法を身に付けるはずです。そしてすぐに"取説"が必要でない段階に入ります。

サービスマニュアルもまったく同じです。入門書として必要なのです。そして一日も早く、それが必要でない自分になっていかなければなりません。マニュアルは乗り越えていくものでなければなりません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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