2012/10/31 繁盛の黄金律

開店時の原価オーバー、人件費オーバーを恐れるな

多めに採って、みっちり鍛えて、絞り込む‐「人件費は売上の25%以内に収めろよ」と経営者に言われると、それをそのまま実行しようと躍起になる店長がいますが、これは二流の店長です。

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Vol.14

多めに採って、みっちり鍛えて、絞り込む

例えば、「人件費は売上の25%以内に収めろよ」と経営者に言われると、それをそのまま実行しようと躍起になる店長がいます。マジメといえばマジメなのですが、これは二流の店長です。経営者は最終的な利益が気になるから、そういう枠にはめようとするのですが、一流の店長は「ハイ、ハイ」と返事をしながら、別のことを考えています。新規開店の店などで、この枠にはめられて忠実に実行しようと思うと、ニッチもサッチもいかなくなってしまいます。

スタート当初は、人件費は多めに設定しておかないと店のレベルが上がっていきません。パート・アルバイト(PA)を戦力化するためには、「多めに採って」、「みっちり鍛えて」、「絞り込む」の三原則を守らなければなりません。いくら厳しい目で採用をしても、PAの能力にはバラつきが出ます。玉石混交が当たり前なのです。適性がなく、能力の低いPAをまず脱落させなければなりません。無理に鍛えても時間の無駄というものです。適正、能力のあるPAは、厳しく鍛えてもついてきます。脱落しないものです。

こうしてふるいにかけて、少数精鋭の強力な軍団を一歩一歩作っていくのです。つまり、「ふるいにかける」だけの余剰人員を確保していなければならない、ということです。そのため、人件費は多めに設定しておかなければなりません。また、時給を低く設定しておけば、その分人件費は下がりますが、よい方法とは言えません。PAは、時給いくらかということに非常に敏感です。時給の高さに想像以上のプライドを持っています。つまり、低い自給の店には、それなりのレベルのPAしか集まらない、ということです。むしろ、相場より高めの時給でレベルの高いPAを集めるべきです。その中から、さらにレベルの高いPAを選抜するわけですから、必然的にハイレベルな軍団が形成されます。

フードビジネスはヒューマンビジネスであり、人の力によって顧客の満足を得るビジネスですから、人がすべてです。人の技能、ホスピタリティ能力が収益を高める原資です。スキルを高めて少数精鋭集団を作る以外に、競争に勝つ術はないのです。

開店初期は、原価率が上がって当たり前

これは材料費についてもいえます。「原価率は33パーセントだよ」と決められていても、有能な店長は開店当初はこの数字を無視します。別の言い方をすると、廃棄ロスを恐れないということです。開店したばかりの店は、キッチンのスキルも上がっていませんし、たとえ一級の料理人であっても、厨房機器に不慣れなため作り損ないが出やすいものです。

無理に適正原価率の枠にはめようとすると、本来廃棄しなければならない料理を提供してしまうという、最悪の事態を引き起こしてしまいます。一品一品の料理のスタンダードをしっかり決めておかないと、不良品がそのまましてお客に提供されてしまうことになります。このことは、絶対に避けなければなりません。

ここで大事なことは、ビジュアルチェックです。提供してよい料理か、いけない料理か、これをチェックする人間が必要です。このチェッカーは通常であれば料理人となりますが、店長の場合もあります。ここでよくトラブルが起こります。店長に料理を突き返されて、料理長がぶんむくれになるという、よくあるトラブルです。料理長の力が絶大な場合、なかなか突き返せるものではありませんが、店長がチェッカーであれば、店長の判断に従わなければなりません。この判断基準が一品一品のスタンダードなのです。スタンダードに適していない料理は、作り直すか、廃棄するか、どちらかを選ばなければなりません。

アメリカンのレストランでは、“ドライ・ラン”という方法をよく採ります。開店前の練習営業です。開店前の3日間とか、一週間とかを決めて、知人や友人をお客にして、調理・サービスの試験営業をするわけです。お客は練習台ですから、料金はタダ。日本でも、近隣の幼稚園児やお年寄りを招待して、「練習」をすることがあります。この費用は、開店費用の中に含まれています。この制度がない場合でも、一流の店長は、開店初期には食材費と人件費を多めに取っておきます。自分の頭の中で、開店費用の額を決めているわけですね。

そして、営業に慣れてきたらこれをジワジワと絞り込んでいくわけです。不慣れな経営者は、この多めの費用にハラハラしてしまいますが、店長はにっこり笑って「ご心配なく」と経営者にささやきます。やがて3カ月も経ちますと、店はブンブンまわり、商品のスタンダードはきっちり守られ、客数は伸び、原価率と人件費率は所定の枠内にきっちり納まるという状況になっているのです。開店費致y;を惜しんで繁盛店にしようなどという甘い考えは持ってはいけません。

開店費を惜しんで繁盛店にしよう、などという甘い考えは持ってはいけません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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