2012/11/30 繁盛の黄金律

高単価でなければお客が困る飲食店もある

思い切り店舗に投資をして、バリアを築く‐一杯のコーヒーに800円とか1,000円を取る喫茶店がありますが、終日お客が絶えなくて、結構な繁盛を維持しています。その理由を考えてみましょう。

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Vol.15

思い切り店舗に投資をして、バリアを築く

一杯のコーヒーに800円とか1,000円を取る喫茶店がありますね。「原価率5%?」みたいな店です。そんな店に誰が行くんだよと思って行ってみると、終日お客が絶えなくて、結構な繁盛を維持しています。

その代わり、店舗投資は半端ではありません。デコラティブ・ゴージャス派もあれば、シンプル・シック・ノスタルジック派もあり、テーマはいろいろですが、内装、調度、食器などは選び抜かれています。喫茶店でここまでやるか、というくらいのお金の掛け方です。当然、居住性も高い。

このようなお店は、一般的な傾向とは逆です。普通は、原価と人件費は削るわけにいかないから、店舗投資は極力抑える。チェーン店はたいていどこもこの道をとことん追求していますね。居抜き物件を引き受け、家賃を引き下げて、追加の投資をほとんどしないで、ペイラインを下げる手法でチェーン化を進めているグループもあります。こういうグループからすると、過剰投資の喫茶店は理解不能の店ということになるでしょう。

しかし、過剰投資もひとつの生き方です。誰もそんな"非常識"な真似はしませんから、それがひとつの参入障壁となります。例えば、椿屋珈琲店というお店があります。過剰投資型ですが、この店ならではの客層(正確には来店動機)を捉えています。じっくり商談をしたり、デートスポットとして使ったり、別れ話をしたり、趣味の会の集いをしたり、といった動機を持った人が、まさかドトールコーヒーには行きませんよね。ためらうことなく、椿屋珈琲店を選びます。椿屋珈琲店が非常識と言っているわけではありませんが、コストカットとは真逆の道が、高単価の取れる喫茶店という独自の市場を確保したのです。こういう商売のやり方もあるのですね。

こういう店は、「超繁盛して一日中行列が絶えない」などという状況はあってはならないのです。いつ行っても適当に席が空いていることが、お客から求められているのですから、満席状況になったらそれを回避する方法を採らなければなりません。つまり、値上げです。端から見ると、元が高いのにさらに値段を上げるなんて、と非難の声のひとつも出てしまいそうですが、それは店を使っていない人間の言うセリフです。ヘビーユーザーにとっては、「値上げして客数を減らしてもらわなければ困る」のです。

高単価、高粗利商売に切り込むカテゴリーキラー

高単価でお客をふるいにかけ、特定の動機だけをつかみ取る、一種の排他ビジネスというものがあります。料亭なんかもそれです。ホテルなどはその典型ですね。この排他ビジネスは、初期投資が莫大となります。投資額そのものが参入障壁なのですから、当たり前ですね。誰にも真似のできないような投資をして、そこでバリアを築いてしまいます。

巨大投資でペイするためには当然、営業コストを下げなければなりません。ホテルは、人件費や家賃はかかりますが、宿泊の原価は基本的にタダです。ビジネスホテルは巨大投資にはなりませんが、やはり自前の飲食施設を持たない場合は原価ゼロの世界です。人件費も低く抑えられますから、稼働率さえ上がれば、メチャクチャ儲けられるビジネスです。

飲食業の場合は原価率ゼロというわけにはいきませんが、高投資型のビジネス形態も「アリ」ということは、頭に入れておきましょう。市場は限定されますが、特定の動機を狙い打ちする店で、高単価が取れて、高荒利益率を確保できる商売です。具体的には高級料亭、フレンチやイタリアン、あるいは寿司などの高級専門店、さきほどの高単価喫茶店などです。いずれも初期投資は高く、高質の居住性を具備していなければなりません。さらに、高単価を取れるだけの商品の質を持っているか、また、それを支えるだけのサービスの高質性が保持されているかどうか、ここが問題になります。つまり、商品力、サービス力、居住性の三拍子がそろっていなければ、この排他ビジネスは成立たないということです。

もうひとつ、高単価、高荒利の商売という分野には、必ずカテゴリーキラーやディスカウンターが登場して、そのバリアを突き崩します。「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」が今、話題を呼んでいますが、あれは高級専門店のカテゴリーキラーですね。価格を思い切り引き下げ、原価を50%近くかけ、そのかわり客数(回転数)で稼ぐスタイルです。荒利を抑えてこれまでとまったく違った利益構造で商売をする旗手の登場です。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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