2012/12/28 繁盛の黄金律

「ミール」から「シェア」への業態変換を探る

飲食業もいろいろな区別の仕方がありますが、皿の所有権のある業態と、ない業態の2つに区分してみると、新しい商売の道が拓けてきます。結論を言うと、時代は皿の所有権のない業態に移行しています。

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Vol.16

ディナー市場はシェア型へと移行している

飲食業もいろいろな区別の仕方がありますが、皿の所有権のある業態と、ない業態の2つに区分してみると、新しい商売の道が拓けてきます。結論から先に言いますと、時代は皿の所有権のない業態に移行しています。

例えば、フレンチは「ある」ですが、イタリアンは「ない」。日本料理は「ある」ですが、居酒屋は「ない」。ステーキは「ある」ですが、焼肉は「ない」。しゃぶしゃぶ、すき焼き、うどんすきも「ない」です。ラーメンは「ある」ですが、中華料理は「ない」になります。もうおわかりでしょう。「ない」業態というのはいろいろな料理をシェアしながら、お酒を飲んでワイワイ、ガヤガヤ楽しむビジネスです。時代は、この「ない」ほうにシフトしている傾向があります。

郊外のファミリーレストランを見てみましょう。元々は、「私はハンバーグ」「私はステーキ」というように、皿の所有権が「ある」業態でした。ところが、サイゼリヤは「ない」のです。基本がイタリアンであることに加えて、あまりにも価格が安いので、もう一品、もう一品と注文してしまい、皿をシェアするかたちが強くなったのです。ですから、一般的にファミリーレストランの売上におけるアルコール比率は2~3%であるのに対し、サイゼリヤだけは5%を超えます。低価格イタリアン居酒屋として利用されているのですね。また最近、ファミリーレストランがどんどんブッフェに業態転換していますが、あれも「ない」型ですね。いろいろな皿を家族でシェアしている光景が非常によく見られます。ファミリーレストラン業界も、「ある」型グループが「ない」型グループに追い立てを食っている、という言い方ができるでしょう。

「ある」型を、ミールレストランと言います。ミールとは食事という意味で、グループで食事していても、それぞれが個の食事をするスタイルです。一方、「ない」型をシェアレストランと言います。文字通り、料理をシェアして食べる業態ですね。こちらのほうがどうも楽しそうです。前述のように、ビールやワインを飲んで歓談しながら食事をするのですから、楽しいに決まっています。ランチは「ミール」、しかし、ディナーは「シェア」という方向に進むのは、当然のことです。

シェア業態への転換のポイントは「価格」「ボリューム」「アルコール比率」

ですから、まずは我が店は、ミール型なのかシェア型なのかどうかを判断することです。ミール型で結構というのも、それはそれでひとつの生き方です。アルコール販売が苦手な経営者は、無理にシェア型に変身する必要はありません。例えば定食屋がシェア型に変身しようとすれば、居酒屋の方向を探るということになりますが、何も無理に進む必要はありません。定食屋としてのディナー市場も厳然と存在するのですから、それを粛々と追求すればよいのです。しかし、シェア型になれる商売をやっていて、なりたくてなれないというのは問題です。どこかに欠陥があるのです。シェア型への変身は、業態によってその方法は変わりますが、ここでは基本的な注意ポイントを指摘しておきましょう。

まずは価格です。シェア型というのは、多くの料理を注文するのですから、抵抗なく注文できる価格(これをアフォーダブル・プライスと言います)が実現されていなければなりません。前述のようにサイゼリヤがシェアレストランになり得ているのも、破格の安さがあるからです。また、280円や300円の均一価格の居酒屋もそうです。注文への抵抗度合いが低いのです。このときも一番大事なことは、戦略としての客単価です。いったい1人のお客様からいくら頂戴するのか。それが戦略としてまずあって、そこから一品一品の価格がはじき出されていなければなりません。以前にも言いましたが、客単価は結果ではなく、戦略でなければなりません。

次にアルコールの売上比率です。高ければ高いほどいいというものではありません。シェア型を追求したいが、メインターゲットはファミリーに置きたい、居酒屋にはしたくない、というのであれば、むしろアルコールの売上を抑えなければなりません。そのときの基準は15%でしょう。これを超えると、ファミリー狙いから離れていってしまいます。シェア型であっても、ブッフェのようにアルコールの売上が低いビジネスもあります。要は、どういう立地で、どういう客層(正確には来店動機)に照準を当てるかです。

シェア型に変身させる場合、料理のボリュームと器の大きさも大事になります。例えば、うどんという本来個食であるものを、うどんすきというシェア型に変身させたのも、器とボリュームに着眼したからです。そう考えると、どこまで行ってもシェア型にならない商売があるということがおわかりでしょう。そばがそうですね。うなぎもそう。ラーメンも個食です。しかし、これらの個食を“仕上げ”として残しておき、その前段階をシェア型にするということは可能です。そば居酒屋がまさにこれです。「そば屋で一杯」というニーズは十分にありますが、仕上げのそばそのものは個食であり続けているのです。

「シェア」をキーワードに、もう一度現在の商売を分析してみましょう。意外な可能性が拓けてくるはずです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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