どろまみれ
Key Point
- 秋田比内地鶏を低価格で提供
- 農園直送の野菜類で差別化
- 目的客を増やし、難しい立地を克服
大手飲食企業での経験をもとに個性的な焼鳥店を出店
秋田産の比内地鶏と、店長の実家から届く新鮮な野菜という、2本柱を持つ「焼鳥串焼 どろまみれ」は、中高年のサラリーマンを中心に、連日満席となる焼鳥居酒屋である。地下鉄丸ノ内線四谷三丁目駅から徒歩5分ほど、四谷荒木町の飲食店街からやや外れたビルの2階にあり、決して恵まれた立地ではないが、焼鳥と野菜料理のおいしさでリピーターをつかみ、口コミで顧客を増やしている。
オープンは2010年9月23日で、経営元は株式会社どろまみれ。代表の礒部剛宏氏、店長の石井和紀氏ともに、サントリー系列の株式会社ダイナック出身で、10年以上前に出会い、ともにダイニングバー「響」の店長などを務めていた。石井氏の実家は埼玉・狭山ヶ丘の兼業農家で、以前から生産者直送の野菜を使うという、強みを持った飲食店を出店したいという構想を持っていた。その後、礒部氏と一緒に飲食店を経営しようという話になり、焼鳥と野菜という2本柱を確立したいと考え、先にダイナックを辞した礒部氏は、焼鳥店数店舗で修業を積みながら、数店舗の新店の立ち上げにも関わった。一方、農業に興味のあった石井氏は、1年ほど野菜の生産を経験し、満を持して同店の出店に向けて動き出した。
19坪の現物件に決めると、カウンターとテーブル席で計30席を設け、すべての客席に目が届くようにした。また、礒部氏が扱ってきた鶏肉のなかで、焼鳥でも、スープをとってもおいしい秋田の比内地鶏を選び、契約農家から直接仕入れる体制を整えた。野菜も、地鶏も、泥まみれになって育つものであり、また何よりも自分たち自身が泥まみれになり、額に汗して働く意識をしっかり持って営業していこうという思いから、「どろまみれ」という店名をつけた。
「わかりづらい場所なので、店の存在を知ってもらうまでは大変でした。開店当初はチラシを配ったり、もちろん近くの会社への挨拶回りもしました。オープンして1年経った頃から、ようやく客数も安定してきましたね」と石井氏は振り返る。メインターゲットは30~40代の男性で、1度来店したら、次は別の知人を連れてリピートしてくれる客が多く、現在はほぼ毎日、満席となる時間帯が出るようになった。客単価は4,500円で、フードとドリンクの売り上げ比は7対3となっている。
比内地鶏と野菜類の2本柱を駆使し、目玉商品や日替わりメニューを提供
来店客の約8割がオーダーするのは、農園の15種生野菜盛り(780円)だ。15種と謳いながらも、実際には25種ほどの野菜を使用し、竹の器にこんもりと彩り豊かに盛り合わせ、群馬産の釜炊きみそと、熊本・天草産の天然塩で味わってもらう。
焼鳥は、秋田の契約農家から締めた翌日に同店に届く比内地鶏の丸鶏を、店内でさばいて串に刺す。天草の天然塩を振り、備長炭で香ばしく焼き上げて提供する。また、この備長炭を活かした野菜のあぶり焼きや、比内地鶏のガラでとったスープで葉もの野菜をさっと煮ながら食べる草鍋(1人前980円。注文は2人前より)も、同店の名物料理となっている。
お通し(500円)も趣向を凝らし、現在は手作りの大きなシュウマイを蒸したてで提供している。食事の途中で提供するとともに、焼鳥店らしからぬお通しが出てくるため、客の驚きにつながり、会話のきっかけにもなっている。
また、その日の食材や季節に応じた日替わりメニュー30~40品目は、いずれも提供前にひと手間加えており、多少時間がかかっても、客に必ず満足してもらえる料理に仕上げるように心がけている。
同店が繁華街からやや外れた立地で、中高年のサラリーマンに支持されている要因は、以下のようになるだろう。
1秋田の契約農家から仕入れる比内地鶏を店内でさばき、肉や内臓は焼鳥や一品料理に、ガラはスープに使い、料理や鍋に活用している。
2店長の実家の農園から直送される新鮮な野菜類を使った日替わり料理で特徴を出している。
3口コミで着実に顧客を増やし、難しい立地ながら目的客をつかんでいる。
また、現在は礒部氏、石井氏のほか、社員3人で稼働しており、質の高い商品、サービスの提供に努めているのは、30席規模の焼鳥店としては珍しい。これは、今後の2号店、3号店出店の布石であり、早ければ今年5月頃には2号店の出店が実現しそうである。2号店以降は、立地に合わせて業態を考えていく意向だが、その際、礒部氏や石井氏が新店舗に移っても、この1号店がゆるがないようにすることが大事と認識している。「次の店舗を出店しても、1号店がブレないように、人材を育て、ベースを守れる状態をつくっておくことが一番大切だと思います」と言う礒部氏。2年半かけて築いてきた1号店の基盤を保ちながら、将来的には10店舗ほどの展開を目標としている。