SNSで、商売と人生を広げた男
岩手県盛岡市の「ももどり駅前食堂」を訪れると、ときどき、社長や従業員に対して「いつも見てます。ファンなんです」と握手を求めるお客様がいる。「え?芸能人?」と驚く人もいるかもしれない。実は、社長の山鼻万世氏はSNS界の超有名人。従業員と一緒に動画投稿しているインスタグラムのフォロワーは21万人超(※1)。さらにTikTokは25万人(※2)を超える。個人経営の飲食店でこの数字は驚異的だ。
※1 ※2 取材時の2024年3月
現在、SNSで知って来店したと言うお客様は、月に500人を超える。SNSを集客につなげる秘けつと、更なるビジネスチャンスへと広げる方法を、山鼻社長に話を聞いた。
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ショートムービーでフォロワー爆増!
「お店のオープンと同時にインスタを始めたのですが、最初は普通に料理写真をアップしたりしていました。でも注目されることはなく、フォロワーも増えませんでした。ストーリーズを使って動画発信もしましたが、ストーリーズはどちらかというと、フォロワーとの交流には向いてますが、フォロワーだけにしか表示されないし、24時間で消えてしまうので、新規フォロワーを増やすのには弱い。そんな試行錯誤を重ねて、リール(インスタグラムのショートムービー機能)にたどり着きました」。
山鼻氏の作るショートムービーは、従業員とのショートコントのような掛け合いが楽しい。たいていは、社長の山鼻氏が従業員にいじられるパターン。「偉い人」「こわい人」という一般的な社長のイメージを覆しているから、そこに親しみが生まれ、笑いにつながっていく。出演者がとても楽しそうに演じているのもいい。見ていて自然と微笑んでしまう。社長や従業員たちの人柄が伝わってくる。何度も見ているうちに、この人たちに会ってみたいとも思うようになる。
「今の飲食店は、おいしいのは当たり前。接客がいいのも当たり前。料理だけじゃ、どんなにおいしそうでも、埋もれちゃう時代です。数ある飲食店の中から選んでもらうには、選ばれる理由を作らないとダメだと考えました。その方法はいろいろあると思いますが、私たちは、人を主役にしました。この人に会いたいと思って、それが来店動機につながるような、楽しく明るい動画を作り続けたいですね」(山鼻氏)。
インスタグラムで今の形のショートムービーをアップするようになってから、フォロワーがどんどん増えるようになった。20万人近く増えたと言う。同じ動画をTikTokにもアップするようにしたら、こちらでも注目を集め、インスタグラムを追い抜く勢いで増えた。
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本当に大切なのはこまめなコミュニケーション
「でも、集客につなげるうえで本当に大切なのは、こまめなコミュニケーションです。ついたコメントやメッセージをチェックして、一つ一つに返事するなどの地道な作業が、ユニークな動画で注目を集めること以上に重要です。来店していただくためには、フォロワーでなくファンになっていただかないといけないですから」(山鼻氏)。
SNSを活用する上で、ここは重要なポイントだと言える。フォロワーの数が多いことよりも、その中で実際に行動してくれる人がどれだけいるかが肝心。1,000人中100人が買ってくれるより、1,000人中1,000人が買ってくれる方が良いに決まっている。
インスタグラムを見て面白いと思ってフォローしてくれた人を、見るだけで終わりにさせず、お店に行きたい、あなたに会いたい、あなたから買いたいと思っていただけるまでに信頼関係を築くことがマーケティングの要だと言える。
「こまめなコミュニケーションは、大変だと思うかもしれませんが、飲食業で培ってきたことをそのままオンラインでやっているだけです。飲食人なら、ここは得意分野と言う人多いのではないでしょうか」(山鼻氏)。
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SNSのメリットは集客だけではない
「飲食店がSNSをやらないのはもったいない」と山鼻氏は言う。「先ほども言いましたけど、お客様とコミュニケーションをとって常連客を増やしてきた飲食人には、SNSは向いています。無料でできますから、やらないという手はないんじゃないかとも思います。最近は飲食店をインスタグラムで探す人が多いそうです。選ばれるチャンスが少しでもあれば、それを活かした方がいい。今なら続けるだけで差別化できる可能性も高いです。みんなめんどくさがってやめちゃうからですけど。それにSNSのメリットは集客だけではありません。私自身、取材も増えたし、街で声をかけられることも増えました。イベントや講演会に呼んでいただいたり、以前は考えられなかったようなビジネスチャンスも生まれました。SNSは、思わぬ形で商売を広げてくれることがありますし、自分自身の成長にもつながります。知らなかったことを教えてもらったり、新しいことを発見したり、それだけでも十分に楽しい。自分の世界が大きく広がったこと、実感しています」。
山鼻氏は、今後はSNSコンサルタントとしての活動にも挑戦していきたいと語る。
「これまでやってきたことを活かして、誰かの役に立てるようなことができないかなと思っています。SNSは始めるのは簡単ですが、マネタイズをどうするかなど考えるべきことも多い。商売に役立てるには、導線をちゃんと考えて作らないとダメですし、私が試行錯誤の中でたどりついた知恵やノウハウが少しでも役に立つならうれしいなと。さまざまな盛岡のお店や企業などがSNSで話題になって、日本中から、たくさんの人が来てくれるようになることを夢見てます。あ、それから、うちの店の名物メニューを冷凍食品にして通販で売り出そうと考えているのですが、ここでもSNSを活用しようと考えています」。
SNSをきっかけに、山鼻氏の店は繁盛店になり、新しい夢も生まれた。これからの山鼻氏と、ももどり駅前食堂、そして盛岡からは、しばらく目を離せそうにない。
岩手県盛岡市盛岡駅前通10−4
https://r.gnavi.co.jp/gk2g7tns0000/map/
スマイラー98号(2024年3月)より転載
■飲食業界誌「スマイラー」
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