※スマイラー115号(2025年9月)より転載
「興味を持つ」が接客の原点。S1最優秀賞・田中 達紀 氏の哲学
チームで実現する「心をつかむ接客」
田中氏が普段の接客で大切にしているのは、「聞き役に徹する」姿勢である。「僕は自分の知らない世界の話を聞くのが好きなんです。なので、たとえば市の職員さんが来たら、その仕事の話を聞く。相手は専門分野を語れてうれしいし、僕は新しい知識を得られる。お互いにとってプラスなんです」という。
一方で意外なのは、顧客の顔と名前を覚えるのが苦手ということだ。「めちゃくちゃ苦手なんですよ。得意な人は一度で覚えると思うんですけど、僕はできません。だから、ハイボールをよく飲むお客様なら『ハイボールさん』、『いつもこのおつまみの方』など特徴から覚えるようにしています」。
顔と名前は無理に覚えようとせず、繰り返し顔を合わせる中で覚えていく。そして徐々に仲良くなり、お客様との距離を縮め、やがてはニックネームで呼び合える関係に変わっていく。さらに、顧客の趣味や関心に応じて、最も話が合うスタッフを担当につけることも重視している。「僕はアニメに詳しくないですが、アニメ好きのお客様がいれば、詳しいスタッフをつけます。共感できる相手がいるだけで一気に盛り上がります。やっぱり『共感』が大事なんです」。
こうした工夫は、単に来店客と仲良くなるためだけにやっているのではない。アレルギーや好き嫌い、宗教上の禁忌など顧客の安全・安心に関わる情報を共有するという理由が根底にある。
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講師料は商品券にして還元。「実際に店舗で接客を見てもらいたい」
2025年3月の「S1サーバーグランプリ(※)」最優秀賞の受賞を機に、田中氏には講演などの依頼も増えている。「先日は、洋菓子メーカー様から依頼を受け、社員さん向けの接客セミナーをやりました。テーマが“S1最優秀賞から一流を学ぼう”と設定されていて、正直、肩書きが先走っていると感じました。ただ、そうして評価していただいている以上は、その期待に見合う内容を提供しなければならないと強く意識しながらお話するようにしています」。
※S1サーバーグランプリ(S1 Server Grand Prix)は、日本の飲食店で働く接客スタッフ(サーバー)の日本一を決めるコンテスト。飲食業界における接客サービスの質の向上と、働く人々のモチベーション向上を目的として、毎年開催されている
さらに、注目すべきは講師料の相当額を自店で使える商品券にし、参加者に還元しているということだ。「実際に来店していただき、自分たちの接客を体験してもらえたら何か感じてもらえるはずという考えから、『ぜひ通常営業のときにお越しください』と伝えるようにしています」と田中氏は話す。
反省から生まれた視点と「自分用」のマニュアル
接客において田中氏がとくに重視しているのは、顧客との「距離感の見極め」だ。予約時の情報や来店時の雰囲気から接待かデートか、家族利用なのかを瞬時に判断し、必要に応じて立ち位置を変えている。「会話に入らない方がいい場面は黒子に徹し、逆に入った方がいい場面はMC役として間をつなぐ。たとえば、上司と部下で来店された場合は、部下が上司から評価を得られるようにフォローする役回りに徹します。部下の方が『気が利くな』『よくそこに気が付けるな』と思ってもらえるようにすることを大事にしています」。
こうした視点は、自らの数多くの反省の積み重ねから生まれた。自身が客としてお店に行ったときに“こうしてくれたらよかったのに”と感じた経験や、顧客からの指摘が糧となっている。褒められたこともあれば、注意を受けたこともある。その一つ一つを今につなげているという。
また、スタッフの教育においても、田中氏は独自の考えを持つ。形式的なマニュアルはあるが、それはあくまでも「自分用」のマニュアルであるということだ。「現場がマニュアル通りに進んだことなんて一度もありません。だから、スタッフにはその人に合わせた教え方をします。体育会系の学生にはそれらしい方法で、おとなしい子にはその子の性格に合った方法で、それぞれのタイプに合わせて指導するようにしています」。特に学生アルバイトと接する際は、その「人生の一番大事な時期」を預かっているという責任感を抱くという。「20代というのは、あとから振り返っても特別な時期です。その貴重な時間を預かる以上、必ず価値のある経験を提供したい。そこは絶対にブレないところです」。
3号店は「接客特化型」の計画、海外方式の導入に挑戦
「コウカシタ ‐カモシヤ‐」は2025年10月、札幌に3号店をオープン予定だ。席数は約50席と最大規模となり、現在は内装設計の真っ最中にある。そして新店舗は「接客特化型」の形態にする計画だ。「海外のレストランでは、テーブルごとに担当スタッフがつきます。今回はその方式を日本で導入したいと検討しています。チップ制度はありませんが、スタッフが一組のお客様を責任を持って担当すれば、接客の質も責任感も格段に高まると考えています」という。
専任制にすることで、スタッフは顧客一人一人と深く向き合うことになり、満足度を飛躍的に向上させるのが目的。また、評価もダイレクトに担当するスタッフへ返ってくる。人件費はかかるが、顧客満足度の向上のために検討を進めているという。
接客は自由なもの。もっと簡単に考えて
インタビューの最後に、田中氏はこれから接客に携わる人々へメッセージを送った。「お客様との会話が続かない、どう切り出せばいいかわからない―そのように悩む人は多いと思います。でも、突き詰めれば『興味がない』だけなんですよね。好きな人なら自然と気になりませんか?どんな食べ物が好きなのか、どんな趣味があるのか。興味を持つことが、接客の最初の一歩なんです」。
かつての「お客様は神様」という考え方を田中氏は好まない。大切なのは、相手を人として尊重し、恋人や家族に接するように「関心」を寄せること。そこから自然な会話が生まれ、信頼関係が築かれていく。その結果としてファンが生まれるのであり、「ファンを作ろう」と意気込むのではなく、「興味を持つ」という姿勢こそが原点になる。
「接客は自由なので、もっと簡単に考えていいと思うんです」。顧客を好きになり、そこから自然に興味を広げていく―そのシンプルな姿勢が、田中氏の接客術の中核にあると言えそうだ。
住所:北海道札幌市北区北6条西6丁目 JR高架下West 6
https://r.gnavi.co.jp/8w1g9jgp0000/
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