更新日:2022.8.10
目次
・「身近にも当事者がいる可能性」を認識しよう
・店舗責任者の理解の度合いにより大きく変わる、当事者の働きやすさ
・店側の接客と、来店客・スタッフ両方の当事者に関わるトイレの問題
・LGBTQ対応、何をどうすればよい? 「公平性」を念頭に、社内制度や接客の見直しを
・身近な存在である飲食店だからこそ果たせる支援の役割がある
「LGBTQ」、つまり性的マイノリティは、現在、日本の人口の約8%を占めるとも言われている。来店客やスタッフが、LGBTQの当事者である可能性は大いにある。そもそもLGBTQとはどういった人たちのことを指すのか、当事者は飲食店で食事をする際や社会で働く中でどんな思いを抱えているのか、来店客や従業員の中にLGBTQの人たちがいることを想定した接客やマネジメントのポイントなどをLGBTの就職支援サービスを運営する株式会社JobRainbowの代表取締役・星賢人氏に聞いた。
「身近にも当事者がいる可能性」を認識しよう
性的マイノリティの割合は、11人に1人との調査結果も
飲食店の「LGBTQ」対応を考えるに当たり、まずは基礎的な知識を知っておきたい。「LGBTQ」とは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィアまたはクエスチョニングという代表的な性的マイノリティの頭文字を組み合わせた呼び方(下図参照)。広く性的マイノリティ全体を指して使われる言葉だ。
「LGBTQ」でひとくくりに捉えられがちだが、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルが「性的指向(好きになる性)」のマイノリティであるのに対し、トランスジェンダーは「性自認(性別に関する自己意識)」におけるマイノリティ、さらにクィアやクエスチョニングはより幅広い性的マイノリティを指しており、「LGB」と「T」、「Q」に分かれていると言える。またLGBTQのほかにも、さまざまな性的マイノリティの人々がいる。
企業向けLGBTQ研修などを手掛ける株式会社JobRainbowの星賢人氏は「近年の調査結果から、日本には約1,100万人の性的マイノリティがいるとされています。割合で言うと11人に1人。これは、日本の6大苗字である佐藤、田中、高橋、鈴木、渡辺、伊藤を合わせた数とほぼ同じです」と説明する。「これらの名字のなじみ深さに比べると、『性的マイノリティはまったく身近ではない』『自分の周りにはいない』と考える人もいるでしょう。しかしそれは、存在しないのではなく、可視化されていないだけ。性的マイノリティであることを当事者が言い出しにくい現状の裏返しでもあります」(星氏)。身近なスタッフや来店客の中に当事者がいる可能性を認識する必要がある。
また、日本は欧米などに比べ、LGBTQに対する理解や支援が進んでいないのが実情だ。一方で、昨今の世界的なLGBTQムーブメントや、ダイバーシティ推進の流れを受けて、国内でも若い世代ほど、多様なセクシュアリティ(性のあり方)を個性として捉え、尊重する人が増えている。「世の中の価値観が大きく変わりつつある今、LGBTQへの理解を深め、対応に取り組むことは、お客様の支持を得るためにも、また多様な人材が活躍できる職場作りを進める上でも、極めて重要と言えます」と星氏は提言する。
【社会的マイノリティが安心して外食を楽しめる店づくりを】
少しの気遣いで、誰もが外食を楽しめる! 飲食店、これからの時代のバリアフリー
店舗責任者の理解の度合いにより大きく変わる、当事者の働きやすさ
悪意なく発せられる言葉がハラスメントになることも
日本でLGBTQへの理解が進んでいない要因の1つに、学校教育の中で「性の多様性」について学ぶ機会がほとんどないことが挙げられる。社会全体の理解度の低さから、LGBTQ当事者は、就職をはじめとするあらゆる場面で差別や偏見に直面しやすい。
中でも、働く場としての飲食店は、当事者へのハラスメントが起きやすい環境だと星氏は指摘。「飲食店は各店舗の責任者(店長)の裁量が大きいため、その立場にいる人にLGBTQへの理解がなければ、いくら企業として多様性の尊重を掲げていても、当事者にとって非常に働きにくい環境になります」(星氏)。実際、採用面接に来たLGBTQの求職者に対して、店長が無自覚で不適切な発言をしてしまい、当事者が『ここでは働けない』と諦めるケースもあるという。
就職後も、同僚との雑談の中で「彼氏/彼女はいるの?」「結婚の予定は?」といった話題に苦痛を感じる当事者は多い。さらに深刻なものとして、性的マイノリティであることを本人の許可なく他人に話す「アウティング」の被害にあい、退職を余儀なくされるケースも。こうしたさまざまな不安材料を抱え、多くのLGBTQ当事者が本来の能力を発揮できない状況に置かれているのが現状だ。
その一方で、星氏の会社が運営するLGBTQ向け就職支援サービスにおいて、飲食業界は就職先として人気が高い。この理由を星氏は「LGBTQ当事者はいじめや差別を受けた経験から、人に対して優しい性質を持つ人が多く、接客業を志望する動機につながっていると考えられます」と推察する。ただしここで注意したいのは、LGBTQ当事者であることと、どのような能力や特性も、直接的に結び付くものではないという点だ。例として「LGBTQの人はセンスが良い」などの肯定的な内容であっても、先入観を持って相手を判断することは適切ではないことを心にとめたい。
「人のために何かしたい」「ホスピタリティを発揮したい」という思いを持って飲食業界を志す人は、LGBTQの当事者・非当事者を問わず、飲食店にとって理想的な人材と言える。優秀な人材を迎え入れ活躍してもらうためにも、飲食店がLGBTQを含む多様性への理解を深める意義は大きい。
【ハラルなど、今知っておきたい“食の多様性”】
外国人客 受け入れキーワード10-“食の多様性”の理解とメニューづくり・提供ポイント
店側の接客と、来店客・スタッフ両方の当事者に関わるトイレの問題
困りごとへの対応の有無は、店選びの重要なポイント
次に、客側の視点から、飲食店で起きやすいLGBTQ対応の課題を見ていこう。星氏が最初に挙げるのがトイレの問題だ。「特に、『身体の性』と『心の性』が一致しないトランスジェンダーの人にとって、男女で区別されたトイレは使いづらく、これは来店客だけでなくスタッフとして働く当事者にも当てはまります。自身の性自認に合ったトイレを使えないことで排泄障害を起こす人も多く、トランスジェンダーの人々にとってトイレの使用は深刻な問題です」(星氏)。
また接客面では、記念日のお祝いで店を利用した当事者のカップルが、同性パートナーを友人として扱われ不快な思いをしたり、スタッフからあからさまに差別的な対応を受けるケースも少なくないという。
こうした困りごとが起こる店かは、実際に来店するまで分からない場合が多く、だからこそ、LGBTQ対応の姿勢を明確に示している飲食店は、当事者にとって安心感があり、店選びの重要なポイントとなる。
「現状はまだLGBTQ対応において課題が多い飲食業界ですが、見方を変えれば、ポテンシャルの高い業界でもあると言えます。ひとたび店舗責任者などのキーパーソンがLGBTQへの理解を深めれば、店全体への意識浸透は速く、顧客対応の面でも、スタッフの働きやすさの面でも、状況が劇的に変わる可能性は高いと感じています」と星氏は期待する。
現状の課題を踏まえて、次のページからは、解決のために具体的にどのような取り組みができるかを考えたい。
【飲食店が多様な人材の働ける場所になるために必要なこととは】
貴重な戦力の採用&育成事情 シニア&外国人スタッフ活躍中!
LGBTQ対応、何をどうすればよい? 「公平性」を念頭に、社内制度や接客の見直しを
アライステッカーを貼り、LGBTQへの理解を示す
実際に、飲食店がLGBTQ対応に取り組む上で、キーワードとなるのが「公平性(フェアネス)」だ。「LGBTQではない人々が当たり前に得ている権利や機会、制度の恩恵などを、LGBTQ当事者も全て受けられるようにする。それが基本的な考え方です」と星氏。特に、職場において公平性を実感できるかどうかは、働く人のモチベーションを大きく左右する。
公平性を念頭に置いた具体的な取り組みとしては、例えば、会社などで異性婚に適用されている「結婚休暇」や「結婚祝金」などの福利厚生制度を、同性カップルにも適用するなどの制度改定が考えられる。来店客への対応についても同様で、LGBTQか否かでサービスを変えるのではなく、「誰に対してもフェアな接客をする」という意識が大切だ。
これらの取り組みに加えて、ぜひ行いたいのが「当店はLGBTQを理解し支援します」という意思表示をすること。LGBTQの理解者や支援者は「アライ(Ally )」と呼ばれ、アライであることを表明するステッカーを店頭に貼るといった形で意思表示ができる。
「アライは資格ではありません。なりたいと思った瞬間からその人はアライであり、誰もが誰かのアライになれると私は考えています。『アライを表明したら、LGBTQについて間違った行動はできない』などと、必要以上に身構える必要もありません。そもそも人は、LGBTQの当事者も含めて、誰もが何らかの偏見を持つ生き物です。重要なのは、間違えないことではなく、間違ったときにそれに気づき、正していけるかどうか。常に学び続ける姿勢や、改善し続けるマインドが重要なのだと思います」と星氏は強調する。
そのほかに具体的な方法としては、以下の4点が挙げられる。ぜひ自店の対応を見直して改善につなげてほしい。
身近な存在である飲食店だからこそ果たせる支援の役割がある
LGBTQの当事者の中には、自身のセクシュアリティに悩んで孤独に陥ったり、周りに相談できずに心を病んだりする人が少なくありません。当事者である私自身も、中学時代にいじめを受けて長く不登校だった時期があります。当時はまだ、多様な性が世の中にあることを知る機会もなく、自分は不自然な存在なのだと、一人で抱え込んでいました。現在も、学校での教育が追いついていないことから、特に思春期の当事者が心の負担を感じやすい現状があります。
そうした当事者が、ふと訪れた飲食店でアライステッカーを見かけたり、多様な人が生き生きと働く姿に触れたりできたなら、きっと居心地の良さや安心感を覚えるでしょう。自分の存在が認められたように感じ、それだけで救われる人も多いはずです。その意味において、飲食店がLGBTQの理解や支援に取り組むことの社会的インパクトは計り知れないほど大きい。数多くのLGBTQ当事者の人生を変える可能性があるほどに、意義深いことだと私は捉えています。
LGBTQへの対応を進めることは、多様なスタッフが働きやすい職場環境の実現や、それに伴う生産性および定着率の向上などにもつながり得ます。加えて、イメージアップや顧客満足度向上による売上アップなど、経営面でもさまざまな波及効果が期待できます。そして何より、個々の店舗の理解や行動が、誰もが生きやすい社会をつくる一歩となります。ぜひ多くの飲食店の皆様と、未来をより良いものに変える取り組みを一緒に進めていければと願っています。
飲食店の開業をお考えの方は「ぐるなび」にご相談ください!
「ぐるなび通信」の記事を読んでいただき、ありがとうございます。
「ぐるなび」の掲載は無料で始められ、集客・リピート促進はもちろん、顧客管理、エリアの情報提供、仕入れについてなど、飲食店のあらゆる課題解決をサポートしています。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
▼詳細はこちらから
0円から始める集客アップ。ぐるなび掲載・ネット予約【ぐるなび掲載のご案内】