2021/06/29 特集

これからの時代に押さえておきたい!飲食店のLGBTQ対応 理解を深めて、“顧客満足度”や“働きやすさ”をアップ

日本の人口の約8%を占めるとも言われる「LGBTQ(性的マイノリティ)」。来店客やスタッフが、LGBTQの当事者である可能性は大いにある。そこで、LGBTQの基礎知識と飲食店での具体的な対応を紹介。

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お話を聞いたのは… 株式会社 JobRainbow 代表取締役 星 賢人氏
1993年生まれ。東京大学大学院情報学環教育部修了後、「全てのLGBTが自分らしく働ける社会の創造」を目指して起業。数々のビジネスコンテストで優勝し、2018年にフォーブスが選ぶアジアで最も影響力のある若者30人(Forbes 30 under 30)の社会起業家部門に日本から唯一選出。現在は35万人超のユーザーを抱えるLGBTの就職支援サービス「JobRainbow」を運営している。全国の大学や企業で講演を行うほか、日本経済新聞「NIKKEI STYLE U22」で連載中。板橋区男女参画審議会委員。公益財団法人孫正義育英財団1期生。国内・海外のメディア出演も多数。

「身近にも当事者がいる可能性」を認識しよう

性的マイノリティの割合は、11人に1人との調査結果も

 飲食店の「LGBTQ」対応を考えるに当たり、まずは基礎的な知識を知っておきたい。「LGBTQ」とは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィアまたはクエスチョニングという代表的な性的マイノリティの頭文字を組み合わせた呼び方(下図参照)。広く性的マイノリティ全体を指して使われる言葉だ。

 「LGBTQ」でひとくくりに捉えられがちだが、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルが「性的指向(好きになる性)」のマイノリティであるのに対し、トランスジェンダーは「性自認(性別に関する自己意識)」におけるマイノリティ、さらにクィアやクエスチョニングはより幅広い性的マイノリティを指しており、「LGB」と「T」、「Q」に分かれていると言える。またLGBTQのほかにも、さまざまな性的マイノリティの人々がいる。

性的マイノリティ全体を指すより幅広い表現として、近年は「LGBTQ」や「LGBTQ+」 という呼び方が使われるようになっている

 企業向けLGBTQ研修などを手掛ける株式会社JobRainbowの星賢人氏は「近年の調査結果から、日本には約1,100万人の性的マイノリティがいるとされています。割合で言うと11人に1人。これは、日本の6大苗字である佐藤、田中、高橋、鈴木、渡辺、伊藤を合わせた数とほぼ同じです」と説明する。「これらの名字のなじみ深さに比べると、『性的マイノリティはまったく身近ではない』『自分の周りにはいない』と考える人もいるでしょう。しかしそれは、存在しないのではなく、可視化されていないだけ。性的マイノリティであることを当事者が言い出しにくい現状の裏返しでもあります」(星氏)。身近なスタッフや来店客の中に当事者がいる可能性を認識する必要がある。

 また、日本は欧米などに比べ、LGBTQに対する理解や支援が進んでいないのが実情だ。一方で、昨今の世界的なLGBTQムーブメントや、ダイバーシティ推進の流れを受けて、国内でも若い世代ほど、多様なセクシュアリティ(性のあり方)を個性として捉え、尊重する人が増えている。「世の中の価値観が大きく変わりつつある今、LGBTQへの理解を深め、対応に取り組むことは、お客様の支持を得るためにも、また多様な人材が活躍できる職場作りを進める上でも、極めて重要と言えます」と星氏は提言する。

店舗責任者の理解の度合いにより大きく変わる、当事者の働きやすさ

悪意なく発せられる言葉がハラスメントになることも

 日本でLGBTQへの理解が進んでいない要因の1つに、学校教育の中で「性の多様性」について学ぶ機会がほとんどないことが挙げられる。社会全体の理解度の低さから、LGBTQ当事者は、就職をはじめとするあらゆる場面で差別や偏見に直面しやすい。

 中でも、働く場としての飲食店は、当事者へのハラスメントが起きやすい環境だと星氏は指摘。「飲食店は各店舗の責任者(店長)の裁量が大きいため、その立場にいる人にLGBTQへの理解がなければ、いくら企業として多様性の尊重を掲げていても、当事者にとって非常に働きにくい環境になります」(星氏)。実際、採用面接に来たLGBTQの求職者に対して、店長が無自覚で不適切な発言をしてしまい、当事者が『ここでは働けない』と諦めるケースもあるという。

 就職後も、同僚との雑談の中で「彼氏/彼女はいるの?」「結婚の予定は?」といった話題に苦痛を感じる当事者は多い。さらに深刻なものとして、性的マイノリティであることを本人の許可なく他人に話す「アウティング」の被害にあい、退職を余儀なくされるケースも。こうしたさまざまな不安材料を抱え、多くのLGBTQ当事者が本来の能力を発揮できない状況に置かれているのが現状だ。

"人は異性を好きになるもの"という固定観念に基づいた発言は、言う側に悪意や差別意識はなくとも当事者を深く傷つける恐れがある

 その一方で、星氏の会社が運営するLGBTQ向け就職支援サービスにおいて、飲食業界は就職先として人気が高い。この理由を星氏は「LGBTQ当事者はいじめや差別を受けた経験から、人に対して優しい性質を持つ人が多く、接客業を志望する動機につながっていると考えられます」と推察する。ただしここで注意したいのは、LGBTQ当事者であることと、どのような能力や特性も、直接的に結び付くものではないという点だ。例として「LGBTQの人はセンスが良い」などの肯定的な内容であっても、先入観を持って相手を判断することは適切ではないことを心にとめたい。

 「人のために何かしたい」「ホスピタリティを発揮したい」という思いを持って飲食業界を志す人は、LGBTQの当事者・非当事者を問わず、飲食店にとって理想的な人材と言える。優秀な人材を迎え入れ活躍してもらうためにも、飲食店がLGBTQを含む多様性への理解を深める意義は大きい。

過去のネガティブな体験から「人に優しくありたい」「ホスピタリティを発揮したい」という思いを強め、接客業を接客業を志す人は多い

店側の接客と、来店客・スタッフ両方の当事者に関わるトイレの問題

困りごとへの対応の有無は、店選びの重要なポイント

 次に、客側の視点から、飲食店で起きやすいLGBTQ対応の課題を見ていこう。星氏が最初に挙げるのがトイレの問題だ。「特に、『身体の性』と『心の性』が一致しないトランスジェンダーの人にとって、男女で区別されたトイレは使いづらく、これは来店客だけでなくスタッフとして働く当事者にも当てはまります。自身の性自認に合ったトイレを使えないことで排泄障害を起こす人も多く、トランスジェンダーの人々にとってトイレの使用は深刻な問題です」(星氏)。

 また接客面では、記念日のお祝いで店を利用した当事者のカップルが、同性パートナーを友人として扱われ不快な思いをしたり、スタッフからあからさまに差別的な対応を受けるケースも少なくないという。

 こうした困りごとが起こる店かは、実際に来店するまで分からない場合が多く、だからこそ、LGBTQ対応の姿勢を明確に示している飲食店は、当事者にとって安心感があり、店選びの重要なポイントとなる。

同性パートナーを「友人」と決めつけて扱われることで、当事者が気分を害したり、記念日に水を差されたと感じるケースも

 「現状はまだLGBTQ対応において課題が多い飲食業界ですが、見方を変えれば、ポテンシャルの高い業界でもあると言えます。ひとたび店舗責任者などのキーパーソンがLGBTQへの理解を深めれば、店全体への意識浸透は速く、顧客対応の面でも、スタッフの働きやすさの面でも、状況が劇的に変わる可能性は高いと感じています」と星氏は期待する。

 現状の課題を踏まえて、次のページからは、解決のために具体的にどのような取り組みができるかを考えたい。

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