2023/09/11 特別企画

起きてからでは遅い!?迷惑行為をどう防ぐか~弁護士水上卓の法律問題相談室~

日々、飲食店を運営する中で直面する法律問題を弁護士の水上卓氏が解説するシリーズ。今回のテーマは「迷惑行為」。来店客が備品をなめたり、アルバイト店員による“バイトテロ”などをどのように防ぐのかを聞く。

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顧客などによる迷惑行為

 最近、飲食店の顧客が席に設置された備品をなめるなどの迷惑行為を行うことが多発し、大きな問題となっている。

 記憶に新しいところで、数年前にもアルバイト店員によるいわゆるバイトテロと呼ばれる迷惑行為の問題が大きく取り上げられたが、この種の迷惑行為は近時になって突然起こり始めたものではなく、以前から存在していたもの。

 「特に最近になって大きく取り上げられるようになったのは、SNSの発達によって問題が露呈されやすくなったことがその背景にあると考えられます」と日本橋法律会計事務所 代表弁護士・水上卓氏は語る。

日本橋法律会計事務所 代表弁護士 水上卓(みずかみ すぐる) 氏
新潟県出身。仙台の法律事務所に勤務後、東京日本橋に事務所を開設。主な取扱業務は、企業側の労務問題等の企業法務、相続、不動産事件、一般民事・家事事件など。一般社団法人日本相続学会に所属し、山梨県など後援の記念事業連携の研究大会で講演を行うなど、講演・執筆にも注力。通知税理士としても登録。

迷惑行為の代償

 顧客などの迷惑行為によって飲食店が受ける損害としては、店の備品などの交換や清掃のコストの発生、風評被害による売上の減少や株価の下落などのさまざまなものがある。

 飲食店としては、そのような損害の発生に対して刑事と民事の両面にわたって対応を取ることが可能であり、迷惑行為をした顧客などはその両面の責任を負う。

 「具体的には、刑事上の責任として、迷惑行為の具体的な内容によって器物損壊罪、偽計ないし威力業務妨害罪などの罪が成立する可能性があります」(水上氏)。

 さらに、民事上の責任として、迷惑行為によって飲食店に損害が発生した場合には、民法上の不法行為に基づく損害賠償責任や迷惑行為の主体が従業員の場合には雇用契約上の債務不履行に基づく損害賠償責任などを負う可能性もある。

 ただし、民事上の損害賠償責任に関する注意点は、損害賠償が認められるのはあくまで迷惑行為との間に相当因果関係が認められる損害のみに限られること。そして、この相当因果関係の立証をする責任は基本的に損害賠償を請求する側、すなわち被害を受けた飲食店となるところ、当該迷惑行為の内容や損害の内容などによってはその立証が容易ではないことがある。

迷惑行為に対する事前の対応策

 上記の刑事ないし民事上の責任の追及は、基本的に迷惑行為が発生した後の事後の対応策だ。

 もっとも、迷惑行為が一度発生してしまえば、店の売上に大きく影響して店の存立自体が危ぶまれる状況となったり、さらにそれによって守るべき従業員の雇用が脅かされたりするなどの事態が生じる可能性があり、経営者からすると迷惑行為の発生は非常に大きなリスクとなる。

 そのため、迷惑行為が発生した場合の事後の対応策のみならず、その発生自体を予防する事前の対応策が重要となる。

 「具体的には、上記のようにSNSの発達が迷惑行為の露呈につながっているという現在の構造からすると、一度、迷惑行為が発生すると、それを模倣した迷惑行為が起こる可能性が高い状況にあると言えます。よって、他社で発生した迷惑行為の内容を分析し、自社で同種の迷惑行為が起こりうるか否かを検討した上で、その可能性がある場合には当該迷惑行為が物理的に出来ないような状況にするという方法が事前の対応策として有効です。現在、各社で導入されている、席に設置された備品等を撤去するなどの対応策がこれに該当します」と水上氏は指摘する。

 さらに、特に従業員による迷惑行為については、研修などによる教育の他、雇用の際に迷惑行為に関する誓約書等を別途作成させ、心理的に迷惑行為の発生を牽制・抑止をするという方法がある。

 「また、つい最近、飲食店が迷惑行為をした顧客に対して巨額の損害賠償を求める民事裁判を起こしたという報道がされています。上記のとおり法的に賠償させることができる損害の範囲には限定があるものの、このように迷惑行為を行った顧客に対して巨額の賠償を請求し、『迷惑行為は絶対に許さない』という毅然とした態度を示すことは迷惑行為に対する事後の対応策であると同時に、その後の類似の迷惑行為の発生を抑止する事前の対応策にもなります」(水上氏)。

まとめ

 上記の迷惑行為に対する事前の対応策は一例に過ぎないものの、いずれも新たな迷惑行為の発生を完全に無くすことは現実的には困難だ。

 しかし、そうだからといって対策を諦めてしまえば迷惑行為の問題が解決することはないため、継続的な対応が必要となる。

 また、現在は迷惑行為の問題がたびたび報道で取り上げられており、その問題に対する関心が高いところです。しかし、これまでも繰り返されてきたように、しばらく経ってその問題の目新しさが薄れてくればこれらに関する報道は無くなって関心が薄れるとともに、報道や裁判などによる抑止効果も薄れていき、一定期間後には再び同種もしくは新たな迷惑行為が頻発する事態となる可能性が。

 そのような繰り返しとならないためには、迷惑行為の問題を当事者である飲食店だけの問題とはせずに社会全体の問題として捉え、それに対して関心を持ち続け、上記のとおり「迷惑行為は絶対に許さない」というメッセージを社会全体で発し続けることが最も重要と言えるかもしれない。

※株式会社テンポスホールディングス刊「スマイラー」91号より転載

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