深く観察し、一歩早く動く接客がリピーターを増やす
まるでタイを旅しているような空間と、忠実に再現した本場の”タイ屋台料理”でもてなす「タイ屋台999(カオカオカオ)」。現在、東京9店舗、大阪に1店舗の計10店舗を展開している。2026年3月にオープンした中目黒店は、料理と接客をともにアップグレード。中国・潮州がルーツの「Thai Street Food」を世界基準に引き上げるべく定義を再構築し、新たなフェーズへと突入した。
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1階奥のテーブル席。1脚ずつ異なる椅子やタイ風のインテリアで、オシャレながらも身近さを感じる空間。通し営業で、曜日を問わず日中からにぎわう -
1階、テーブル席の手前にある畳敷の小上がり席。ちゃぶ台感覚で囲めて居心地がいい
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階段を上がり、2階正面の席は、ヒアさんの店の内装を完全再現。現地にいるような感覚に -
2階、反対側のテーブル席は華やかな空間。現地で手に入れた小物なども飾られている
2018年に入社し、8年目を迎えた野村 悠香里さんは、第19回「S1サーバーグランプリ」で審査員特別賞を受賞。明るい笑顔での対応と、お客様の状況を深く観察し一歩早く動くサービスでファンを増やし、リピート率を上げている。現在は「二子玉川ライズS.C店」を起点に「中目黒店」をはじめグループ全体のスタッフ育成も兼任している。多くの顧客を惹きつける、その接客ノウハウとは。野村さんに話を伺った。
タイ屋台 999(カオカオカオ)中目黒店
業態:タイ屋台居酒屋
席数:43席(1、2階・テーブル席、カウンター席)
客単価平均:ランチ2,000円、ディナー4,500円
客層:30~40代を中心に幅広い。目黒店は日本人中心だが、グループ全体では外国人(アジア圏)率が平均30~40%
アクセス:東急東横線中目黒駅東口より徒歩1分
営業時間:11:30~23:30
定休日 :無し(年末年始のみ定休日あり)
https://r.gnavi.co.jp/n7c1pc9b0000/
https://www.thailand999.com/
「タイ屋台999」が考える接客
1.会社の方針と、現場で実践している接客
2.目配り・気配り・心配りで、深く観察する
3.インバウンド・多様性への対応
4.お客様ごとに異なる、守るべき距離感
5.ブランドサービスで「選ばれる店」に
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1.会社の方針と、現場で実践している接客
――会社の接客に対する方針やマニュアルはありますか。
以前は会社としての接客マニュアル本がありましたが、今はあいさつや会計の仕方など、ごく基本的なことを最初に教える程度の簡単なものに変わっています。というのも、実際に接客をしながらスタッフそれぞれが学び、行動していく中で、「お客様に対して、自分という個人ができることは何か」を自発的に考えることが一番大事だ、という結論に行き着いたからです。
「999」では、ありのままに人を受け入れる「他者受容」をキーワードに掲げています。他者を受容するためには、まず自分自身を理解し、その上でお客様を深く観察しなければなりません。お客様が今、何を見て、何を思って何に触れているか――。代表(新井 勇佑 氏)からさまざまな接客パターンに対する課題が出て、何度もレポートを書いて提出するという教育を受けました。そこまでお客様の気持ちになって、ロジカルに、シミュレーションを繰り返すことで自ずと接客法も変化していったのです。
上手く言語化するのが難しいのですが、同じサービス(行動)をするにしても、自分の心持ちが変わることで、お客様への伝わり方は劇的に変わっていきます。私自身、そのシミュレーションレポートの反復を通して、身をもって実感しました。
2.自分という個人ができることは何かを、自発的に考える
3.シミュレーションレポートの反復を通して、身をもって実感する
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2.目配り・気配り・心配りで、深く観察する
――どのように気持ちが変化し、サービスに反映していったのでしょう。
S1サーバーグランプリへ挑戦する中で接客に対する思考が高まり、「お客様の深層心理(潜在的なニーズ)まで理解して行動することで、初めてお客様が心から安心して過ごせるのだ」という学びがありました。この気付きが、会社が掲げる「他者受容」の本質と深くリンクしていると感じたんです。こちらがお客様の気持ちに寄り添うと、お客様も私たちに共感してくださるようになります。
具体的な行動でいうと、おしぼりやメニュー表をお持ちする、取り皿を交換する、グラスが空きそうならドリンクのお代わりをお声がけする……といった行動自体は今も変わりません。ただ、今振り返ると、当時の私は「70〜80%」しか動けていませんでした。お客様の様子を観察しているつもりでも、それはただ単に「見ている」だけの状態で、次の行動へすぐには移せていなかったんです。
そこで、ただの「感じのいい店員」で終わるのではなく、「気付いた瞬間に、一歩早く動く店員」へと行動を変えました。すると、お客様の喜びが一段と深まり、お帰りの時に「おいしかったよ」「また来るね」と声をかけていただくことが、自然と増えていきました。
2.気付いた瞬間に、一歩早く動くよう、自分の行動を変える
3.気付いて動いてくれたことに、お客様は喜びと安堵を感じる
3.インバウンド・多様性への対応
――インバウンド(訪日外国人)のお客様への接客で、大切にしていることはありますか。
一番は、文化や宗教の違いを理解し、それらを受け入れることです。言葉の壁もありますので、普段以上にお客様の目線の先や手の動き、表情を注意深く観察すること、そして表情やリアクションをいつもより少しオーバーに表現することを意識しています。
何より、タイ料理に慣れているのか、初心者なのかを伝えるにも、日本語でのコミュニケーションが難しいお客様が、心配や不安な気持ちにならないようにすることが大切です。「私たちはあなたを歓迎しています」というメッセージを、笑顔やジェスチャーを交えて全身全霊で表現しています。
こうした接客を通じて、「ありのままのあなたを受け入れる、温かい場所がここにありますよ」という安心感を伝えたいんです。物事を受け入れて大丈夫だよと伝えるタイの「マイペンライ精神」と、相手に寄り添い、思いやる日本の「おもてなし文化」。私たち「999」はこの2つの文化を融合して表現できる強みを持っています。
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タイ料理好きにお勧めのメニュー「パクチーサラダ」(1,231円)。茎までおいしいパクチーを、にんじんや玉ねぎのすりおろし、柑橘果汁などを合わせた手作りのドレッシングで味わう爽やかな一品 -
タイ料理初心者へお勧めのメニュー「ガパオライス」(1,375円)。鶏ひき肉のタイバジル炒めと、ご飯、揚げ卵をしっかり混ぜてからいただく、タイ屋台の定番料理。辛さは調整可能
2.相手に寄り添い、思いやる日本の「おもてなし文化」
3.目線の先や表情を注意深く観察し行動する。歓迎の気持ちを表現する
4.お客様ごとに異なる、守るべき距離感
――お客様とのコミュニケーションが深まる一方で、トラブルに発展したような経験はありますか。
あります。積極的にお声がけをして親しくなった結果、お客様から(一歩踏み込んだ)好意を持たれてしまい、接客としての適切な距離感を保つ難しさを痛感したことがありました。
その経験があってからは、お客様をより深く観察し、親しみやすさの中にも「行き過ぎないライン」を意識するよう心がけています。また、自分一人で抱え込まず、他のスタッフとも状況を共有して連携することで、お店全体としてクリーンで和やかな雰囲気を保つ体制を作っています。
距離感を守ることは大切ですが、だからといって引いてしまうのではなく、リピート率を上げるためには「お客様との関わりを増やし、生のお声を吸い上げること」がやはり不可欠です。
「999」ではモバイルオーダーを採用していますが、システムに頼り切るのではなく、あえて私たちから積極的にオーダーを取りに行ったり、お顔を覚えてお声がけをしたりしています。適切な距離感を見極めながらも、できる限りお客様との接点を増やしていくことが、ファンを増やす鍵だと考えています。
2.自分一人で抱え込まず、他のスタッフとも状況を共有して連携する
3.適切な距離感を見極めつつ、できる限りお客様との接点を増やしていく
5.ブランドサービスで「選ばれる店」に
――飲食店のサービスのあり方について、どのように考えていますか。
「そこに店があるから来てくださる」という時代は終わり、今は「数ある中から、いかにお客様に選んでいただけるか」という段階にきています。そのためにはブランド独自の価値観やサービスを提供することが必要で、弊社ではこれを「ブランドサービス」と定義しています。
中でも「商品提供時」が一番重要と考えていて、あえてタイ語で対応することで、非日常やタイへ旅行した気分を味わいたいお客様との間に、自然なコミュニケーションを生み出しています。
単にブランドをお伝えするというサービスではなく、お客様と従業員で一緒に「タイ屋台999」という空間(ブランド)を作り上げていくことが、私たちの目指す姿です。ここで過ごした楽しい時間が深く印象に残ることで、次回の来店という行動につながっていくと考えています。
2.一番重要な「商品提供時」に、自然なコミュニケーションを生み出す
3.店で楽しい時間を過ごしていただくことで、リピートにつなげる
――最後に、野村さんの今後の目標を教えてください。
飲食店ではまだ、女性が出産を機に退職や転職を考えざるを得ないケースが多いのが現状です。実は私も同じように悩み、代表に相談したことがありました。その際、「野村は現場が合っているよ」と、子育てと両立できるよう勤務体制を柔軟に調整してくれました。
今はその限られた時間のなかで各店舗を回り、「ブランドサービス」の精神をスタッフやお客様へ広げていくことが、私の大きな目標です。お店や自分を覚えていただくことで、次の来店につながったり、新たなお客様を連れてきてくださったり。そしてスタッフとも輪が広がっていく瞬間は何よりも喜びです。
飲食のサービス業は女性の強みを活かせる仕事だと思っています。出産を経てからも、こうして大好きな現場で働けるんだということ。それを私自身が示すことで、これからキャリアを築く女性スタッフたちの一つのロールモデル(参考にしてもらえる存在)になれたらうれしいです。
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