牛乳への自信と誇りがチーズとなり新しい一皿へ

岩手で「ハヤチネウスユキチーズ」と「遠野アルプスチーズ」を製造する多田自然農場。東京・自由が丘のイタリアン「カスタネット」ではこのチーズを使ったメニューを複数提供して好評だ。

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乳製品製造担当
多田 慎太郎 氏スイスのチーズ工房でラクレット(セミハードタイプ)の製造を修業。帰国後、「遠野アルプスチーズ」を生み出し製品化。濃厚でコクのあるチーズ作りを目指す。
良質な牛乳の味わいを感じさせるハヤチネウスユキチーズの個性を活かすために、あえて少量のブルーチーズなどをブレンド。単調になりがちなソースにメリハリを効かせた。

良質な牛乳への自信と誇りがチーズとなり、新しい一皿へ

岩手県で2番目に高い山・早池峰山(はやちねさん)に生育する固有の高山植物、早池峰薄雪草(はやちねうすゆきそう)。その苞葉(ほうよう)に綿花が密生している姿が、毛足の長い白カビを使ったチーズにイメージが重なるとして名付けられたのが、カマンベールタイプの「ハヤチネウスユキチーズ」だ。製造を担当する荘司こずえ氏と、ラクレットタイプの「遠野アルプスチーズ」を担当する多田慎太郎氏は、ともにスイスなど海外のチーズ工房での修業を経験。荘司氏が帰国した2009年からチーズの試作がスタートした。

チーズは使用する牛乳はもちろん、乳酸菌やカビ、製造プロセスによって味や風味がまったく変わる繊細な食品。牛乳と乳酸菌の相性、遠野の気候風土も考えて試行錯誤を繰り返し、様々なタイプの試作品を経て、“ミルキーな味わい”の「ハヤチネウスユキチーズ」を2011年から、“コクがあり濃厚”な「遠野アルプスチーズ」を2014年から販売できるようになった。「『ハヤチネウスユキチーズ』の場合、出荷直後は若い味、冷蔵庫に1カ月置いた後は熟成された複雑な味に変化します。好みの味を楽しめるのも特徴の1つです」(荘司氏)。「『遠野アルプスチーズ』はラクレットのように溶かしてジャガイモと食べたり、フルーツに合わせるのもおすすめ」(多田氏)と両者はそれぞれのチーズの特長を話す。

また、2つの個性豊かなチーズの製造過程においては、牛乳を熱する温度や、撹拌(かくはん)したり、凝固した牛乳を切り分けるタイミングもまったく異なるという。「共通しているのは同じ牛乳を使うことくらい。チーズ作りには、“いい牛乳”が欠かせず、牛の飼育方法によっても牛乳の味や質は変わります。当農場では土作りから、水、餌、牛舎の形態まで、おいしい牛乳作りに非常に力を入れています」(多田氏)と、素材や環境には自信を持っている。

そんな遠野自然農場のチーズを、展示会で試食して魅力を感じた1人が、「カスタネット」の井上計二氏。5~6月の2カ月間実施する「岩手食材フェア」では、「多田自然農場チーズ入りオムレツ」などのメニューを提供し、常連客を中心に大好評を得ている。なかでも「ハヤチネウスユキチーズのフェットチーネ」は、フェアの一番人気メニュー。ハヤチネウスユキチーズをベースに3種類のチーズをブレンドし、トマトを使ってほのかな酸味を加え、味わいに深みを持たせた一品だ。

素材の質や、製法にこだわりと情熱を持つ生産者と、それらを感じ取る料理人の嗅覚、そして食材の味をより引き立てるための創意工夫が出合い、新しい一皿が誕生する。今後、新たな種類の製造も予定している多田自然農場のチーズは、これからもシェフたちの創造力を刺激していくに違いない。

生産者
多田自然農場
岩手県遠野市青笹町中沢14-31
http://www.tonotv.com/members/tadanojo/
約30年前から酪農を手がけ、ストレスフリーの環境で育てた乳牛から搾られる良質の牛乳が自慢。商品はヨーグルトなどの乳製品やソーセージといった畜産品へと広がり、2009年よりチーズ作りを開始。現在は生産が追いつかないほどの人気。
約8カ月熟成させる「遠野アルプスチーズ」(左)と、毛足の長い白カビを使う「ハヤチネウスユキチーズ」(右)。熟成により旨みが増す
工房でのワンシーン。「今後は販売するチーズの種類を増やしていきたい」と、新しい商品作りにも意欲的
熟成庫の中の「遠野アルプスチーズ」(左側)と「ハヤチネウスユキチーズ」(右下)。愛情を込めて手作りされる
「牛乳の味が命」というチーズ作り。自社で25頭の乳牛をていねいに飼育し、絞りたての新鮮な牛乳を使えるのが大きな強みだ
飲食店
カスタネット
東京都目黒区自由が丘2-9-23 ラポール自由が丘1F
http://r.gnavi.co.jp/a633100/
アパレルのほか、家具や生活雑貨などを扱う店が集中する一角ながら、緑に囲まれた広いテラス席、レトロな雰囲気のインテリアが印象に残る隠れ家的なカジュアルイタリアン。ランチ・カフェからディナーまで、様々な層の客を満足させる。
「ドライイチジクとチーズのオイル漬け」(990円)には、オリーブオイル漬けチーズの瓶詰「多田自然農場 チーズDEサラダ」を使用
店の前は自由が丘らしい小粋な路地。近所の常連客が、おすすめメニューに目を留める姿も
ディナー時に「岩手食材フェア」を実施。岩手の厳選食材を使用し、井上氏らしい味にメリハリを効かせたメニューを提供
代表取締役
井上 計二 氏雑誌編集者などを経て、37年前に「カスタネット」をオープン。「食材を活かすだけではなく、単調な味にならないよう、味にメリハリをつけています」。小さい頃から好きだった料理を現在も探求している。

ぐるなびPRO厳選食材マーケット

http://pro.gnavi.co.jp/market/

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