野菜の味を決めるのは品種、時期、鮮度
──まさに食材と料理のクオリティは、切っても切れない関係ですね。では、その食材のおいしさがどうやって決まるのか、少しさかのぼってみたいと思います。そもそも野菜の味の違いは、なぜ生まれるのでしょうか。
久松 僕は、野菜の味の違いは、「品種」「時期」「鮮度」でほぼ決まると考えているので、これを「野菜のおいしさの三要素」と呼んでいます。同じ野菜でも、品種が違えば味はまったく違う。また、品種に合った最適な時期に育てたかどうかも重要です。ネギの場合で言うと、短期間で育つ秋のネギは、1枚1枚の皮が厚く、水分を多く含むので、トロッとした食感になります。一方、長期間かけて育つ冬のネギは、皮が薄くて枚数が多い。こうした品種を冬に育てると、旨みが強くなります。
米澤 鮮度についてはどうですか?
久松 野菜は生き物で、収穫後も呼吸して生命活動を続けているので、時間が経つほど栄養成分が消費されて、味や香りが落ちます。畑からのリードタイムを短くするために、うちでは注文を受けてから収穫し、できるだけ素早く送るようにしています。また、流通時の温度差をなるべく小さくすることも大事です。
米澤 根菜を土付きで出荷されていますが、それも鮮度を保つ工夫の1つですよね。店で保管していても、土付きの野菜は鮮度が保たれやすいように思います。
久松 野菜の味をよりおいしくするために、味に及ぼす要素を、できるだけロジカルに分析して、工夫していくことはとても大切。僕らの頑張りどころです。ただ、畑ではどうしても気象条件などに左右されるので、生産段階では、今何が起きているのかを正確に把握することが、より重要です。野菜づくりは物づくりですが、結局、野菜にとってもっとも重要な光合成に、人間は直接は関与できないですからね。
米澤 “おいしさ”ということでいうと、僕はまず、「自分がおいしいと思うものを作る」ことを大切にしています。だから、しょっちゅう味見をします。仕込み中の料理やソース、もちろん届いた食材も。お客様にも、自分が食べておいしいものを出したい。正しい手順で作ることよりも、そちらのほうが重要です。
それから、舌で味わうのとは違う、別のおいしさもありますよね。同じキャベツのローストでも、何も伝えずに提供するのと、「僕が今日、畑に行って、農家さんから分けてもらったキャベツで作ったんです」ということを話して出すのとでは、後者のほうが圧倒的においしく感じていただけると思います。
久松 それはとても大事なポイントですよね。僕も同感で、目隠しをしてどちらがおいしいかを分析し尽くしても、それが正解ではないと思う。伝え方、見せ方も含めて、ある意味“幻想”が大事な要素でもあるでしょう。
米澤 もちろん、味覚で感じるおいしさが大前提にあります。ただ野菜に関していうと、舌で感じる味の個体差が、牛肉などに比べて小さいことはネックとしてある。野菜が日常的な食材であることも関係していると思います。だからこそ、僕は自分がおいしいと思う野菜を、生産者さんの想いも含めて料理として提供する。そこで感動を生むことが、自分の役目だと思っています。
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