「The Burn」米澤文雄氏 ×「久松農園」久松達央氏
異なる立場にありながら、テーブルの上の一皿、一杯でつながっている飲食店と生産者。普段は別々の場所で活躍する食のプロたちに、それぞれの仕事論、食材と料理にかける想いや、飲食店と生産者とのよい関係について語っていただく企画。
今回は、東京・青山のグリルレストラン「The Burn」シェフ・米澤文雄氏と、茨城・土浦の野菜生産者「久松農園」代表・久松達央氏。炭火で焼く熟成肉ステーキが売りの「The Burn」で、肉に並ぶ名物として人気を集める野菜料理には、久松農園のものが多く使われている。そのおいしさの源泉には、料理人と生産者の深い相互理解があった。
シェフたちとの出会いから、飲食店向けの販売にも注力
──昨年9月にオープンされた「The Burn」では、久松農園の野菜を使ったメニューを提供しているそうですね。お2人の出会いや、レストランで使うようになった経緯を教えていただけますか。
米澤 初めてお会いしたのは7年ほど前でしたね。僕がニューヨークの「Jean-Georges(ジャン・ジョルジュ)」で働いた後に帰国し、日本で出店準備をしていた際、料理人の友人が「おもしろい農家さんがいる」と、久松さんを紹介してくれたんです。それで連絡を取って、農園へ伺いました。夏だったので、畑でオクラやナス、トウモロコシを味見させてもらったのですが、その味の衝撃は今でもよく覚えています。本格的に使うようになったのは昨年「The Burn」を立ち上げてからですが、実は以前から自宅用として購入させてもらっていました。
久松 うちの農園は、もともと一般消費者向けに宅配で野菜を販売してきました。宅配のお客様の紹介で、例外的に飲食店へ送ることもありましたが、7~8年前まではほんのひと握りで、料理人という存在もあまり意識していなかったですね。それが、米澤さんをはじめ、シェフの方々とのつながりができるなかで変わってきて、ここ数年は、飲食店向けの生産・販売にも力を入れるようになりました。現在は、売上の約3分の1を飲食店向けが占めています。
──方向性が変わったきっかけは?
久松 自分の作りたい野菜のよさを、シェフと共有できたことが大きいですね。例えばケールやズッキーニなどは、今でこそポピュラーですが、10年前はあまりメジャーではありませんでした。僕自身が「おもしろい」「おいしい」と思った品種を育てても、認知度が低いために消費者に伝わらないこともあり、もどかしい部分もあった。でも、日本のみならず世界の食材を扱ってきたシェフには、そのよさが伝わるわけです。わかる人にはわかるんだと感じて、うれしかったですね。今では、飲食店向けに新たな品種にチャレンジしてみることもあります。
また、本物を知っているシェフに自分の野菜の良し悪しを評価してもらえることも、よりよいものを作りたいという原動力になっています。
──品質に関して、意見がフィードバックされることはありますか?
久松 いや、それはほぼないですね。米澤さんもほかのシェフも、面と向かって指摘をくださることはほとんどないので、こちらは注文履歴や顔色を伺いながら推し測るわけです。
米澤 今「The Burn」では久松農園の野菜を週に2回、8種類ほど仕入れているのですが、僕としては久松さんのイメージから大きく外れることはほぼないです。たまに、サイズが大きすぎて驚くことはありますけどね。でも、「大きくしたほうが味が出ておもしろいんじゃないか」とか、久松さんの考え方が出ているのだと理解しています。
僕の中で、久松さんは露地栽培(※)にこだわって、その季節においしく育つものを作るのが得意な印象です。
※ハウスなどの施設を使わず、屋外の畑で栽培する方法。
久松 農園のある土浦市は、冬の寒い時期には気温がマイナス5℃ほどまで下がるため、寒さに耐えられる野菜しか育てられません。逆に夏には、暑さに強い野菜しかできないため、その時期の環境に合う品種を選んで育てています。
ハウス栽培などに比べて、天候の影響をダイレクトに受ける露地栽培は、野菜の生育期間が長く、土地も多く必要なため管理コストも高くなりがちです。それでも僕が露地を選んだのは、太陽の光や風を十分に当てて光合成をさせながら、ゆっくりと生育させたいから。環境を最大限に活かし、時間をかけて育てたほうが、野菜の味が際立ってくると考えています。
米澤 野菜の種類の豊富さにも驚かされます。年間100種類も出荷されているんですよね。
久松 時期ごとに最適な品種を選び、少量ずつ植えているからです。例えば白菜は11~3月に出荷しますが、11~12月は小さめのフレッシュな品種、1月以降は寒さに強い品種に移り変わる。同じ野菜でも品種の違うものを、季節の移ろいに合わせてリレーしていくイメージで生育しています。