更新日:2024.3.18
「黒毛和牛とネギすき焼き」
博多小皿鉄板 べっぴんしゃん(東京・新宿御苑)
繁盛している店に共通するのは、唯一無二の看板メニューがあることだ。客を惹きつけるメニュー作りに、何かコツはあるのだろうか…。その一品を考察すれば、ヒントが見えてくるかもしれない。
2023年3月3日、新宿御苑にオープンしたばかりの「博多小皿鉄板 べっぴんしゃん」の看板メニュー「黒毛和牛とネギすき焼き」を、週末の酒場巡りが趣味というフードライター・桑原恵美子氏が紹介。「その店でしか食べられない一品がある店を好んで足を運ぶ」と語る“食べ歩きの食いしん坊”が、メニューから感じ取れる店の戦略を探る。
訪れた飲食店を紹介している個人ブログ:
https://ameblo.jp/amaguri0111/theme-10066247104.html
・高級鉄板焼き店のメニューを、小皿&アラカルトで提供
・食べる前からうれしさがノンストップ!「黒毛和牛とネギすき焼き」
・箸で突いても卵黄が破れない!驚きの濃厚さ「たむらのタマゴ」
・「ほんのひとくちだけ白飯が欲しい」欲を完璧にかなえてくれる仕掛け
・メニューを開発したのは、飲食店未経験の女将
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高級鉄板焼き店のメニューを、小皿&アラカルトで提供
昔からすき焼きが大好物で、時々たまらなく食べたくなる。だが値段を考えるとそう気軽には行けないし、すき焼きだけで満腹になるので、ほかの料理が食べられないのも寂しい。
いい肉で、ほんのちょっぴりすき焼きが食べられる店があったらいいのに…。と思っていたところに、SNSで見つけたのが「博多小皿鉄板 べっぴんしゃん」の「黒毛和牛とネギすき焼き」(1,078円)。
調べてみるとこの店は、コースでしか頼めないことが多い高級鉄板焼き店の料理を、小皿のアラカルトで提供するスタイルが売りらしい。千円ちょっとですき焼きが味わえるなら、ほかの料理も楽しめそう。SNSでの評価もかなり高いので、行ってみることにした。
訪れたのはまだ明るい時間なのに、早くもカウンター席は満杯。楽しく盛り上がっている気配があふれて、外にもこぼれ出している。テーブル席にも予約済みの札が立っている。オープンして3カ月と思えない繁盛ぶり。
食べる前からうれしさがノンストップ!「黒毛和牛とネギすき焼き」
カウンタ―の手前の席は、鉄板がよく見える特等席。「千円ちょっとだから、期待しすぎてはいけない」と言い聞かせるも、びっくりするほど大判の肉が焼かれて「もしや…」とそわそわする。
深めの小皿に盛り付けられて運ばれてきたのはまさに、「黒毛和牛とネギすき焼き」。千円という値段の予測をはるかに超えるいいお肉で、しかも小皿にしてはたっぷりあるのがうれしい。さらに焼き付けた牛肉とネギ、卵黄だけという、すき焼きの一番おいしい部分だけで構成した潔さがまたうれしい。奥に、寿司のシャリ大の白飯があるのも最高にうれしい。
食べる前からビジュアルだけでうれしさが押し寄せてくる。うれしい悲鳴とはこのことか。
箸で突いても卵黄が破れない!驚きの濃厚さ「たむらのタマゴ」
スタッフの説明によると、この卵は徳島県阿南市から取り寄せている「たむらのタマゴ(濃密)」で、1個80円もする特別な卵だという。
さっそく卵黄をからめようとして箸を入れるが…。なんと、卵黄が濃厚すぎて、箸で押しても破れない。こんな卵黄は初めてだ。
お肉との温度差を感じさせないために室温に置いてあるので、もし冷蔵庫から出したてならもっと弾力があるのだという。
濃密なので、肉によくからみ、ネギといっしょにからめたあとはほとんど小皿に残らない。
肉は徳島県産の黒毛和牛・阿波牛。やわらかいのにうま味もしっかりあり、肉の味を殺さない上品なたれといい、まさに、おいしいすき焼きの最初の一口を食べている幸福感が味わえる。
「ほんのひとくちだけ白飯が欲しい」欲を完璧にかなえてくれる仕掛け
「残ったたれはご飯にかけてお召し上がりください」(スタッフ)とのことで、もちろんそうさせてもらう。この握りずしのシャリ1個分くらいの分量がまたいい。一口だけ食べたいので、白飯は茶碗半分でも多い。白飯を残すのは心が痛むからこの絶妙な量に感動した。しかもこのスタイルなら、あの阿波牛のエキスとたれをまとった卵黄を、最後の一滴まで余さず食べられる。
卵も、お肉のエキスも、白飯も、どれも最後まで余さず、活かしきる。その姿勢に、店の食材へのリスペクトや愛情までも込みで味わい尽くした気持ちだ。一皿(しかも小皿)で、ここまで感動するとは。
メニューを開発したのは、飲食店未経験の女将
この店のオーナーで株式会社やる気カンパニーの代表取締役 山本高史氏は、1990年生まれの33歳。10年前、23歳で「山本のハンバーグ」を赤坂に立ち上げ、その後自社ブランド「天ぷら串 山本家」を新宿、恵比寿、八重洲で展開。「べっぴんしゃん」のすぐ近くに2021年9月、新業態の「博多おでんと自然薯よかよか堂」をオープンしているが、そこも繁盛させている。
この店のメニューのほとんどが「ここでしか食べられない一品」のオリジナルで、しかもどれも「そうそう、こういうのが食べたかった」と膝を打ちたくなるようなメニューばかりなのだが、驚いたのはそのメニューを考案し作っているのが、飲食業経験ゼロだった女将さん(山本社長の奥様)だということ。
女将によると、「毎晩のようにはしご酒をするほど飲食店が好きだった」そうで、どの店に行っても「こういうメニューがあればいいのに」と思うことが多かったそう。その思いを形にしたのが直近の新業態の2店舗。だがオープン前のメニュー試作の際、そのアイデアの斬新さにプロの料理人が難色を示したために、しかたなく女将自らが板場に立ち、腕をふるうことになったという。
「私の故郷の福岡の飲食店は、『お客が喜ぶならなんでもあり』が普通だったから」と女将はさらりと言うが、「いやいや、この人のセンスですよ」と山本社長。
自社ブランド店を多店舗展開しているのに、毎晩2人で店に立つのは、「こんな店があったらいいのに」と2人が思い描いてきた、夢の店だからだろう。
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東京都新宿区新宿1-31-16 ヤノビル1F
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