”脇役”のはずが、人気すぎて看板メニューに!「キャベ玉」まるよし@赤羽

東京・赤羽にある「まるよし」は、大勢のファンから愛され繁盛し続ける老舗の大衆酒場。メイン料理でもないのに初めて訪れる客はほぼ100%注文するという名物料理「キャベ玉」の、人気の理由を深掘りする。

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「キャベ玉」

まるよし(東京・赤羽)

 ”看板メニュー”と言えば、肉料理や魚料理などのメインディッシュであろうと思ってしまうが、サイドメニューなのに人気すぎて、店の看板になってしまった料理があるという。どこにでもありそうなシンプルな料理がここまで客から支持を得るというのは、一体どういうことなのか。

 東京・赤羽駅前にある老舗大衆酒場「まるよし」の看板メニュー「キャベ玉」を、週末の酒場巡りが趣味というフードライター・桑原恵美子氏が紹介。客に「この店だから食べたい」と思わせる名脇役メニュー「キャベ玉」の調理を、厨房で見せていただくことに。作り方とメニュー誕生の話から、店の戦略を探る。

桑原 恵美子
フードライター。十数年間にわたり、新聞社系の媒体で大手チェーン飲食店や、新オープンの商業施設の飲食店、食品メーカーを中心に取材。ぐるなび媒体「dressing」でも100軒以上の飲食店を取材。「ラクなのに美味しい 驚異の弱火調理法」(三空出版)など料理レシピ本の構成にも携わる。
訪れた飲食店を紹介している個人ブログ:
https://ameblo.jp/amaguri0111/theme-10066247104.html

創業70年!赤羽で2番目に古い大衆酒場
どこにでもありそうで無い、唯一無二のキャベ玉
「キャベ玉」の作り方を厨房で拝見!
キャベ玉は、フランス料理教室生まれ!
キャベツと卵とモツが、絶妙な”酒泥棒コンビ”

創業70年!赤羽で2番目に古い大衆酒場

店名の看板には「もつ焼きの店」「きゃべ玉」「煮込み」の文字

 JR赤羽駅・東口を出てすぐ、右前方に見えるのが、大衆酒場「まるよし」。創業は昭和28年で、2022年に70年周年を迎えた。赤羽では「まるます家」(昭和25年創業)に次ぐ老舗居酒屋だ。 

 時々食べたくなってたまらなくなる。どこにでもありそうな料理だけど、でも絶対にその店でなければならない…。筆者にとってそんな料理のひとつが、この店の「キャベ玉」だ。キャベツと卵を炒めて塩・コショウで味付けした料理、と言えば「家でだって作れるじゃないか」と言われそうだが、どうしても「まるよし」の「キャベ玉」でなければいけないし、そういう熱烈なファンが大勢いて繁盛している、不思議な店なのだ。

  • 現在の店内。一部昔の雰囲気を残して建て替えられた
  • 三代目ご主人 大場巳紀夫氏

 2017年に建て替えたばかりの店内は明るく清潔な雰囲気で、昔と比べて女性やファミリーも増えたという。15時のオープン直後からどんどん客が入り始め、コの字型のカウンター席からあっという間に埋まっていく。

 「建て替える前の店のほうが雰囲気はよかったんだけど、古くなって雨漏りがひどくなってしまって。梅雨時はお客さんが傘をさしながら飲むようになっちゃって…」と苦笑する、三代目のご主人の大場巳紀夫さん。

驚き価格(税込)のメニューがずらりと並ぶ

 壁に貼られた品書きの多さに驚くが、大場さんによると「これでも前よりはうんと減らしている。昔はカツ丼や親子丼も出していて、お酒も飲める食堂のようだった」そう。

 自慢のモツ焼きは1本100円から、おつまみは100円台からと、価格の安さに驚く。人気の「キャベ玉」は、レギュラーサイズが390円、ハーフサイズの(小)が250円と、これも激安。

どこにでもありそうで無い、唯一無二のキャベ玉

注文率が高く、店の名物となった「キャベ玉」。ハーフサイズの(小)が人気

 熱々のキャベ玉が湯気をあげながらテーブルに運ばれる。味付けは少量の塩・コショウだけのはずなのに、びっくりするほどの甘みとうま味、コクがある。キャベツから水分は出ておらず、みずみずしく歯ごたえが残っている。材料は「家でもできそう」でも、同じ仕上がりにはなかなかならない。

 ちなみに上の写真がハーフサイズの(小)だが、大皿にたっぷり。2人でつまむとちょうどいい量。単価は下がるが、作る手間はレギュラーサイズと変わらず、「むしろ少ないほうが火加減は難しい」(大場さん)とのことだが、一人で訪れる方のために、作るようになったそうだ。

「キャベ玉」の作り方を厨房で拝見!

 「普通のキャベツ炒めで、特別なコツなんて何もないですよ」という大場さんが厨房に案内してくれ、特別に作っているところを見せてくださった。

オーダーごとに調理をし、熱々を提供する

 フライパンを強火にかけ、少量のサラダ油でキャベツを炒めるところまでは普通だが、驚いたのはかなり多め(お鍋一回し半くらい)の日本酒を入れること。その瞬間に激しく湯気が立ち、キャベツの緑色が一気に冴える。濃厚な甘さとコクの秘密は、日本酒だった…!

 キャベツが炒め上がったら卵を割り入れ、最後に塩コショウを振る。卵の白身と黄身それぞれの風味を味わえるように焼き分けて仕上げる。

キャベ玉は、フランス料理教室生まれ!

 キャベ玉をメニューに加えたきっかけを尋ねると、出し始めたのは先代からで、先代の奥さんがフランス料理を習っていて、おぼえた料理を店で出していた時期があったそうだ。そして忙しい時も出しやすい簡単な料理として、アレンジを加えたキャベ玉が作られるようになった。「酒場には野菜たっぷりの料理が少ないから、お客さんの健康のためという意味もあったと思う。うちのモツ焼きとの相性もいいしね」(大場さん)。

ベテランの職人が、丁寧に焦げ目をカットしながら焼く

 そう、本来この店の一番の魅力は、「モツ」である。

 ガラスケースのモツを見ると、角がピン!と立っていて、ツヤツヤ輝いて、惚れ惚れするほどの新鮮さ。そのモツを、ベテランの職人さんが丁寧に焦げ目をカットしながら焼いてくれる。

左奥から、ハツ、タン、レバー 塩(各1本100円)

 臭みが一切なく、噛めば噛むほどうま味があふれてくる。値段は安いが、高級店にも負けないおいしさだと断言できる。

 タレも抜群に美味しいが、初めての人はまず、鮮度を実感できる塩で食べてほしい。その時、特製の味噌をつけてもらうとさらにお酒が進む。

キャベツと卵とモツが、絶妙な”酒泥棒コンビ”

モツを最上級に引き上げる、名脇役

 「仕事帰りにふらっと寄って、モツとキャベ玉を頼んで、小一時間くらいかけてサワーをゆっくり飲んで、それで千円ちょっとだったらうれしいじゃない。だからそういう値段にしているの」と大場さん。きりっとした芯があって、健やかで、温かい。そんなこの店の魅力をまさに体現しているのが、モツとキャベ玉のコンビなのだ。

 だからちょっと心が疲れたり弱ったりした時、「まるよしのキャベ玉」が、無性に恋しくなる。


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「まるよしサワー」(写真左、400円)はホップとレモンのすっきりした味わいがモツ焼きとの相性抜群。赤紫蘇を使った「赤羽モヒート」(写真右、430円)は美しいルビー色と甘酸っぱく爽やかな味わいで、女性受け間違いなし
とにかくモツの鮮度がいいので、全てのモツ料理が絶品。「ガツポン酢」(写真左、300円)は「清らか」と表現したいほどの臭みのなさと歯切れのよさ。名物の「煮込み」(写真右、390円)も、モツの鮮度に自信があるからできるあっさりした味付けで、さまざまな部位のモツの繊細な味わいの違いを堪能できる
まるよし(東京・赤羽)
東京都北区赤羽1-2-4
https://r.gnavi.co.jp/n51duxe80000/map/



JR赤羽駅・東口から徒歩1分、絶品モツ料理が楽しめる老舗の大衆酒場。人気店のため、オープン直後(平日15時、土曜日14時)から17時くらいまでに入るのが確実。赤羽初心者にもおすすめ。

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