”卵×八丁みそソース”で魅了しファンを増産!「どてオムライス」島正@名古屋

名古屋・中区栄にある「島正」は、昭和24年創業の「どて焼き(通称・みそおでん)」の老舗。地元客が太鼓判を押し”おなかいっぱいでも注文する〆”とうわさの「どてオムライス」に着目し、その人気の理由を深掘りします。

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「どてオムライス」

島正(しましょう)(愛知・名古屋中区栄)

名古屋を代表する料理といえば、みそ煮込みうどんやみそカツなど、八丁みそなくしては語れない。しかし、八丁みそ文化圏外の人からしたら“濃くてしょっぱい”イメージの方が先行しているかもしれません。ーーーその概念を根底から覆し、デミグラスソースの品格さえ感じさせる味わいが、八丁みそにあるといいます。

今回は、愛知民である酒呑みフードライター・露久保瑞恵さんが、名古屋・中区栄の名店「島正」の人気メニュー「どてオムライス」にフォーカス。八丁みそのポテンシャルを余すところなく生かし不動の人気を誇る〆料理から、八丁みそという調味料の魅力と、味のバリエーションとしての可能性を考えていきます。

露久保 瑞恵(つゆくぼ みえ)
フードライター・エディター。「食べて飲んで旅をして」をキャッチフレーズにし、愛知県を拠点に国内外を食べ歩き。料理専門誌、トラベル系ウェブサイト、ぐるなび媒体「dressing」などへ数々の原稿を寄稿。料理人として路傍の摘み草料理を手がけ、レシピも執筆中。
https://www.facebook.com/mie.tsuyukubo

戦後の屋台からスタートした「どて焼き」の名店
おなかいっぱいでもつい注文してしまう「どてオムライス」
「八丁みそ」が、ケチャップやデミグラスを超越…!
常連客の思いつきから誕生し、不動の人気メニューに
テイクアウトで、さらに「どてオムライス」ファンが拡大

戦後の屋台からスタートした「どて焼き」の名店

栄エリアといえば、名古屋きっての繁華街。各店があの手この手をひねり出してしのぎを削る中、「どて焼き」一本で昭和24年(1949年)から70年以上にわたり勝負し続けるのが「島正」です。

  • 屋台営業当時の島正
  • 当時は「きむらや」という屋号で、新国劇俳優・島田正吾氏が気に入り、サインしたのれんを寄贈したことから島正の愛称で親しまれるように

「島正」のルーツは戦後間もなくこのエリアに立ち並んだ屋台。屋台営業当時から名古屋人のソウルフードである「どて焼き」を看板メニューに冠し、人情味あふれる接客で人気を博していたといいます。栄から柳橋まで400軒近くは並んでいたという広小路通の屋台が最盛期を迎えたのは昭和35年(1960年)ごろ。昭和38年(1963年)屋台が全面廃止となったことを機に店舗を構えたそうです。

  • 現在もオープン前から客が並び始める人気ぶり。そのためベルトパーテーションが置かれている
  • 厨房を囲むV字型のカウンター

名古屋にはどて焼きの専門店が何軒かありますが、「島正」は当時から残った店の代表格。名店として名をはせ、常連はもちろん遠方からの旅人や外国人観光客まで、幅広く来店があります。

店の数メートル手前から八丁みその芳しい香りが鼻腔をくすぐり、のれんをくぐればどて焼きをクツクツと煮る鍋を囲むV字型のカウンター。「THE酒場」の趣が酒呑みの心を躍らせます。

おなかいっぱいでもつい注文してしまう「どてオムライス」

人気の〆料理「どてオムライス」(800円/税抜)

「どてオムライス」は、どて焼きと酒を思う存分楽しんだ客が、腹をさすりながら「じゃあ〆で」とオーダーする料理。焼き肉の後に冷麺、焼き鳥の後に鶏だしのラーメンをペロリと平らげることはあっても、「みそおでんの後の〆にオムライス?……」と疑念を抱く方も多いはず。その疑念、筆者が論理的に払拭させていただきましょう。

注文が入ってから一杯一杯仕上げる

その前に「どてオムライス」の全容から解説を。白いご飯にどて焼きの牛すじとこんにゃくを載せ、八丁みそベースの煮汁をとろりとかける。その上から一人前ずつフライパンで“ふわとろ”に焼き上げたオムレツを載せ、さらに煮汁をかけてできあがり。

“ふわとろ”のオムレツにどて焼きの煮汁が絡む。奥深い味わいで魅了しつつも、後味サッパリ

ボリューミーなビジュアルに尻込みするが、ひとたび頬張ってしまえばレンゲを置く間もなく食べ進んでしまいます。ご飯に染み込み、オムレツに絡む八丁みそベースの煮汁は驚くほどクリア。牛すじを丁寧に下ごしらえしてあるのはもちろんですが、八丁みそが牛すじ特有の香りや脂をスパッと“切る”。コクはありながらも、後味はいたってサッパリしているのです。

「八丁みそ」が、ケチャップやデミグラスを超越…!

加熱してこそ本領を発揮する八丁みそ。おでんの仕込み時、練り物などだしの出る具材は一切入れない

「みそ汁は煮えばながおいしい」と言われるように、みそは加熱し過ぎると香りが飛ぶというのが通説です。しかしそれは米麴みその話。大豆と塩のみを用い、2年以上にわたって発酵・熟成させた八丁みそは、しっかり加熱することでその本領を発揮。醸造期間中に生成されたうま味成分と酸味、メイラード反応(※)による独特の渋みと香ばしさが加熱することで丸みを帯び、シャープながら奥深い味わいとなります。黒褐色の見た目が高い塩分濃度を想起させるが、一般的な信州みそと同等か、むしろ下回るくらい。ケチャップやデミグラスソースは複数の野菜や肉のエキス、スパイスなどを使って仕込むことで味の深みが生まれるが、八丁みそは発酵と熟成中に酵母がやっておいてくれる、というワケです。

※メイラード反応/加熱や熟成などにより、糖やアミノ酸などの間で褐色物質の「メラノイジン」が生成され、食品が褐色化し、香ばしい風味になること。

牛すじの鍋。煮詰まってきたら大根やこんにゃく側の鍋から煮汁を足すが、牛すじの鍋から大根やこんにゃくの鍋へは煮汁を移さない

「島正」のどて焼きは、牛すじとそれ以外の具材を分けて煮込みます。八丁みそや砂糖、みりん、かつおだしで作った煮汁はいたってシンプル。煮汁は毎日取り替え、練り物などだしの出る具材も入れないため、どて焼きから感じる重厚感のあるうまみの正体は八丁みそそのもの。サッパリとした後味は、こうしたシンプルなレシピにも由来します。

常連客の思いつきから誕生し、不動の人気メニューに

四代目の店主・喜邑竜治氏

現在店を切り盛りするのは喜邑(きむら)竜治さん。「島正」の味とスピリットを受け継ぐ四代目です。この「どてオムライス」、店の歴史からすると比較的新しいメニュー。誕生のきっかけを喜邑さんにたずねたところ、「牛すじのどて焼きをご飯にかけたどてめしとオムレツがそれぞれあって、20年ほど前に常連さんから『どてめしにオムレツ載っけてよ』と言われて生まれたんですよ」とのこと。

洋のオムレツともマッチしてしまう八丁みその懐の深さ、屋台時代から受け継ぐ客との軽妙なやり取り、意見を即座に取り入れる柔軟さ、反応を見てレギュラーメニューにオンリストする商いのうまさなど、さまざまな要素が相まって不動の人気メニューに。

テイクアウトで、さらに「どてオムライス」ファンが拡大

お持ち帰りメニューは「味噌おでん」「串かつ」「どてオムライス」の3大名物

「コロナ禍にはお持ち帰りの要望に応じて『どてオムライス』も出しましたら、今までにないファン層がつきました」と喜邑さん。かつてはランチタイムで提供していたこともあったが、仕込みが追いつかず現在はランチ営業を中断している。しかし今後体制が整えば再開する可能性もあるそうです。

初代の味を受け継ぐだけでなく、ニーズを読んで変化し続けるフレキシブルさ。軒を連ねる屋台から頭角を表し、今もなお人気を博す店の魅力を、「どてオムライス」から再認識することができましたそして八丁みその高過ぎるポテンシャルを改めてお伝えできたことに、愛知県民として清々しさを覚えています。

デュワーズ・ホワイトラベルハイボール(500円・税込)。上等賀茂鶴(1合700円・税抜)を熱燗または冷で楽しめるほか、焼酎やレモンサワーなども取りそろえている
島正(愛知・名古屋)
愛知県名古屋市中区栄2-1-19
https://r.gnavi.co.jp/gwtw02we0000/map/


地下鉄東山線または鶴舞線の伏見駅・5番出口から徒歩3分。昭和24(1949)年創業の老舗どて焼き店。通称「みそおでん」の名店として、市内外から多くの客が訪れる。

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