「きんぴら」なのに…ワイン泥棒! 和食・高円寺「en」の味付けの秘密

多様性に富んだ大衆的カルチャーが魅力の「中央線文化」。中でも、レトロな古着屋や雑貨店が立ち並ぶ“サブカルチャーの聖地”として人気の高円寺に、2024年5月オープンしたのが、旬の和食と日本ワインの店「en(エン)」。おなじみメニュー「きんぴら」に爆発的なうま味を吹き込み、日本ワインに合わせていく”味付けの秘密”にフォーカスします。

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「いぶりがっことフキの五目きんぴら」

en(エン)(東京・高円寺)

「いぶりがっことフキの五目きんぴら」(630円)

ワイン好きでも、おいしい和食を味わっている時は、自然と日本酒を選びたくなってしまいますね。でも、高円寺に「和食なのに、食べているとなぜかたまらなくワインが欲しくなる!」と評判のお店があるといいます。 

今回は週末の酒場巡りが趣味というフードライター・桑原 恵美子さんが、「en(エン)」の「いぶりがっことフキの五目きんぴら」を紹介。ワインよりもご飯に合いそうなイメージの料理に隠された、ワイン泥棒な味付けの秘密を探ります。

桑原 恵美子
フードライター。十数年間にわたり、新聞社系の媒体で大手チェーン飲食店や新オープンの商業施設の飲食店、食品メーカーを中心に取材。ぐるなび媒体「dressing」でも100軒以上の飲食店を取材。「ラクなのに美味しい 驚異の弱火調理法」(三空出版)など料理レシピ本の構成にも携わる。
訪れた飲食店を紹介している個人ブログ:
https://ameblo.jp/amaguri0111/theme-10066247104.html

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目次
古着街に出現した、カフェのような和食店
ワインが欲しくなる、不思議な「きんぴら」
シンプルな料理に、印象に残るアクセントを添えたい
おすすめの日本ワインを“高円寺価格”で提供

古着街に出現した、カフェのような和食店

「en」があるのは、JR高円寺駅と丸ノ内線新高円寺駅をつなぐ「新高円寺通り」のちょうど真ん中あたり。古着屋さんが軒を連ねる通りを散策した先にあり、夜は人通りも少なくなる静かな場所です。

建物はレトロな赤レンガ造りで、大きなパラソルのような白い日除けと白いのれんが目印。目立つ看板は無く、ロウソク風ライトのガラスにさりげなく店名が書かれている
  • 和食店なのにカフェのようにくつろげる雰囲気
  • 直線ではなくゆるいカーブをつけたカウンター席。一人客同士が自然に視線が合って話が弾むという

白を基調としたシンプルな空間に味わいのあるヴィンテージ家具を置いた店内は、まるでカフェのよう。それでいて和食店らしい静けさと落ち着きがあります。7:3の割合で女性が多く、女性の一人客も多いそうですが、それも納得の雰囲気です。

  • 2卓あるテーブルに置かれた椅子は一つ一つ違うデザイン
  • ご主人を呼びたい時にはテーブルの上のクラシカルなベルを鳴らすシステム
フードメニュー。席数に対しご主人1人で対応できる品数に厳選。旬の食材で内容を変えていく

ご主人のワンオペレーションなので、メニューは「前菜・煮物・蒸物・揚物・焼物・飯物・甘味」を全部合わせても18種類と、少数精鋭。目をつぶってどれを頼んでも間違いない逸品ぞろいですが、中でもこの店を訪れたらぜひ召し上がっていただきたいのが、「いぶりがっことフキの五目きんぴら」なのです。

ワインが欲しくなる、不思議な「きんぴら」

最初に訪れた時、品書きの中からこの料理を選んだのは、「いぶりがっこをきんぴらに入れるって面白いな」と思ったからです。筆者は秋田出身なので、いぶりがっこは小さな頃から身近な食材でしたが、正直、それほどおいしいと思ったことはありませんでした。ところが…。

「いぶりがっことフキの五目きんぴら」₍630円)。辛さは天盛りの糸唐辛子で調節できる

食べた瞬間、それまで味わったことがない、いぶりがっこの爆発的なうま味に驚かされました。そこにフキのほろ苦さとほのかな甘さが加わり、レンコン、ニンジン、シイタケ、すべての野菜の個性が上手く嚙み合って、でも最後に口の中に余韻として残るのは、いぶりがっこのスモーキーなうま味。

料理は和食なのに、ワインが欲しくなる味

普通なら「きんぴら」といえば、お供に日本酒か白いご飯が欲しくなりそうなのに、この料理はなぜか無性にワインが欲しくなります。いぶりがっこの燻製香が、樽で熟成させるワインに潜む風味と響き合うのかもしれません。ちなみにご主人のお母様の得意料理がきんぴらで、自身も好物だったことから、この料理を発想されたそうです。

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シンプルな料理に、印象に残るアクセントを添えたい

ご主人の齊藤 剣さん

ご主人の齊藤 剣さんは、元・美容師という異色の経歴。手荒れが原因でやめてワインビストロ「高円寺アッカ」(高円寺)を手伝うことになり、そこで料理とワインの面白さに目覚めました。8年間在籍して料理から接客まで研鑽を積み、ソムリエの資格も取得。敬愛するオーナー・林 憲二さんのもとでずっと働き続けるつもりでしたが、コロナ禍で仕事観を見つめ直す時間ができたことで、独立を考えるようになりました。

やるなら、自身も好きな和食の店を開きたいと、「Lanterne(ランタン)」(代々木上原)、「たべごと屋 のらぼう」(西荻窪)で修業を積みました。そして、2024年5月に「旬の和食と日本のナチュラルワイン」をコンセプトに、「en」をオープン。「日本ワインは湿度が多い土壌に育つブドウから造られるので、みずみずしい果実感があり、アルコール度数も低め。軽く繊細ですので、やさしい味わいの和食にもぴったり寄り添ってくれるんです。そんな日本ワインの魅力を多くの人に知ってもらいたいし、日本のワイン農家を応援したい」と語る齊藤さん。

お料理で心がけているのは、旬の素材を活かして余計な手をかけずシンプルに仕上げ、でもその中に印象に残るアクセントを付けるということ。そのために、一皿の料理に2種類のうま味を組み合わせるようにしているそうです。

「旬の味覚サラダ」(980円)。冬はリンゴ、カボチャ、サツマイモ、レンコンなど

一推しの「きんぴら」以外にぜひ味わってほしいのが、「旬の味覚サラダ」です。イタリア料理のサラダに使用するハニーマスタードドレッシングを和風にアレンジし、和がらしに少し甘みを効かせています。マスタードにはない、和がらしならではの香りと刺激が、食欲をかきたててくれます。

そして、看板のメイン料理「上州麦豚の角煮」やご飯物の「土鍋ご飯」、デザートの「enのプリン」と、どれも”穏やかな日本ワイン”に合うシンプルな味わいが続きます。

前橋出身の齊藤さんが、群馬県食肉卸市場から新鮮な上州麦豚を直接取り寄せて作っている「上州麦豚の角煮」(1,200円)は、濃いめの赤ワインに合う甘さを活かした味付け
  • お店の一番人気は、「土鍋ご飯」。1合炊きの小ぶりの土鍋で、その時季においしい食材を炊き込む
  • 寒い季節のおすすめは「牡蠣と芹の土鍋ご飯」(1,600円)
「enのプリン」(650円)は、固めに仕上げた濃厚な味わいで、しっかりと焦がして苦みを効かせたカラメルからはほのかに国産ブランデーが香る

おすすめの日本ワインを“高円寺価格”で提供

ドリンクの中心は「日本のナチュラルワイン」で、常時8種類をそろえています。作付面積に限りがある日本ワインはまだまだ生産本数が少ない状況なのですが、それでも「日本のナチュラルワインの魅力をもっと多く人に知ってほしい」と、一律990円でグラスワインを提供しています。

日本全国のナチュラルワインを常時8種類ほどラインナップ。グラス(60ml〜100ml)が一律990円

食べ慣れたメニューのはずなのに、この店でいただく和食すべてに、新鮮な発見があります。「旬の味覚サラダ」では「和辛子って、こんなに香るんだ」と驚かされました。冬の一時期にだけ登場した「柚子と葱のかき揚げ」にも、「柚子を揚げるとこんなに香りが爆発するのか」と驚かされました。そんなお料理を日本ワインといっしょに味わうと、お互いがすっと寄り添って、全ての味が美しく調和して響きあうような感動を覚えます。

全てが、一度食べたら忘れられない味。訪れるたび、こんな奇跡のような店を発見できた幸運に乾杯したくなります。

可愛らしいエチケットが貼られた日本のナチュラルワイン。透明のボトルから淡く澄んだ色合いのワインが見える
店内外のデザインから、優しさが伝わる
【店舗Data】
en(エン)
業態: 和食と日本ワインの店
席数: 12席(テーブル6席、カウンター6席)
客単価平均:5,000円前後
客層:20~40代 7:3で女性が多い
住  所:東京都杉並区高円寺南3-23-18 1F
アクセス:丸ノ内線新高円寺駅から徒歩6分、JR高円寺駅南口から徒歩8分
営業時間:17:00〜24:00(L.O23:30)、定休 水曜日
https://r.gnavi.co.jp/2tbb2muk0000/map/
https://www.instagram.com/en_koenji/

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