インドネシア発 地元を支援するレストランがブーム 後編

インドネシアのバリ島では「地産地消」のレストランが人気。その流れはスナックやスイーツにも波及。後編では農園の管理から、工場での生産、販売戦略を一貫して行う2つのブランドを紹介する。

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Vol.88

インドネシアのバリ島では、クオリティの高い料理とスタイリッシュな内装で、訪れるゲストたちを喜ばせている「地産地消」のレストランが注目を浴びている。食べることを通じて地元の生産者を支援しようという動きが活発になり、それはレストラン運営だけに留まらず、村人たちと一丸となった農産物の生産、商品開発にまで及んでいる。後編では、スナックやスイーツの販売で地元を支援しているバリ島生まれの2つのブランドを紹介。どちらも農園の管理から、工場での生産、パッケージデザイン、ブランド戦略など、すべての工程に関わり、斬新かつおしゃれなアプローチが特徴で、一度食べたらやみつきになるおいしさでファンを増やしている。

バリ島ウブドのサンゲ地区では荒れたカカオの木々を再生して、チョコレートを製造する工場を建設。地元のスタッフはショコラティエとして活躍する
チョコレート工場は見学ができ、観光客も多く訪れる。できたてのチョコレートが食べられるカフェと、チョコレート作りが体験できるコーナーも併設
バリ島東部山岳部バン村では、カシューナッツ農園と工場が建設され、たくさんの雇用を生み出した。2014年はここで450トンのカシューナッツを生産

カカオの木々を再生し、高品質なカカオ豆とチョコレートを販売

インドネシアは、カカオ豆の産地であるが、このことはあまり知られていない。なぜなら、バリ島のカカオ豆は、コーヒー、クローブなど他の農産物に比べると、質が高くなく、安価でしか販売できなかったからだ。そのため、カカオ豆農家が激減し、もともとあった農地は荒れ果て、さらに品質が下がる一方。そんな状況を見て、オーストラリア人のトビアス・ガリット氏が立ち上がった。

「ポッド・チョコレート」の商品。(左から)ホワイトチョコレート、ミルク・チョコレート、ダーク・チョコレート、エキストラ・ダーク・チョコレート。1枚/45,000ルピア(約450円)

そのきっかけになったのは、トビアス氏がカカオの木に囲まれた美しい村で、地主の家に育ったバリ人の女性と結婚したことだった。すばらしいカカオの木があるのに、放置されている現状を知り、バリ産のカカオ豆のことを多くの人たちに知ってほしいという信念のもと、2004年頃からカカオ豆のリサーチをはじめ、地元の農家たちを支援。農園の管理を一緒に行うことで、カカオ豆を国際的にも通用する品質に上げるとともに、流通業者とも交渉し、販売価格の底上げに成功した。

そして、トビアス氏は2013年1月に「ポッド・チョコレート・ファクトリー&カフェ」をオープン。ここでは、バリ産のカカオ豆を使ったチョコレートを製造しており、工場は観光スポットとして一般にも開放している。できたてのチョコレートがその場で食べられるほか、チョコレート作りの体験もできる工場見学ツアーも行っている。これも、多くの人たちにバリ産のチョコレートの魅力を知ってもらうための戦略の1つなのだ。

最近では、空港のお土産売場でも「ポッド・チョコレート」を陳列。おしゃれなパッケージデザインや、バリの南国のイメージとは一線を画したモダンなプロモーション映像を使ったPR活動が多くの人々の目に留まり、バリ産の革新的なチョコレートとして口コミでどんどん広がっている。そして、「ポッド・チョコレート」は地元の名産品の価値観を大きく変えて、人々を驚かせている。さらに、売上の一部は、インドネシアのジャワ島にある孤児院に寄付されている。

2014年9月には、南部観光エリアにあるオフィスの1階にショップ&ラウンジをオープン。製造する全商品が購入でき、ユニークなチョコレートフードを食べることもできる。客層は観光で訪れた欧米人から地元の人まで幅広い。特に、日中は子供連れのママたちで大賑わいだ。

ラウンジでは、チョコレートを使った料理も提供。写真は、エキストラ・ダーク・チョコレートをパスタソースに使った「スパゲッティ・マリナーラ・チョコレート」(35,000ルピア=約350円)
販売する商品やラウンジで提供するユニークな料理はCEOのトビアス・ガリット氏(右)と、パティシエのジョコ・プルノモ氏が相談しながら考案している
SHOP DATA
ポッド・チョコレート・ショップ&ラウンジ(Pod Chocolate Shop & Lounge)
Jl.Sunset Road 89 Kav.3, Kuta, 80361
Bali, Indonesia
ポッド・チョコレート・ファクトリー&カフェ(Pod Chocolate Factory & Café)
Jl.Tukad Ayung, Desa Carangsari,
Bali, Indonesia
http://podchocolate.com

カシューナッツ工場が村人の暮らしを変え、地場産業を活性化

バリ空港から車で約3時間、標高3,031mのバリ島最高峰アグン山の麓にある、小さなカランガッサム県バン村。ここには、バリ随一のカシューナッツ農園が一面に広がっている。 2011年、医療ボランティアでこの村に訪れたアメリカ人のアーロン・フィシュマン氏と、同じく看護師として参加していた妻のリンジー・ホワイト氏は当時、約3カ月間村に滞在していた。そのときにカシューナッツが採れることを知り、これを名産品として育て、その収益で村人たちの生活も助けられないかと考え始めたという。

「イースト・バリ・カシュー」の「ガーリック・ペッパー」。大小2つのサイズをラインナップ(70g入/29,900ルピア =約299円、250g入/79,900ルピア =約799円)

そこで彼らの会社、イースト・インド・フェアー・トレーディング(PT. East Indo Fair Trading)社は、2012年7月にカシューナッツの加工工場を建設し、村人300人以上を雇用。カシューナッツは地元農家と提携して直接仕入れ、加工を同工場で行う。一次産業以外に仕事がほとんどなかったバン村の人たちにとって、大きな収入源となるプロジェクトとなった。賃金は出来高制で払われるため、スタッフのモチベーションは高い。

また、工場で働く女性たちの9割は元専業主婦で、ここで「働いて稼ぐ」という喜びを初めて知ったという。さらに、アーロン氏とリンジー氏は働く母親たちを支援するために、工場内に子供たちを預けられる託児所も開園。安全な遊具がそろった遊び場や、英語の勉強、本の読み聞かせ、お絵かきなど、新しいプログラムを取り入れ、子供たちの教育もサポートしている。

同工場で生産される商品は、「イースト・バリ・カシュー」(East Bali Cashews)と名付けられ、フレーバーの豊富さが魅力の1つだ。地元の海から採れた塩を使った「シーソルト」、こんがり焼き上げた「ローステッド」、生カシューの味わいが楽しめる「ロウ」、ナッツの生皮をつけたままローストしパリッとした歯ごたえのある「ネイティブ」、チョコレートパウダーをまぶした「チョコレート」、ゴマと生姜の「セサミ・ジンジャー」、唐辛子のピリッとした辛さがクセになる「チリ・クランチ」、ニンニクと胡椒の「ガーリック・ペッパー」の8つがラインナップされている。化学調味料は一切使われていない。このほかにも、グラノーラなどの商品も生産されている。

直営店舗を持っていないため、商品は空港内のショップ、町中の大手スーパーマーケット、コンビニエンスストア、カフェなど、多くの店舗に並んでいる。また、品質管理を明確に行っているため、質が向上し、売値のアップにも成功。約2年間で売上を約4倍に伸ばしている。村人たちの幸せな暮らしを支援する経営方針が、地場産業に活力を取り戻し、成果へとつながっている。

カシューナッツの木。赤い実の先にぶら下がっているのがカシューナッツ。工場では仲介業者を通さず、生産農家と直接取引している
村で生活をしながら、村人たちと一緒にカシューナッツの生産、製造に取り組んでいる創業者のアーロン氏(中央)
SHOP DATA
イースト・バリ・カシュー(East Bali Cashews)
Jl.Padang Galak No.20A, Kesiman Petilan,
Denpasar Timur 80237,
Bali, Indonesia
http://www.eastbalicashews.com/

取材・文/山田陽子

※通貨レート 1インドネシアルピア=約0.01円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。