ペルー発 個性が光るクラフトビール 前編

近年ペルーはグルメブーム。それはビールにも広がり、フレッシュで個性的なビールを求める人が増えている。前編では、クラフトビール工場直営のレストランにスポットを当て人気の理由を探る。

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Vol.91

かつてペルーには、地方都市で育まれた地ビールがいくつもあった。しかし企業買収が繰り返された結果、ペルー国内のビール市場は、2000年ごろには大手飲料メーカーのほぼ独占状態に。そんな折、スペインで行われる世界最高峰の食の祭典「マドリッド・フュージョン」に、2004年から毎年ペルー人シェフが参加したことをきっかけに、ペルー国内にグルメブームが沸き起こった。彼らの食へのこだわりはビールににも広がり、巨大工場で作られる画一的な味ではなく、作り手の意思が感じられる、フレッシュで個性的なビールを求める人が増えてきた。前編では、できたてをその場で味わえると評判のクラフトビール工場直営のレストランにスポットを当て、その人気の理由を探る。

ペルーでは、以前はビールの泡を立てないように注ぐのが主流だったが、クラフトビールが人気になるにつれ、その滑らかな泡を楽しむ人も増えてきた
Photo by Mi Cebi & Chela
貯蔵タンクを複数備え、様々なクラフトビールを製造する工場も登場。発酵期間も種類によって様々で、味わいにも個性が出る
スタイリッシュな空間でクラフトビールを楽しめるのも、人気の理由の1つ。SNSでもビールの種類や店内の様子を発信してアピールする

11種類のクラフトビールと、フルーツビールでヒット

2003年3月、ペルーの首都リマの閑静な住宅街サン・ボルハ区にオープンしたブルーパブ(自社で醸造したビールを、その場で提供するビアバー)の「ミ・セビ・チェラ」(Mi Cebi & Chela)は、ペルーのクラフトビールの草分け的存在だ。海外でクラフトビールの製造方法を学んだオーナーのエドゥアルド・デ・トマス氏は、自身の名を冠したクラフトビール・ブランド「デ・トマス」(De Tomas)を設立。その自慢のビールとシーフードを一緒に楽しんでもらおうと、オープンさせたのが同店である。

「ミ・セビ・チェラ」のビールとフルーツビール。左からミント、パイナップル、マラクヤ、イチゴ、レモン、バルティック・ポーター、プレミウム、ネグラ、ロブスト・ポーター、ドゥンケル、ピルスナー。いずれも1杯4オンス(=約110ml、4ソレス=約160円)
Photo by Mi Cebi & Chela

ビールの材料となるモルトはドイツとチリ、ホップや酵母はドイツとチリのほか、北米やアルゼンチンからも輸入している。水は検査機関のもとで成分分析を行い、余分な石灰や不純物を除去するなど、徹底した品質管理を行っているという。これらの材料を使い、常時11種類、期間限定ビールを加えると、最大15種類のクラフトビールを製造している。アルコール度数はいずれも8%と、ビールとしては比較的高め。総製造量は1カ月約5,000リットルだ。

同店の特徴は、ピルスナーやペール、ポーター、ドゥンケル、ネグラ(黒ビール)など、様々な種類をそろえるほか(ビールは醸造方法によって様々な種類に分類される)、フルーツビール(醸造途中で果汁や濃縮エキスを加えたもの)も多種類楽しめること。フルーツビールで一番人気の「パイナップル」は、甘みと酸味のバランスがよくまろやか。ビールの苦みはほとんど感じられず、食前酒にちょうどよい。また、鮮やかなグリーンが印象的な「ミント」は、ビールというよりまるでミントジュースのようなクリアな爽快感が特徴。ビールを飲み慣れていない若者に特に受けているという。意外な味わいなのが「マラクヤ」(パッションフルーツの一種)。甘酸っぱいはずのマラクヤが、クラフトビールになると苦みが強調され、思いのほかしっかりとした味わいになる。

オーナーの娘であり、ビアテイスターの資格も持つシルビア氏は、「自社のクラフトビールをボトル詰めにして、将来的にはもっと市場に打って出たい」と意欲的。さらに、「母の日にはバラの花を使ったビールや、クリスマスにはブドウ(ペルーでは12月25日午前0時にブドウを食べる習慣がある)を使ったビールも作りたい。クラフトビールには無限の可能性があるんです」と笑顔で答えてくれた。

パイナップルならではの甘酸っぱい香りが特徴のフルーツビール「パイナップル」(16オンス=約450ml、14ソレス=約550円)。柔らかな口当たりと舌に残る優しい甘さが、女性に人気だ。
Photo by Mi Cebi & Chela
新鮮な魚介類をカリッと揚げた「ハレア・ミクスタ」(写真/33ソレス=約1,290 円)や白身魚のレモンマリネ「セビーチェ・デ・ペスカード」など、料理も充実
Photo by Mi Cebi & Chela
同店の名付け親でもある、シルビア氏。新商品のアイデアや今後の販売戦略を手がける
SHOP DATA
ミ・セビ・チェラ(Mi Cebi & Chela)デ・トマス(De Tomas)
Av. Rosa toro 1151 San Borja - Lima
https://www.facebook.com/MICEBICHELA

樽出しの鮮度を武器に、地元客だけでなく観光客も魅了

若者たちが集う情報発信地として有名なリマのバランコ区は、おしゃれなレストランやバーも多く、夜遅くまで若者たちや欧米からの観光客で賑わっている。

5種類の定番ビールと期間限定の「ペールX」の飲み比べができる(1杯70ml、2ソレス=約80円)。メニューに書かれたコメントを参考に、自分好みのビールを選ぶ

そんなバランコ区に店を構えるのが「バランコ・ビア・カンパニー」(Barranco Beer Company)だ。オープンは2013年10月。店内にドイツの古いビール工場で使われていたビール樽や機械の一部をインテリアとして飾り、味はもちろん、クラフトビールの世界を視覚的にも楽しめるよう工夫している。

カウンターの奥にあるビール醸造の設備は、チリやドイツ、北米から輸入。ラガー、ヘーフェヴァイツェン、ブレンド、エール、ドゥンケルヴァイツェンの5種類と、期間限定ビールが1種類があり、総製造量は1カ月約7,600リットル、発酵用タンクは3,000リットル用が2基と1,500リットル用が5基あるため、結婚式や誕生日などのパーティにも対応可能だ。鮮度の維持を重視するため瓶詰めはしないが、オーダーがあれば業務用のビールサーバーごとレンタルしている。工場直送の新鮮なクラフトビールが自宅で味わえると好評だ。

同店のこだわりは、1516年にドイツで制定された時点の「ビール純粋令」(大麦、ホップ、水の3つの原料以外を使用してはならないという法令。16世紀半ばには、ここに酵母が追加される)を守ること。そのため、原料は麦芽、ホップ、水の3種類のみで、酵母は使用しない。「天然素材にこだわって作るクラフトビールは、味がよいだけでなく体にもいいんです」と語るのは、代表のサラ・レフェヴレ氏。同店のビールのアルコール度数は4.5~6%と比較的低めだが、これも「酔うためではなく、家族や友人との会話を長く楽しんでもらうため」と説明する。また、ビールとレモン系炭酸飲料を合わせた「ラ・クラリータ」(7ソレス=約270円)も提供し、ビールが苦手な人にも好評だ。

土地柄、街を散策している旅行者がふらりと立ち寄ることも多いため、メニューはスペイン語と英語で表記されている。また、地元の人にも気軽に通ってもらえるよう、前菜とメインのセット(フレッシュサラダと骨付き豚肉のローストなど)と、好みのクラフトビールを1杯(300ml)付けた日替わりメニュー(17ソレス=約660円)を用意している。これらの取り組みが功を奏し、オープンから1年半でフェイスブックの「いいね!」が1万6,000件を突破。口コミでファンが広がっている。

人気メニューの「ピッツァ・モラーダ」(32ソレス=約1,250円)。ピザ生地にペルー名産の紫トウモロコシの粉を練り込むことで、色鮮やかで歯触りが軽い仕上がりになっている
同店で作られる「エール・ビール」を生地に練り込んだ手作りパンもある。このパンにチョリソ・ソーセージを挟んだ「チョリパン・セルベセロ」(9ソレス=約350円)がおすすめ
代表のサラ・レフェヴレ氏。スペイン出身の彼女は、生まれ故郷の地元紙に「ペルーでクラフトビールを広める唯一のスペイン人女性」として紹介されたことも
SHOP DATA
バランコ・ビア・カンパニー(Barranco Beer Company)
Av. Miguel Grau 308 Barranco – Lima,
https://www.facebook.com/BarrancoBeerCompany

取材・文/原田慶子

※通貨レート 1ソル=約39円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。