スウェーデン発 和食店がヒット! 前編

スウェーデンでは、1990年代後半に初の寿司店がオープンし、その後、様々な和食の店が登場し、人気を集めている。そのなかから、前編では、首都・ストックホルムで人気の寿司店などを紹介。

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Vol.135

北欧のスウェーデンに、寿司店が初めてオープンしたのが1990年代後半。当初、スウェーデン人たちは「生で魚を食べるなんて!」と日本から上陸した新しい食文化に抵抗感を抱いていた。しかし、それから年月が経ち、“和食”が世界的にも評価されるとともに、ラーメンやお好み焼きなどの専門店も次々に生まれ、着実に受け入れられるようになっている。特に近年人気を集めている店の特徴は、日本の料理や食文化を本格的なスタイルで提供しているということだ。

前編では、スウェーデンの首都・ストックホルムで人気の寿司店などを紹介する。

スウェーデンで人気の寿司店。職人が客の前で寿司を握り、そのまま直接カウンター越しに提供する。日本人には当然の風景だが、現地の人の目には新鮮に映るようだ
和の雰囲気あふれる掘りごたつ。あぐらや正座が苦手なスウェーデン人に大人気。また「明るいと落ち着かない」という人が多いので、照明は抑え気味にするのがポイント
日本料理の人気が高まるにつれ、日本酒を注文する人も増えてきた。「アルコールの注文は、白ワインと日本酒が半々」という店も

ミシュランの星を獲得した本格的な寿司店

ストックホルム中心部の北側に位置するヴァーサスタン地区は静かな住宅街だが、わざわざ遠方から足を伸ばす人がいるような人気のレストランが集まっている。その一つが2014年3月にオープンした寿司店「スシショウ(Sushi Sho)」だ。2016年と2017年、2年連続でミシュランの星を獲得した16席のカウンターだけの小さな店で、連日予約で満席となっている。

小鉢の「ヒラメのエンガワ炙り焼き」。スウェーデンではバーナーでネタを炙ること自体が珍しく、客から驚きの声があがることも。カウンター越しにこうした調理風景を見せるのも売り

オーナーで板前でもある石崎カール氏は、父親が日本人の日系スウェーデン人。この店がオープンする前は、この周辺で「寿司」といえばノルウェーサーモンやゆでたエビの握り、またはカニカマとアボカドのカリフォルニアロールなど、極めて限定的だった。そこで、「職人がカウンター越しに握って提供するスタイルで、本格的な寿司を味わってもらいたい」(石崎氏)と同店をオープンした。

メニューは、握り9つ、手巻き1本、小鉢5品の「おまかせコース(Kockens val av Sushi och kvällens smårätter)」(595クローネ=約7,735円)のみ。ネタは現地の卸売り業者と毎日連絡を取って買い付けており、コースで使う食材は季節ものやその日に入手できる魚によって変わる。特に人気のネタは、スウェーデンでも獲れるマスやスペイン産のマグロ、そして「ニシンの酢締め」だ。ニシンは同じ青魚のサバのように脂がのっていて、酢で締めるとさらに甘みが増す。そこにすり鉢ですったネギのペーストを乗せ、香りにアクセントを加えている。

小鉢で好評なのは「卵漬け」。しょうゆ、酒、みりんで下味をつけたマグロを、薄く輪切りにしたオクラと卵黄を合わせたもの。スウェーデンでは牛肉を同様の調理法で生で食べる料理があるため、抵抗なく食べられるようだ。そのほか、醤油と梅酢で味付けした「ヒラメのエンガワ炙り焼き」も、あっさりとした味の奥に、濃厚な旨味が感じられる一品だ。

ドリンクで目を引くのは、日本酒の銘柄の多さ。一番人気は料理に合わせ、4種類の酒を85mlずつグラスで提供する「日本酒セット」(495クローネ=約6,435円)。オープン当初から比べると日本酒好きの人も増えてきており、注文の割合は白ワインと半々くらい。日本酒メニューの充実も、成功の秘訣といえるだろう。

客層は、30代以上のカップルなどが多く、料理へのこだわりが強い本物志向の人ばかり。以前はサーモンやエビの握りとカリフォルニアロールが主流だったスウェーデンにも、着実に本場の寿司が広がりつつある。

「ニシンの酢締め」は、「味がついているので醤油をつけずにそのままで」とすすめる。「寿司は醤油をたっぷりつけるもの」と思いこんでいるスウェーデン人は最初驚くが、食べてみると寿司の世界の深さがわかり、満足度も上がる
オーナーで板前でもある石崎カール氏。店は午後5時半~深夜の営業で、全席同時にコース料理を提供し、3回転する。土曜日のみランチ営業を行い、コースのみで2回転する
Sushi Sho(スシショウ)
Upplandsgatan 45 113 28 Stockholm
http://www.sushisho.se/

北国の「居酒屋」。人気メニューのキーワードは“濃い味付け”

ストックホルムは小さな島がいくつか集まって構成されている街。その南側に位置するソーデル島はストックホルムのソーホーと呼ばれ、デザインショップやブティックが並び、芸術家も多く住んでいる。その片隅に2012年3月オープンしたのが居酒屋「ブルーライトヨコハマ(Blue Light Yokohama)」。それまで、日本料理店でもメイン料理をボリュームたっぷりに提供するスタイルの店が多かったが、「少しずつ、あれこれと惣菜などをつまめるし、いっしょに来た人とシェアできる」と、様々な料理を楽しめる “居酒屋スタイル”が大評判。日本人には当たり前でも、現地の人には新鮮だったようで、新聞や雑誌でも何度も紹介されている。

ほとんどの人が注文する「チキンの竜田揚げ」。竹ざるに和紙を敷き、その上に盛り付ける。下味のしっかり付いたジューシーな鶏肉が好評

スウェーデンで人気が出る料理のキーワードの1つは、“濃い味付け”で、一番の売れ筋は、「チキンの竜田揚げ」(110クローネ=約1,430円)だ。昆布出汁を使ったタレに24時間以上漬け込み、下味をしっかりと染み込ませたジューシーな鶏モモ肉を、カリカリの衣で包み込む。同様に、昆布出汁を入れた西京味噌に10日間漬け込んで旨味を染み込ませた「銀だらの西京焼き」(125クローネ=約1,625円)も人気の一品。「ソースがかかっていないのに、ちゃんと味がついている!」と、驚く人も多い。

また、“濃い味付け”を好むスウェーデン人は、あっさりとした冷奴よりも、衣に出汁の味わいが絡まる「揚げ出し豆腐」(105クローネ=約1,365円)のファンになる人が多い。これに明太子や梅肉のペーストをのせて、さらに味を濃厚にしている。野菜料理では、味噌の塩気と砂糖の甘みが重なり合う「なす田楽」(90クローネ=約1,170円)の注文が多い。これも味噌にたっぷりとニンニクを入れて味を引き立たせている。

オープン当初は、現地に住む日本人や日本に興味のある人が集まるだろうと予想していたが、ふたを開けてみると、今までなかった“居酒屋スタイル”が現地の人に幅広く受け入れられているという。「子供が食べられるメニューも多い」(オーナー・石踊トム氏)ため、子連れのファミリーにも喜ばれており、着々とファンを拡大している。

自家製昆布出汁入りの西京味噌に半冷凍状態で10日間漬け込んだ「銀だらの西京焼き」は、日本酒もすすむ人気料理の一つ
オーナーの石踊(いしおどり)トム氏。スウェーデンで居酒屋を始めたきっかけは、「自分が食べたい普通の日本食の店がなかったから」だという
Blue Light Yokohama(ブルーライトヨコハマ)
Åsögatan 170,116 32 Stockholm
http://bluelightyokohama.com/

取材・文/中妻美奈子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1クローネ=約13円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。