米国発 シアトルで日本風パンが人気(後編)~和テイストのスイーツも売りに!~

アメリカのパン店で、これまで主流だった食パンやバゲットとは一線を画す、日本風のパンが人気だ。前編では「パン」を中心に紹介したが、後編では「スイーツ」も人気の2店舗を取材する。

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更新日:2022.7.12

Vol.142

目次
現地の人に受け入れられた「抹茶小豆マフィン」や「柚子マカロン」
 フレッシュ・フラワーズ(Fresh Flours) ウエスト・シアトル店
“また食べたくなる”やさしい味の、「ショートケーキ」&「抹茶ロール」
 もだん(Modern)

 アメリカの店で販売しているパンというと、食パンやバゲットなどが大半。菓子パンも種類が限られ、甘みの強いものが多い。そんななか、近年、バラエティ豊かで甘さ控えめな日本風のパンやケーキが人気を呼んでいる。数年前は新しい物好きや日本通の人だけが買っていたのが、今では一般的なアメリカ人が手にするまでになっている。

 前編では「パン」を中心に紹介したが、後編では「スイーツ」も人気の2店舗を取材。日本風スイーツがなぜ人気を呼んでいるのか、その秘密を探る。

商品のバリエーションも多彩で、「小豆クロワッサン」や「抹茶クッキー」など“日本”を感じさせる食材を使ったパンやお菓子を販売する店も増えている
左の皿は、ごまクッキー(上)と抹茶クッキー(下)。右の皿は、バター香る濃厚なケーキ生地でこしあんをサンドしたあずきミニバー。豆を甘く煮て菓子などに使うのは、かつて欧米では一般的ではなかったが、今や小豆を使ったスイーツや菓子も抹茶と並んで人気となっている
「いちご大福」のお供として、緑茶を提供。温かいお茶は和菓子に合うと好評。緑茶のほか、ほうじ茶、玄米茶、紅茶をそろえる

現地の人に受け入れられた「抹茶小豆マフィン」や「柚子マカロン」

 アメリカ西海岸の最北部に位置するシアトルの中心部から、車で約15分。住宅が多いウエスト・シアトル地区に、2016年4月、ベーカリーカフェ「Fresh Flours(フレッシュ・フラワーズ)」の3号店がオープンした。日本人の峰松悦子氏、洪(こう)敬司氏が共同経営者としてシアトルに1号店を開いたのが2005年の7月。当時シアトルには、バラエティーに富んだパンを販売するベーカリーが少なく、瞬く間に人気店となった。

「抹茶小豆マフィン」。濃厚な抹茶と小豆の甘納豆が絶妙に調和している。人気が高く、早々に売り切れてしまうことも

 オープン当時から特に人気が高いのが、「抹茶小豆マフィン(Green Tea and Azuki Maffin)」(3ドル=約342円)。緑が鮮やかなしっとりとした生地をかじると、濃厚なお茶の香りが鼻をくすぐる。生地にはバターではなくサワークリームを使っており、口当たりはさっくりと軽く、ところどころに顔を出す小豆の甘納豆が、ほのかな甘みを加えている。

 同じく人気なのが「柚子マカロン(Macaron: Yuzu)」と「抹茶マカロン(Macaron: Green Tea)」(各1ドル50セント=約171円)。生地にもフィリング(間に挟むクリーム)にも、日本から直輸入した柚子ピューレと抹茶がそれぞれたっぷり使用されている。甘みが抑えられている分、柚子と抹茶の風味を存分に味わうことができ、アーモンドプードル(粉末状のアーモンド)を使った繊細な生地は、口に入れた途端ほろっと崩れる。

 オープン当初は、「グリーンティーってどんな味?」「アズキって何?」と尋ねる人もいたが、販売から12年を経た今、そのような質問をする人はほとんどいない。アメリカの有名コーヒーチェーンでも抹茶を用いた定番メニューが販売されるなど、抹茶や小豆が健康的な食品として広く認知されてきたことも、人気を後押ししている要因かもしれない。ほかに抹茶は「クッキー」(80セント=約91円)で、小豆は「ミニバー(クリーム入りビスケット)」(2ドル=約228円)でも、それぞれ使っており、こちらも高い人気を得ている。

 来店客のほとんどは、近隣に住むアメリカ人。最初は、現地の日本語新聞などに広告を出していたが、「日本人だけでなく、近くの住民にもリピーターになってもらわないと長く続けられない」と考え、オープンから数年後には、あえて“日本風のパン”を前面に打ち出すことはやめたという。店をアピールする際のキャッチフレーズも「おいしいお菓子とコーヒー」として、日本を匂わす言葉は1つも入れていない。その結果、地元のアメリカ人が日常的に抹茶や小豆、柚子を口にする風景が生まれた。日本料理店と同様、日本風のパンやスイーツを売る店にも、「主な客層=現地の人」という時代がやってきたようだ。

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人気のスイーツ「柚子マカロン」(右)と「抹茶マカロン」(左)。マカロンは、「ラズベリー」「チョコレート」「アールグレー」など全部で10種類ある
「スタッフもお客さんも居心地のいい店」が、共同オーナー・峰松氏のポリシー。大きな窓から光が差し込む心地よい空間に惹かれ、毎日のように通う人も多い
フレッシュ・フラワーズ(Fresh Flours) ウエスト・シアトル店
9410 Delridge Way South West, Seattle, WA 98106
http://www.freshfloursseattle.com/

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“また食べたくなる”やさしい味の、「ショートケーキ」&「抹茶ロール」

 「緑に囲まれた閑静な住宅街」という表現がぴったりのシアトルのフィニー・リッジ地区。バーも21時には閉まってしまうのどかなエリアに2015年2月オープンしたのが、日本食カフェ「もだん(Modern)」だ。本格的なケーキが大人気で、ほかに寿司や丼物、うどんなども提供している。店の前身はオーナーの田中せつ子氏が2009年に創業した卸専門の菓子店「せつこペイストリー」で、そのスイーツが評判を呼び、カフェとしてリニューアルするに至った。

もっとも人気がある、「苺のショートケーキ」。3日前までに予約すれば、ホールの販売も受け付けており、アレルギーや好みにも対応する

 一番人気は「苺のショートケーキ(Strawberry Shortcake)」(5ドル=約570円)。新鮮ないちごが入荷できたときしか作っておらず、シアトルのタウン誌でもたびたび紹介されている逸品だ。アメリカにも「ショートケーキ」という名のスイーツはあるが、ビスケット生地で生クリームやいちごをハンバーガーのようにはさんだものが一般的。スポンジとクリーム、いちごが美しく一体化している日本のショートケーキとは似て非なるものだ。アメリカのいちごは日本のものより酸味が強いので、スポンジとクリームの甘さをより際立たせている。

 2番目に人気なのが、「抹茶ロールケーキ(Green Tea Roll)」(4ドル80セント=約547円)。全日空国際線ビジネスクラスのデザートとしても提供され、「機内食で食べたケーキがおいしくて」と店に足を運ぶ人も多い。抹茶は、「緑の鮮やかさが断然違う」(田中氏)ことから、京都・宇治の「小山園」のものを使用。爽やかな抹茶生地が、生クリームと滑らかなつぶあんをやさしく包んでいる。

 いずれのケーキも上品な甘さが特徴だけに、来店客からは「砂糖を入れ忘れているよ!」と言われたこともある。アメリカ人のなかには甘さが物足りないと感じる人もいるようだ。しかし、アメリカン・スイーツにはない繊細な味わいが好評で、一度そのおいしさを知った人は高い確率で常連になっている。客層は8割近くが地元のリピーターで、「自分がおいしいと思う味を求めたら、たどり着いたのが日本のケーキだった」という人も少なくない。「和風」を前面に押し出して、日本人や日本好きという層を狙うのではなく、正面から味で勝負して現地のファンを獲得する時代が到来しているのかもしれない。

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オーナーの田中せつ子氏。広告を出さず、口コミだけでファンを獲得してきた。「時間がかかるけれど、口コミで来てくれたお客さんは確実に長く通ってくれます」と語る
もだん(Modern)
6108 Phinney Avenue North, Seattle WA 98103
http://www.modern-seattle.com/

取材・文/大井美紗子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約114円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。

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