アメリカ発 シアトルで人気の「クラフトハードサイダー」 後編

シアトルで注目を集めている発泡性果実酒「ハードサイダー」。後編では、リンゴ果汁だけでなくほかの果物やハーブを用いて造られたものや、ハードサイダーを使ったカクテルなどを紹介。ー海外トレンドリポート。

URLコピー

Vol.146

世界的なソフトウェア開発会社やインターネット通販会社などの本社があるアメリカ・シアトルでは、現在、ビールでもワインでもなく、リンゴを原料とする発泡性果実酒「ハードサイダー」がトレンドとなっている。特に、「サイダリー」と呼ばれるハードサイダーの小規模醸造所で造られる、クラフトビールならぬ「クラフトハードサイダー」が人気を博している。

前編では、数百種類もクラフトハードサイダーを取りそろえたり、生ビールのように「生クラフトハードサイダー」をサーバーから注いで飲める店などを紹介した。後編では、リンゴ果汁だけでなくほかの果物やハーブを用いて造られたものや、ハードサイダーを使ったカクテルなど、ハードサイダーのさらなる可能性に迫る。

リンゴの種類を変えるだけでなく、ほかの果物やハーブなどを使うことでバリエーションが増えたこともブームの要因。クオリティにこだわりつつ、冒険ができるのは小規模醸造ならでは
リンゴ果汁以外を使うことで、味わいはもちろん、色合いも大きく変化。目でも楽しめるのがクラフトハードサイダーの魅力
「様々なハードサイダーを飲み比べたい」というニーズは高い。そのため、「生クラフトハードサイダー」だけで10種類以上そろえる店も。種類が多いとオペレーションは大変だが、来店客には好評だ

ユニークな食材を使ったクラフトハードサイダーが人気に

シアトル中心部の南側、メジャーリーグ、シアトル・マリナーズの本拠地、セーフコ・フィールドなどがあるSODO(ソードー)と呼ばれるエリア。ここに、約2,787平方メートルの広大な敷地を持つクラフトビールメーカー「トゥー・ビアズ・ブリューイング(Two Beers Brewing)」が、クラフトハードサイダー醸造所「シアトル・サイダー(Seattle Cider)」を開業。そのテイスティングルームとして2013年8月オープンしたのが「ザ・ウッズ(The Woods)」だ。

夏季限定のハードサイダー「ベリー」。これまで、季節限定品として「パンプキン」「クランベリー」「バジルミント」などを提供。季節のフルーツや、野菜、ハーブ、花などを組み合わせて独自のハードサイダーを造っている

同店のハードサイダーの特色は、醸造の過程で甘さを極限まで抑えていること。ベースの甘みを抑えたうえで、リンゴ以外の果実やハーブ、オーガニックの砂糖などを加えて、従来のものとはひと味違うハードサイダーを造り出すことに成功している。

そのなかのひとつ、「ジン・ボタニカル」(6ドル=約654円/約296mlグラス)は、ジュニパーベリー(セイヨウネズの実)、オレンジの皮、キュウリ、ベルベーヌ(ハーブの一種)など、ジンの香りづけに用いられることの多い植物を加えたもの。さわやかさのなかに、繊細かつ複雑な味わいを感じる一杯だ。

また、鮮やかなワインレッドが映える「ベリー」(6ドル=約654円/約296mlグラス)は、夏季限定の商品。アップルサイダーにシアトル産のラズベリーとブルーベリー、ブラックベリーを加えた甘口のハードサイダーだ。3種類のベリーが持つ風味を豊かに感じられるのは、ベースとなるアップルサイダーの甘みを抑えているため。ほか、リンゴのみを原料とする生ハードサイダー「ドライ」(5ドル=約545円/約296mlグラス)も売れ筋。その名のとおり辛口で、香り豊かだが甘みはほとんど感じない。

同じ醸造所で造っていても、種類が豊富で、それぞれの味が異なれば、あれこれ飲み比べてみたくなるもの。そんなニーズに応えるべく、12種類の生クラフトハードサイダーから4種類を選んで試飲をすることも可能だ(12ドル=約1,308円。約89mlグラス。追加も可能)。

客層は20~40代が中心で、男女を問わず、甘さ抑めなため、辛口好みの人にも好評だ。ひと口にクラフトハードサイダーといっても味のバリエーションは豊富にあり、まだまだ大きなポテンシャルを秘めている。

12種類から4種類を選んで少量ずつ試飲できる「飲み比べセット」。右下の「ジン・ボタニカル」は、ジンに使う植物などを加えたことで、ほかにはない味わいを生み出した
人気の「ドライ」は、生または缶で提供。原料のリンゴは、日本人にもおなじみの世界的品種であるフジのほか、ゴールデンデリシャス、レッドデリシャス、グラニースミス、ガーラをミックスしている
Seattle Cider/The Woods
4660 Ohio Avenue South, Seattle, WA 98134
http://www.seattlecidercompany.com

ハードサイダーの“カクテル”&料理との“ペアリング”

シアトル市内のインターベイ地区は、近年様々なオフィスや商店が開業し、開発が進むエリア。クラフトハードサイダーメーカー「ナンバー・シックス・サイダー(Number 6 Cider)」が、2016年3月、同社のハードサイダーのテイスティングルームを兼ねた創作エスニック料理店「シチズン・シックス」を出店した。ここでは、バラエティ豊かなクラフトハードサイダーの可能性をさらに広めようと、様々な試みをしている。

ハードサイダーにテキーラやライムを加えたカクテル「トレイン・ジャンパー」。濃厚な味のハードサイダーは、ハードリカーを加えるだけで個性的なカクテルになる

そのひとつが、ハードサイダーを使ったカクテルの開発だ。例えば、パイナップルやハラペーニョ入りの自家製ハードサイダー「パイナップル・ハラペーニョ・サイダー」にテキーラやライムを加えた「トレイン・ジャンパー」(10ドル=約1,090円)。パイナップルの甘さの中にピリリとハラペーニョの刺激が加わった濃厚な味わいが特徴だ。そのほか、ハチミツとショウガがガツンと利いた自家製ハードサイダー「ハニー・ジンジャー・サイダー」をライウイスキー(ライ麦が原料のウイスキー)などと合わせたカクテル「ザ・コンダクター」(10ドル=約1,090円)などもある。

リンゴだけでなく、様々な食材を使っているクラフトハードサイダーの香りと味わいは、ビールやワインよりも多彩。さらに、ハードサイダーを使ったカクテルは、合わせる酒や食材によってまったく別の味わいになるため、「組み合わせの妙」が楽しめる。

また、同店ではハードサイダーと料理の組み合わせにも力を入れている。プルコギの入った「韓国風ビーフ・タコス」(12.5ドル=約1,363円)など、韓国料理とメキシコ料理を組み合わせた「コリキシカン(コリアン×メキシカン)料理」も提供。これと相性がよいハードサイダーが、ザクロを加えて造った「ポムグラネイト」(7ドル=約763円/約296mlグラス)。甘すぎず、フルーティーな香りと味わいが口いっぱいに広がり、チキンや魚を使ったコリキシカン料理によく合うと好評だ。

主な客層は、流行に敏感な働き盛りの若者たち。味と香りのバラエティに富んだクラフトハードサイダーは、ストレートで飲むのはもちろん、カクテルで楽しんだり、料理との組み合わせも自由自在。これからますます需要が高まりそうだ。

ショウガとハチミツを合わせた「ハニー・ジンジャー・サイダー」。オリジナルのカクテル「ザ・コンダクター」にも用いられている
真っ赤な色合いが鮮やかなザクロを加えて造ったハードサイダー「ポムグラネイト」。スパイシーな肉料理との相性がよい
Number 6 Cider /Citizen Six
945 Elliott Avenue West, Seattle, WA 98119
http://www.citizensixseattle.com

取材・文/ハントシンガー典子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約109円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。