香港発 新感覚アフタヌーンティー 前編

15~18時に甘いスイーツや紅茶などを楽しむ「アフタヌーンティー」。最近、香港ではこれまでとは異なるスタイルが人気だ。前編では、そのなかから和食のアフタヌーンティーなどを紹介。

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Vol.159

もともとはイギリスの食習慣で、その植民地だった香港でも根付いたアフタヌーンティー。ホテルのラウンジなどで、15~18時(アフタヌーン)に、甘いスイーツやセイボリー(食後に食べる塩気のあるスナックなど)といった軽食を温かい紅茶とセットで楽しむというものだ。香港でアフタヌーンティーというと、これまではスコーンなどを提供する「イギリス式」と、中国料理の点心などを楽しむ「香港式」のどちらかが一般的だった。

ところが近年、カフェタイムの集客アップを狙って、どちらにも当てはまらない軽食をアフタヌーンティーとして提供し、人気を呼んでいる店が増えている。前編では「イギリス式」と「香港の地元の特産品」を融合させた店と、「和食のアフタヌーンティー」を提案している店を紹介する。

2~3段重ねのティースタンドに軽食が並ぶのが伝統的なアフタヌーンティーのスタイル(写真は2人分)。スコーンやケーキなどが一般的だったが、から揚げなどを提供する店が香港で増え始めている
伝統的なイギリス式アフタヌーンティーの飲み物は、ティーポットで提供される温かい紅茶が基本。しかし最近は、カラフルな「マングローブドリンク」(写真)など、伝統にとらわれないドリンクも登場
和食のアフタターンティーで提供されている創作和菓子。具材の色が透けて見えるようにライスペーパーを使用するなど、写真映えするビジュアルにこだわり、若い女性やカップルから大好評

“イギリス式×香港の特産品”で新しいアフタヌーンティーを提案

香港最大の島・ランタオ島の西部にある静かな漁村・タイオー。かつて警察署だった歴史的建築物を改装して2012年にオープンした「タイオーヘリテージホテル」のなかに、中洋折衷レストラン「タイオー・ルックアウト(Tai O Lookout)」がある。ホテル内ということもありアフタヌーンティーのニーズはもともと高かったが、2014年からは、伝統的なイギリス式をベースにしながら、地元の特産品を活用したアフタヌーンティーセットを提供している。

手羽先をえびのペーストに漬けて揚げた「手羽先のから揚げ」(右)と、えびペーストと豚肉を和えたものなどをバゲットにのせた「オープンサンド」(左)。アフタヌーンティーの軽食としては斬新なメニューだ

地名にちなんでつけられた全8品の「テイスト・オブ・タイオー・ティーセット」は、毎日15~18時までの間、2人分で218ドル+10%のサービスチャージ(計約3,300円)で提供。3段重ねのティースタンドの一番上には、伝統的なアフタヌーンティーではありえない「手羽先の唐揚げ」と「ポークのオープンサンド」がのっている。どちらも、香港の人にとって“庶民の味”であるエビのペーストで味付けしてあり、その風味が見事なアクセントになっている。

また、中段の皿にある「ヘクソカズラ餅(Paederia Scandens Rice Cake)」も、この店ならではの一品。ランタオ島に自生する薬用植物であるヘクソカズラの果実は、日本では食用に使われることはあまりないが、この地域では昔から体にいい食材として食べられてきた。これを餅に練り込んでおり、ほのかに甘くあっさりとした味で、日本の餅よりも噛み応えがある。

一方、飲み物も一般的なホットティーではなく、冷たい「マングローブドリンク」を提供。島で採れるベゴニア科の植物「マウンテンベゴニア」の葉っぱでできた鮮やかなピンク色のハーブティーに、りんごジュースとレモンジュースが入っているさっぱりしたドリンク。マウンテンベゴニアは消化にもよいといわれており、おやつ以上にあれこれ食べるアフタヌーンティーにはぴったりのドリンクだ。

客層は、ホテルの宿泊客のほか、カップルやファミリーも多い。特に客足が増えるのは休日。店があるタイオーヘリテージホテルは、香港の中心部からフェリーやバスを乗り継いで約2時間なので、平日のランチやディナーのために行き来するのは難しい。しかし、休日に自然に触れる小旅行がてら訪れるにはちょうどいい距離で、アフタヌーンティーでお腹を満たしてからでも夜遅くならずに帰宅できる。都心から遠く交通の便もよくない島だが、特徴的なアフタヌーンティーセットが呼び水となり、観光客などの獲得につながっている。

スイーツにはベゴニアなどの島で採れる食材を使っている。メレンゲ状にしたスフレチーズケーキの上にベゴニアエキス入りのゼリーをのせた「ベゴニアチーズケーキ」(右)は、ベゴニアの酸味とほのかなチーズの風味がよく合うスイーツ
ティースタンドの一番下のプレートには、(左から)「エッグタルト」「くるみクッキー」「ヘクソカズラ餅」が並ぶ。どれも「飲茶」の定番スイーツで、アフタヌーンティーで提供されるのは珍しい
タイオールックアウト(Tai O Lookout)
Shek Tsui Po Street, Tai O, Lantau Island
http://www.taioheritagehotel.com

“巻き寿司&団子×日本茶”のヘルシーな「和食アフタヌーンティー」

香港・九龍半島の先端に位置する古くからの繁華街、チムサーチョイ。そのクルーズ船寄港ターミナルにある大型ショピングモールに、2017年7月、香港1号店をオープンしたのが、日本国内外に200店舗以上を構える地鶏居酒屋「塚田農場(Tsukada Nojo Shop)」(株式会社エー・ピーカンパニー)だ。

見た目もおしゃれでヘルシーな和の軽食と日本茶。窓からはビクトリア湾と対岸の香港島が望める絶好のロケーションもアフタヌーンティーには最適。「ちょっと優雅で贅沢な午後を過ごしたい」という女性を満足させる要素がそろっている

自社農場で育てた地鶏や香港の地場野菜などを使った料理を売りにする一方で、香港店オリジナルメニューとして目を引くのが全10品の「塚田アフタヌーンティーセット」。毎日14時30分~16時30分の時間限定で、2人分を368ドル+10%サービスチャージ(計約5,500円)で提供。香港では、ランチ後にアイドルタイムを数時間入れる飲食店も多いが、アフタヌーンティーのニーズを取り込む狙いで、日本らしい料理とお茶を組み合わせた「和食のアフタヌーンティーセット」を用意している。

軽食がのるティースタンドは2段重ねで、上段は「磯部団子」「ずんだ団子」「みたらし団子」「黒蜜黄な粉団子」「抹茶ティラミス」「ほうじ茶ティラミス」「黒ごまアイス」「マンゴーアイス」「紫芋ドーナツ」など13種類のスイーツの中から、1人3種類を選べる。香港の女性から特に人気なのが、日本らしい「黒蜜黄な粉団子」と、香港で人気のフルーツ、マンゴーを使った「マンゴーアイス」だ。上段には、この選べるスイーツのほかに、スイーツの生春巻き「美人スイートライスペーパーロール」などものる。中身は色鮮やかな季節のフルーツと白玉、あんこの組み合わせ。甘酸っぱいフルーツとあんこがよく合う。

一方、下段には、「アボガド&サーモン」や「穴子&クリームチーズ」など毎日具材が変わる一口サイズの巻き寿司が2品。また、生春巻きも2品あり、1つは、えびやキュウリ、卵焼き、たくあんなどを巻いた太巻き風。もう1つは、香港人に人気のうなぎのかば焼きを新鮮な生野菜などとともに巻いたもの。ほかに、プチトマトと、黄色いパプリカ、キュウリの酢漬けも添えられており、さっぱりとした味わいはもちろん、赤、黄、緑の鮮やかな色合いも、アクセントになっている。

飲み物は、紅茶やコーヒーのほかに、煎茶、桜煎茶、ほうじ茶という3種類の日本茶からも選べる。急須に入って出てくる日本茶の評判もよく、独特の香りが広がるほうじ茶が人気だ。

アフタヌーンティーは、若いカップルや女子会での利用が多く、現地の30代の女性が中心。普段はケーキと紅茶を楽しんでいる人に向けて、「いつもとちょっと違うアフタヌーンティー」を提案することで、新たなニーズを取り込むことに成功している。

様々な団子や最中付きのアイス、ティラミス、ライスペーパーロールなど、色鮮やかな和のスイーツが楽しめると好評
少量ずつ楽しめるように生春巻きや巻き寿司は一口サイズ。生春巻き用に「自家製ポン酢&スイートチリ」「自家製うなぎ用のタレ」を、巻き寿司用に「醤油」を用意している
塚田農場(Tsukada Nojo Shop)
OTE 202,Level 2 Ocean Terminal, Harbour City, Kowloon
https://www.facebook.com/TSUKADA.NOJO.HongKong/

取材・文/りんみゆき(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1香港ドル=約13.7円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。