香港発 新感覚アフタヌーンティー 後編

15~18時くらいにスイーツなどの軽食と温かい紅茶を楽しむ食習慣「アフタヌーンティー」。最近は様々な飲食店が取り入れ始めている。後編ではベトナム料理店とタイ料理店の事例を紹介する。

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Vol.160

15~18時くらいにスイーツやセイボリー(塩気のあるスナックなど)といった10種類前後の軽食と、温かい紅茶をゆっくり楽しむ食習慣「アフタヌーンティー」。香港では、イギリスの植民地時代に浸透し、オーソドックスな「イギリス式」や中華の点心を中国茶とともに提供する「香港流」が主流だった。

ところが最近、様々な業態の飲食店がカフェタイムの集客アップを狙って、これまでにない料理やドリンクのアフタヌーンティーを提案し始めている。

前編では和食居酒屋の事例などを取り上げたが、後編ではベトナム料理店とタイ料理店のアフタヌーンティーを紹介する。

アフタヌーンティーの軽食は手でつまめるものが基本。少量でも品数が豊富で、満腹感を得られることが人気を呼ぶポイント
カフェラテのほかノンアルコールを含むカクテルなど、アフタヌーンティーの伝統にとらわれないドリンクを提供して差別化を図る店も多い
従来のアフタヌーンティーは三段重ねのティースタンドで提供されるが、スタンドを使わずに提供する店も登場

生春巻きなど「ベトナム風アフタヌーンティー」が好評

ホテルが建ち並び、多くの観光客で賑わう香港有数の繁華街・チムサーチョイ。そこにあるザ・ロイヤルガーデンホテル内のベトナム料理店が「ル ソレイユ(Le Soleil)」だ。2007年のオープン以来、ランチ後はアイドルタイムを設けていたが、2015年から15時~17時30分限定で香港初の「ベトナム料理のアフタヌーンティー」(2人分、388ドル=約5,230円)の提供を始めた。当初は土・日曜日のみだったが、評判がよかったことから、現在は平日も提供している。

アフタヌーンティーでよく使われる白い丸皿ではなく、細長い黒のプレートに盛り付けてある。生春巻きなどベトナム料理店ならではの軽食が特徴

三段重ねのプレートには、上段に3種、中段に5種、下段に2種のスイーツやセイボリーが並ぶ。上段は、「ミニバーガー」「海老クラッカー」「生春巻き」。「ミニバーガー」は、生のパパイヤを入れてベトナム風にアレンジ。グリルした肉の濃厚な旨みとパパイヤのシャキシャキとした食感の組み合わせが絶妙だ。

中段はスイーツで、甘い香りのハーブ・パンダンリーフを使った「パンダンエッグタルト」のほか、「ココナッツケーキ」「ベトナムコーヒー味のクレームブリュレ」「ドラゴンフルーツゼリー」「バタフライクッキー」が並ぶ。バラの花をかたどった「ドラゴンフルーツゼリー」は、ドラゴンフルーツとココナッツミルクのゼリーが2層になっており、まろやかなココナッツミルクの風味とドラゴンフルーツの種のプチプチとした食感がアクセントになっている。

下段には、ベトナム料理の定番で同店の一番人気でもある「揚げ春巻き」などがのっている。ナンプラー、ライム、ニンニク、スライスした唐辛子などを混ぜ合わせた自家製ソースにつけて食べると、パリパリの皮と豚肉のミンチや春雨などの具材が口の中で見事に調和する。

ドリンクは、アフタヌーンティーとしては多い13種類のなかからチョイス。「ライムソーダ」「アップルライチアイスティー」「パッションフルーツアイスティー」などのさっぱりしたものから、「小豆ココナッツミルク」「緑豆ココナッツミルク」などの濃厚なものまで幅広い。底に小さい穴がたくさん空いているフランス式フィルターで抽出し、コンデンスミルクを加える伝統的な「ベトナムコーヒー」も人気が高い。

客層は、宿泊客のほか、女性を中心とした20~30代のビジネス層。商談の場としても利用され、ビジネスランチならぬ“ビジネスアフタヌーンティー”の利用が増えている。

フランス式フィルターで抽出する「ベトナムコーヒー」を提供する店は、香港ではごくわずか。「ドリップしている間もコーヒーの香りを楽しめる」と、これを目当てに来店する人も多い
鮮やかな緑色の「パンダンエッグタルト」は、い草に似たパンダンリーフが入っており、ほのかに甘い。プレートの中央にある「ココナッツケーキ」は、ココナッツを混ぜて作ったカップケーキの上にドライココナッツをトッピングした一品
ル ソレイユ(Le Soleil)
3/F, The Royal Garden, 69 Mody Road, Tsimshatsui East, Kowloon, Hong Kong
https://www.rghk.com.hk/en/dining/le-soleil.php?restaurant_rghk_le_soleil_select_restaurant

タイ料理店では、アフタヌーンティーでカクテルも提供

香港・九龍半島西部にある、香港一高い建物・環球貿易廣場。ここに隣接する高級ショッピングモール内のタイ料理店「マンゴツリー(Mango Tree)」では、2013年のオープン当初、カフェタイムの集客アップを狙い、麺料理のセットを提供したり、ハッピーアワーを実施するなどしていたが、なかなか成果が上がらなかった。そこで2014年からアフタヌーンティーセットをタイ風にアレンジして提供したところ、これが大ヒットした。

木製の什器やインテリアが並ぶ店の雰囲気に合うように、プレートも木製のものを使用している。従来とは異なり、スイーツとセイボリーのプレートを別々に提供。どちらか一方のみのオーダーも可能で、「スイーツだけを食べたい」など様々なニーズに対応する

もともとアフタヌーンティーは、低いテーブルや狭いテーブルで軽食やお茶を楽しむスタイルだったことなどから、スペースを有効に使えるよう皿を縦に並べるティースタンドが使われていた。しかし同店では、2017年からティースタンドを使わず、2つのプレートを別々に提供。プレートは、セイボリー(228ドル=約3,070円)とスイーツ(128ドル=約1,730円)で、それぞれ単独でもセット(298ドル=約4,020円)でもオーダーが可能だ。

セイボリーのプレートには、タイ料理で定番の「ビーフサラダ」「ポメロサラダ」のほか、「チキンサテー」や「蟹の生春巻き」「蒸しサゴ団子」「エビのグリル」が並ぶ。「ビーフサラダ」は牛肉とエシャロットを、酸味のあるフルーツ・タマリンドから作ったソースで和えたエスニックな味わい。「ポメロサラダ」は、ザボンに似たポメロというフルーツの果肉を、ピーナッツと焼きココナッツ、ナンプラーで味付けした一品。この2つは、手で食べる軽食が多いアフタヌーンティーでは珍しく、箸やフォークを使うメニューだ。

一方、スイーツのプレートは、もち米の上にココナッツミルクとマンゴーをのせた「マンゴースティッキーライス」など。緑豆で作った餅にドライココナッツのスライスをまぶした「ココナッツ餅」も人気が高い。

ドリンクは、アフタヌーンティーでは珍しいカクテルとモクテル(ノンアルコールカクテル)など、計9種類から選べる。ラム酒ベースの「パイナップルモヒート」は、パイナップルの濃厚な甘みとライムのさわやかさが重なり合う南国風のカクテル。ウォッカとテキーラベースの「ウォーターメロンポップ」は、スイカのほのかな甘みが絶妙なアクセントになっている。冬期は、この9種類のほかに「塩キャラメルコーヒー」「ローズタイミルクティーラテ」「ペパーミントココア」といったホットドリンクも加わる。

高級ショッピングモール内という場所柄、平日は、アッパー層の女性が買い物の合い間に立ち寄ることが多く、週末になるとファミリーやカップルが増える。従来とは異なる軽食を提供するほか、アルコールを飲みながら午後のひと時を過ごすこともできる新感覚アフタヌーンティー。今後も様々な飲食店で、ランチとディナーの間にある閑散時の集客策として取り入れられそうだ。

東南アジアで定番の焼き鳥「チキンサテー」は、ピリ辛ソースを入れたグラスの中に立てている。ティースタンドを使わないこともあり、立体感を出した盛り付けが可能になった
「蒸しサゴ団子」はタイの庶民的おやつ。ヤシの木の幹から採ったでんぷん質「サゴ」で作るほんのり甘い餅で、チリ味の肉団子を包んでいる
マンゴツリー(Mango Tree)
Shop 2032, Elements, 1 Austin Road West, Tsim Sha Tsui, Hong Kong
http://www.mangotree.com.hk/mangotree/

取材・文/りんみゆき(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1香港ドル=約13.5円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。