ベトナム発 アジア進出が続くベトナム流コーヒーの魅力とは

独自のカフェ文化を持つ国・ベトナム。近年では、「エッグコーヒー」「ベトナムミルクコーヒー」などを売りに、海外進出する店が増えている。これらのコーヒーの魅力迫るべく現地の人気店を取材した。

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Vol.181

 ベトナムでは、フランス統治時代にカフェ文化が根付き、そこに現地の人たちの嗜好が融合して、独自のコーヒーメニューが生み出されてきた。卵黄を泡立てた濃厚クリームを用いる「エッグコーヒー」や、牛乳とシロップではなく練乳をコーヒーに注ぐことで、白と黒の2層のコントラストが生まれる「ベトナムミルクコーヒー」などがその代表例だ。

 こういったベトナム独自のコーヒーが、昨年あたりからにわかにアジアを中心に注目を集め始めている。「エッグコーヒー」発祥の店といわれ、60年以上もハノイの1店舗で営業してきた「CAFE GIANG(カフェ ジャン)」が、2018年4月、横浜の中華街に2号店を出店。また、同年7月には、オリジナルの看板メニュー「ココナッツミルクコーヒー」が大人気のカフェチェーン「コンカフェ(Cong Caphe)」が、韓国・ソウルで海外初出店を果たした。そんなベトナム流コーヒーの源流と魅力を、海外に進出した両店舗の本場ベトナムでの人気ぶりからひもとく。

海外進出を果たした「エッグコーヒー」発祥の店

 ベトナムの首都・ハノイの旧市街。観光エリアの中心地で、多くの車とバイクが往来する通り沿いに控えめに佇むのが、エッグコーヒー発祥の店といわれる「ジャンカフェ(Giang Cafe)」だ。

 1946年、創業者のグエン・ジャン氏は、流通網が未発達で手に入りづらかった牛乳の代わりに、溶いた卵黄を混ぜたコーヒーを考案。これを看板メニューに10年後に「ジャンカフェ」を創業した。ベトナム戦争後、市場経済の導入で流通の問題が解消されたことにより 、少量であれば牛乳も入れられるように。しかし、独特のコクを感じられるコーヒーとして好評だったこともあり、レシピを変えずに販売を続けた。やがて、その人気を受けて他店もまねをするようになり、近年ではホーチミンなどベトナム各地に広がっていった。

 創業当時の味を守り続ける「エッグコーヒー」(25,000ドン=約117円)は、ミルクセーキに似た味だが、見た目はまるで異なる。ロブスタ種の豆を使った苦みの強いコーヒーをカップの1/3ほどまで注ぎ、その上から、砂糖と練乳、卵黄を合わせて泡立てた濃厚で弾力のあるクリームを、フタをするように乗せる。コーヒーとクリームをかき混ぜて飲むのが一般的で、甘くまろやかなクリームと苦みの強いコーヒーの相性は抜群。トロリとした濃厚な口当たりは飲み物というよりも、“大人のデザート”といったところだ。ホットで飲む人が多いが、ハノイの夏は日本以上に蒸し暑いため、クラッシュアイスを入れて飲むことも珍しくない。

コーヒーの上に濃厚な卵黄クリームを注いだ「エッグコーヒー」。スプーンを入れると、クリームの密度と弾力がよくわかる。かき混ぜることで苦みの強いコーヒーとの調和を堪能できる

 ほか、「エッグコーヒー」のアレンジメニューも提供。「ラム入りエッグコーヒー」(45,000ドン=約210円)は、コーヒーとラム酒の香りを濃厚な卵黄クリームがしっかりと受け止めた大人の味わい。「抹茶エッグコーヒー」(45,000ドン=約210円)は、コーヒーの苦みと抹茶の渋みが甘い卵黄クリームのなかで絶妙なアクセントになっている。

エッグコーヒーに抹茶パウダーをふりかけた「抹茶エッグコーヒー」。ベトナムでは日本食がブームとなっており、特に抹茶は若者に人気。こうしたトレンドを取り入れることで、若い層の集客にもつなげている

 店を始めてから60年以上にわたって1店舗のみでの営業を続けてきたが、熱烈なオファーを受けて日本への出店を決意。ヨーロッパや中東からも出店の誘いが来ており、ハノイで守られてきた“元祖”エッグコーヒーが、世界で注目され始めている。

創業者の長男、グエン・ヴァン・ダオ氏。現在、オーナーは弟が務めており、「エッグコーヒー」の味を一家で守りつつ、新メニューの開発にも力を注いでいる
ジャンカフェ(Giang Cafe)
39 Nguyen Huu Huan, Hang Bac, Hoan Kiem, Ha Noi, Vietnam
http://www.giangcafehanoi.com/

ココナッツミルクやヨーグルトを用いたアイスコーヒー

 2007年に創業した「コンカフェ(Cong Caphe)」は、2015年頃から店舗展開のスピードを早め、現在ベトナム全土に53店舗を構えるカフェチェーン。2018年7月には、韓国・ソウルで海外初出店を果たした。

 一番人気は、濃く苦いロブスタ種の豆を使ったアイスコーヒーに、まろやかで甘いココナッツミルクのスムージーをたっぷりと盛った「ココナッツミルクコーヒー」(45,000ドン=約210円)。スムージーのシャリシャリといった食感も相まって、コーヒーいうよりはアフォガードのようなデザートを食べている感覚に近い。 大人向けのドリンクかと思いきや、ベトナムでは若い人もコーヒーを好んで飲むため、学生からの人気が高いという。

「ココナッツミルクコーヒー」。ココナッツを加えたのは、ハノイの人たちにとって“懐かしの味”であるアイスキャンディー「チャンティエンアイスクリーム ココナッツミルク味」から着想を得たとのこと

 また、ヨーグルトをブラックコーヒーと合わせた「ヨーグルトコーヒー」(40,000ドン=約189円)も人気。コーヒーの苦みがヨーグルトの酸味と甘みに和らげられ、デザート感覚で楽しめる一品。日本人からすると意外な組み合わせだが、お腹にも溜まるので地元で長く愛されている。

「ヨーグルトコーヒー」。ベトナムでは、カフェだけでなく家庭でも日常的に飲むドリンク。もはや誰が考案したのかわからないほど定番化している

 さらに、コーヒーメニューではないが、さきほどのココナッツミルクのスムージーに小豆のペーストを混ぜた「小豆入りココナッツミルクスムージー」(65,000ドン=約304円)も人気。ほんのり甘くまろやかなココナッツミルクのなかで、小豆の強い甘みがアクセントになっている。“あんこ味のシェイク”といったドリンクで、スムージーのシャリシャリとした食感によって、甘みにくどさを感じないのもポイント。ほかにも、 小豆ではなく緑豆を入れたものもあり、いずれも若者からの人気が高い。

 実は、これらのメニューはベトナムに古くからあったもの。それらをレトロなインテリアの店で提供したことで、10~20代の学生やビジネス層からの関心を集め、“懐かしさ”をフックに中高年も引き寄せた。「近い将来、世界各地に店舗を展開していく予定です」と、マーケティング担当のチャン・ティエン・ダット氏は海外進出に自信をのぞかせる。韓国での出店をファーストステップに、さらなる飛躍を目指している同店。「ココナッツミルクコーヒー」を引っさげて日本に上陸する日も、そう遠くはないかもしれない。

ベトナム戦争前のフランス統治時代の優雅な雰囲気が漂う店内。レトロなデザインやインテリアは、当時生まれていなかった高校生や大学生にとっては新鮮で、おしゃれな空間として捉えられているようだ
コンカフェ(Cong Caphe)
35A Nguyen Huu Huan, Ly Thai To, Hoan Kiem, Ha Noi
http://congcaphe.com/

取材・文/ネルソン水嶋(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドン=約0.0047円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。